11:静寂な夜の過ごし方1
短いですが取り敢えずうpします。
自己紹介を含めた夕食会も終わり、それぞれが宛てがわれた部屋に案内されしばらく経った頃、アルトゥールは日課にしている鍛錬と、アレクサンドルの様子を見るために(彼は今も外で気絶しているアランフィニークが起きて逃げ出さないよう、結界を張り監視しているのだ。)屋敷の外へと出た。
本来ならばこの地にあるはずの長閑な農村は、残念なことに跡形もなく消え失せ、悪魔石の影響で暫くの間は食物も育たぬ荒野となるだろう。ほんの僅かではあるは、彼の姉であるヒルデガルドが浄化の力を与えたようではあるが、それはあくまでこの屋敷近辺だけのことで、村全体にはまだ行き渡ってはいない。しかし、彼女の事なので深夜、皆が寝静まった頃にきっと動くのだろうとアルトゥールは予測している。・・・しかし、ヒルデガルドの浄化能力を以てしても、この地に長らく住み着いたであろう者たちが安心して戻ることができるようになるまでにはそれなりの時間がかかることだろう。それ程までに穢されてしまっているのだ、この地は。
藍の月の夜は日中の心地よい暖かさを奪い肌寒い。
白の月(現実世界で1月に該当する)や蒼の月(現実世界で2月に該当する)の肌を刺すような寒さはないのだが、この荒野を目の当たりにすれば、別の意味で夜風の冷気が精神的にも肉体的にも影響を与えてくる気がして、思わず苦笑してしまう。
「・・・まぁ、俺の所為ってわけじゃないんだけど、原因の一つではあるしなぁ・・・・・・。」
「・・・アルト様?」
「よっ、アレク。そいつの様子は?」
「完全に伸びてますよ。アルト様の頭突きを喰らって生きてるってだけでも奇跡だと思いますけど。」
「そりゃあ手加減したし?」
「・・・手加減しなきゃヤバかったってことですよね?」
「まぁ、深いことは気にすんなって。」
ちゃあんとエリス様の要望には応えてるんだし。と笑うアルトゥールにアレクサンドルは胡乱げな視線を投げつけるが、やがて諦めたように溜息を吐くと改めて真っ直ぐに彼を見つめた。
「・・・・・・遅くなりましたが・・・巻き込んでしまって申し訳ございませんでした。」
「ん?や・・・アレクが謝ることじゃないだろう?それに、悪魔石の影響が封じられた大陸側にも出始めてたんだ。対応できるのは俺たちだけなんだし、アレクの判断は間違ってないさ。・・・ま、本音を言えば、予めこの事を伝えてくれてると良かったんだけどな。」
そこは守秘義務っていうか、召喚契約の条件に含まれてるっていうのは何となくわかるから気に病む必要もないさ。とアルトゥールは穏やかな瞳でアレクサンドルを見つめると、彼は緊張から、強ばっていた体の力を抜いた。
「それより、アレクの方は大丈夫なのか?」
「それは勿論。アルト様のお陰で絶好調ですよ。」
「・・・そっか。じゃあ・・・悪いけど、もう暫くそいつのこと頼むぜ?」
暫くは意識を取り戻さないとは言え、それがいつなのかは俺にもわからないし、数時間野晒になるけど、まぁ、それで諸々の罪悪感はチャラにしよう。と、笑ったアルトゥールにアレクサンドルは恭しく頭を垂れた。そんな彼の様子に、真面目だなぁ、と苦笑したアルトゥールは再び荒野を歩き出した。
火気厳禁な図書棟は夜の帳が降りても尚、一定の明るさを保っている。
壁に等間隔に据え付けられた照明器具の中にあるのは淡い橙色の石なのだが、何故石が自発的にこうして光るのか、それらを初めて目にするヴェルフレイドには理解できない。
「これは・・・どういう原理なのだろう?精霊が宿っているわけでもないのに・・・・・・」
物珍しそうに照明器具を眺めるヴェルフレイドに、読みかけの本からそっと視線を外し、彼へと見遣ったリーゼロッテは「それも宝石魔法の一種なのよ。中に入っている宝石は【電気石】・・・その名が意味するように電磁気を司る石で、私たちの国では主にこうした照明や日常生活に於ける凡ゆる器具の動力として用いられてるの。」と説明した。
「・・・凡ゆる器具の・・・動力?」
「そう。本来電気エネルギーというものは貯め留める事のできないものなのよ。・・・あの機械帝国ですら、その技術は未だに確立されていないのだけれど、宝石魔法の恩恵を受ける私たちなら、それも可能だというだけなのよね。まぁ、それは電気石を司るギルベルト兄様が存在するからなのだけれど・・・・・・あら、あまりピンと来ていないようね?」
つらつらと、自身の知識で語るリーゼロッテの話に半ばついて行けず困惑していたヴェルフレイドに、リーゼロッテは首を傾げながら「どう説明すればいいかしら・・・」と思案した。
「貴方達が普段魔力や魔法と呼ばれる能力で動かしている機器・・・・・・例えば船とか、列車とか・・・そういうものが私たちの大陸では電気エネルギーで代用されているのよ。」
「!?」
「貯めることはできないけれど、常に放出している電気エネルギーを分配して使えるようにする技術は確立されているの。そしてその技術の恩恵は平等に与えられている・・・・・・」
まぁ、平等じゃない場合が殆どだけれど、ね。もちろん宝石王国では平等よ。差別化する程のものでもないし、王族が居るだけで恩恵は発動しているわけだから。と、苦笑したリーゼロッテの言葉にヴェルフレイドは衝撃を受けていた。魔力以外のものをエネルギー源として文明を切り開く、その発想は確かに自分たちにはなかった。そしてそんな彼を見てリーゼロッテは苦笑しながら「恐らくだけど・・・」と口を開いた。
「大昔、それこそこの大陸が隔離された直後はまだ私たちの大陸や他の大陸でも魔力はあったのだと思うわ。けれど、増加していく人口に、魔力の供給が追いつかなくなり、やがて枯れ果てた結果が現状に繋がったのだと・・・。生活を保つためには自分たちでなんとかしなくてはと、消えゆくものに頼ってばかりではいられなかったのでしょう。・・・だから、それに直面したことのない貴方達では気づけるはずもないのよ。」
気にすることはないわ。と平然というリーゼロッテに、ヴェルフレイドは、確かにそうなのだが・・・と複雑そうな表情をした。
「まぁ、魔力がなくても生きていけるという事を知れただけでも良かったんじゃない?・・・休息を取れば回復するらしいけど、それまで魔力がない状態でこういう事態になった時には役に立つでしょう?」
「そうだけど・・・・・・満足に火を起こすこともできないんじゃ、知識だけあっても役に立たないだろう?」
「あら。そんなの問題ないわ。人にはそれぞれ役目があるもの。・・・知識を提供して実践できる人材を常に傍に置いていれば良いのよ。例え一人では何もできなくとも二人、三人、と数を増やし協力すれば出来ない事なんて何もないわ。」
だから私はこうして本に囲まれているのだもの。と、自信満々に言い切ったリーゼロッテにヴェルフレイドは苦笑した。・・・いろんな意味でこの姫には勝てないな、と。
感覚的にはサモ●イの夜会話的な・・・1日の終わりを誰と過ごすかによって何かのパラメーターが変動するとか、しないとか。