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落ちこぼれ王女の魔法修行記  作者: 彩華 芽依
第1章:カーバンクル亜種捕獲クエスト編
25/30

  :静寂な夜の過ごし方3

遅くなってしまってすみません。もしかしたらこれが年内最後の更新になるかもです。





「・・・・・・・・・・眠れない・・・・・・・・」





ざわざわと、胸の奥が燻る感覚にエリスはそっとベッドから身を起こした。その隣ではすやすやと健やかな寝息を立てて眠るルーチェの、穏やかな寝顔が見え、エリスはくすりと笑みを零すと、彼女を起こさぬようそっとそこから抜け出した。




大きな窓から覗く星空は王都で見るよりも煌びやかで、吸い寄せられるように歩み寄り、そこから見上げれば、本当に宝石を散りばめたようにきらきらと、漆黒の夜空を彩っていた。




(・・・・・・外で見ると、もっと綺麗に見えるのかな?)




どうせ目が冴えて眠れないのならば星空を眺めながら、魔力を上手く導き出す特訓をするのも良いかもしれない。魔力さえ引き出せるようになれば、この状況を、いち早くフェリア姉さまやルゥに知らせることができるはずなのに・・・・・・と、エリスはそっと溜息を零した。





魔力暴走前までは、自分の魔力に怯えながらでも、それでも自由に(完璧に制御することは出来ていなかったが)使えていたのだが、今では全く使えない・・・完全に失ったわけではないし、意識すればちゃんと自分の中にあるのは解るのに、アルトゥールの言う通り、今までのやり方では全く意味をなさない現状にエリスも別の意味で不安を抱いていたのだ。





(・・・コツさえ掴めば、以前よりも上手く魔法が使えるようになるって・・・アルトくんも言ってたし・・・)





と、エリスは無意識に胸の前に手を当てた。先程までは燻るような熱をそこに感じていたのだが、今は何事もなかったかのように凪いでいる。気のせいだったのかな?とエリスは一瞬考えたが、しかし、この奥にあるであろう、アルトゥールの生命石の欠片は今も尚、彼との繋がりが深く、エリスの脳裏にはアルトゥールの身に何か異変が起きたのでは?と瞬時に疑問が湧き上がってきた。




「アルトくん・・・・・・こんな夜中に、何かあったのかな?」




心配にはなるけれど、彼の部屋に乗り込むには、淑女の嗜みとして気が引けるし、何より彼の部屋がどこにあるのかエリスは知らない。ならば、と。先程窓の外から見えた存在に声をかけておくべきだろうと、エリスはそっと、扉の音を立てないよう気を配りながら廊下へとすり出て行った。










































「アレク!」




「ん・・・?あれぇ、エリス?どうしたの、こんな夜中に・・・・・・」





眠れないの?と自身が張る結界の中から可愛く首を傾げてみせたアレクサンドルに、エリスは素直にこくんと頷いた。





「うん・・・ちょっと、気になることがあって・・・ね。」




「気になること?」




「そう・・・アレクはアルトくんとも・・・その契約関係にあるんでしょう?」




「んー・・・正確には契約関係じゃなくて『主従関係』だね。『アレクサンドル(ボク)』という存在は金剛石の初代守護者によって生み出されたものなんだ。・・・長い年月を経て名を変え、姿を変えようとも、彼らの存在(ほんしつ)は変わらない。――――――人間が所属する国の王に忠誠を誓い、跪き、頭を垂れる様に、ボク達カーバンクル一族は宝石王国の王族を唯一無二の存在としているんだよ。」




だから、アルト様がボクに命じることは、エリスを含め魔力ある者たちの嘆願(ねがい)よりも優先順位は高いし、決して逆らうことができない・・・逆らう気も起きないんだよね。と、照れているのだろうか、もふもふの尻尾を軽やかに振るアレクサンドルにエリスはそっと目を細めながら微笑むと「じゃあ・・・」と本題を切り出した。





「アルトくんとの繋がりは私よりも強いんでしょう?・・・アルトくんが今、何処で何をしているのかってわかる?」




「・・・・・・ん?う・・・ん・・・・・・わかるといえば解るけど・・・・・・」




「・・・俺がどうかした?エリス様(マイスター)??」




「!!?」




「あ、お帰りなさい、アルト様~。しっかり鍛錬できましたか?」




「・・・まぁ、途中想定外のことが起こったけど、まぁ、いつも通り滞りなく?それより・・・エリス様(マイスター)、こんな時間まで起きてて大丈夫なのかい?」




「え・・・あ・・・・・・うん・・・・・・なんだか眠れなくて・・・・・・それよりもアルトくんが無事みたいで良かったよ。」




「え?」





ホッとした表情を浮かべたエリスにアルトゥールが首を傾げると、エリスは先程の胸のざわつきを説明すると、彼はあーっと困惑した表情を浮かべながら天を仰いだ。




「・・・・・・悪い、エリス様(マイスター)。俺が感じ取れるように、エリス様(マイスター)にも俺の感情が伝わるんだってことすっかり失念してた。・・・いや、ちょっと久々にすっげぇ腹立たしいことが起こって・・・さ。」





と、気まずそうに呟いたアルトゥールにエリスは特に不審がる様子もなく「へぇ~、そうなんだ・・・」と、彼が無事ならそれでいいと言わんばかりの穏やかな様子を見せ、それがアルトゥールには余計に気まずさを増長させてしまったのだが、まぁ、知らない方が彼女のためだろうと、自身を納得させた。





「でも、珍しいですね。アルト様がそんなに激怒するなんて?」




「やー・・・半分は俺の認識違いではあったんだけどなぁ・・・・・・まぁ、何にせよ結界側(こっち)と俺たちの国の教育方針というか・・・生き方の違い?っていうのに、ぶち当たったというか・・・・・・」




やーエリス様(マイスター)の国って平和でいいですね。と、苦笑したアルトゥールに、これはエリスの疑問にも引っかかったのだろう、首をこてんと傾げてみせた。





「平和・・・・・・といえば、平和かもだけど、うちの国にもそれなりに魔物の襲撃とかはあるんだよ?」




「魔物ったって動物にちょっと力が加わった程度のものだろう?・・・あのな、エリス様(マイスター)。真に恐ろしいのは人間なんだぜ?」




「・・・え?」




「知恵もあって、それを実行するだけの権力や武力もあればもう、怖いものなし。欲望のままに動かれた日には民をも巻き込んで国全体が血の海に沈みかねない・・・人間の心っていうのはどんな魔物よりも【深淵の毒(エヒト・ギフト)】を取り込みやすいんだよ。いくつもの欲望を、その心に宿しているからね。」




食欲一つ取っても、美味しいものが食べたい、たくさん食べたい、豪華な食材を使ったものがいい、と、考えれば考える程複雑で、願望も高くなる。けど魔物たちは本能のまま、食べられればそれでいいっていう考え方のはずなんだよな。




「まぁ、量より質を取る魔物や動物も中に入るだろうけど、それをどう調理して美味しく食すか、なんて考えているわけでもないし、その技術も持たない。この世界でそんな高等な技術を持ち得るのは人間様だけだからね。」





「た・・・確かに・・・・・・」




「・・・ま、人間同士の争いが少ないのは良いことだよ。そう言う意味の平和が長く続いてるんだから、この国は良い国だよ。・・・で?エリス様(マイスター)、話は逸れちゃったけど、こういうのが聞きたかったわけじゃないんだろ?」





と、アルトゥールがあっという間に話題を逸らし、エリスも思い出したように「あぁ、そうだった!」と手を叩いたのを見て、アレクサンドルは内心、相当彼を不快にさせた出来事があったんだなぁと感づいていた。





基本、アルトゥール・ディアマント・フォン・エーデルシュタインという少年は正義感が強く、面倒見も良い、裏表のないさっぱりとした性格をしている。そんな彼を怒らせる要因になりうるのは、彼が『大事なもの』と位置づけているものが危機に晒されたときに限るのだが・・・例外として、彼の意思や正義に反する行動を取った者というのも要因の一つである。そこまで考察してアレクサンドルは「あぁ・・・だからか・・・」と、こっそりと溜息を吐いた。




(日々、あの(・・)姉弟の元で宝石王国王族としての役目とは何かを叩き込まれ実践してきたアルト様と、多くの人に護られながら、好きなことを自由に出来るレオンハルトとはいろいろと合わなかったのだろうなぁ・・・・・・マーシェルと二人で出て行くのは見えてたけど、そうか・・・アルト様の所だったのか・・・)





アルトゥールを気の毒に思うべきか、八つ当たられたレオンハルトに同情すべきなのかはアレクサンドルには解らないところだし、そこに彼の興味はない。ただ、はっきりしたのはアルトゥールにとってレオンハルトは『大切なもの』に含まれないのだろうということだった。






「・・・・・・・・・魔力を上手く引き出すコツ?」




「そう!私がそれさえ覚えれば、ルゥたちともすぐに連絡がつくもの!」





とは言ってもなぁ・・・と困惑するアルトゥールの声に思考の海からアレクサンドルは戻ってきた。どうやら話はだいぶ進んでいたらしい。





「うーん・・・そもそも俺が魔力ってやつを上手く認識出来てないからなぁ・・・・・・。アレクはどう思う?」




「そうですねぇ・・・・・・エリスの魔力を水、アルト様の生命石の欠片を水筒(タンク)に置き換えてみるといいんじゃないですか?」




「・・・水と水筒?」




「そう。水筒は水を入れて持ち運ぶものでしょう?喉が渇いた時にはそこから飲みたいだけの水を取り出すんですし・・・」




「・・・・・・なるほど・・・・・・確かに。」




「水量を調節するための栓をイメージして、今は固く閉ざされてるそれを少しずつ緩めるようにイメージしていけばいいんじゃないかな?」




そういうのはエリス得意でしょう?とアレクサンドルに言われ、エリスもなるほどと納得し、そっと瞳を閉じ、イメージする。





綺麗な金剛石は荒れ狂うエリスの魔力を内側に宿してもなお、壊れることなく虹色に光り輝いている。その石の一部分に、エリスは普段よく使う水道の蛇口をイメージしていた。開きすぎると魔力は勢いよく溢れてくるので、少しずつ、慎重に・・・ゆっくりと・・・・・・蛇口を緩めていく。が、魔力は一向にそこから流れ出てこない。





「?」




もう少し緩めるべきなのだろうか?とエリスが思考したその直後、エリスの額にそっと何かが触れてくる。





「・・・・・・・・・そのイメージだと、内側から蛇口までの通り道が出来てない。・・・そこは俺が上手く繋げてみるから、少し、閉めたほうがいいよ、エリス様(マイスター)。」




「!?」





思ったよりも近くから聞こえるアルトゥールの声にどきっとしたエリスだったが、彼に言われたとおり、慌てて蛇口を閉めるイメージをした。それを感じたのだろうアルトゥールは「うん。それで大丈夫。」と小さく笑うと、エリスのイメージした蛇口に繋がるように、生命石に小さな穴を開けていく。そして、その魔力の通り道が完成すると、ゆっくりと、微量の魔力がエリスの体内を廻り始める。





「あっ・・・・・・」




「どう?大丈夫そう?」




パッと目を開けたエリスのすぐ傍には額同士を合わせていたためすぐ近くにアルトゥールの顔が見え、思わず目を見開いてしまうものの、アルトゥールの方からすっとエリスから離れたので、少しだけ残念に感じてしまう。





「う・・・うん・・・」




「じゃあ、今晩はこのままの量で様子を見よう。今までと違うから、エリス様(マイスター)の体に負担になるかもしれないし。」




それに慌てなくとも連絡は取れるよ。守護竜が無能でなきゃね。と苦笑したアルトゥールにアレクサンドルも同意するように頷いた。




「それにエリスたちの体はあの戦いで思った以上に疲れてるはずだから、連絡が来たとしてもすぐに行動するのは危険だよ。今はゆっくり体を休めて明日に備えるべきだね。」




「アレク・・・」




「さ、エリス様(マイスター)、そろそろ屋敷の中へ入ろう。・・・まだ眠気が来ないのならホットミルクでも作ろうか?」





そんなアルトゥールの提案にエリスは「是非!」と食いつき、二人は屋敷の中へと戻っていく。そんな後ろ姿を眺めながらアレクサンドルはくすりと微笑んだ。




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