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マーシェル少年が使用した宝珠(オーブ)は正しく作動し、二人を教室へと運んでいたのだが―――――――――――――――






「エリス~!!!!!見たわよ、アンタの成績っ!!超ウケるんですけど~!!!!」




あははははっ!!とそれはそれは見事に笑い飛ばしながら抱きついてきた少女、ルーチェ・リンメルに、エリスは表情を引きつらせた。しかし、その笑顔と言葉には一切の嫌味が無く、ただ豪快に笑っているだけなのに、精神的な凹み具合が凄まじいのは何故だろうと、笑われた側であるエリスは思わずがっくりと肩を落とした。




「ルーチェ・・・そんな、傷口に塩を塗りこむように言わないでよね・・・・・・。」




「だぁって、こんな面白いことってないじゃない?・・・マーシェルだってそう思うでしょ?」




「僕に振らないでよ、ルーチェ。・・・そもそも、ルーチェだってエリスのこと笑えないだろ?あの成績じゃあ・・・」




不意の、マーシェルの口撃にエリスも僅かながら浮上し、「そうよ、そうよ!」と応戦してみたものの、言われたルーチェ自身は全く堪えた様子も無く、寧ろ堂々と「別に?気にしてないもん。」と言い切った。





「あたしは成績なんてどうでもいーのよ。学院に入ったのだって、あたし自身の意思じゃなくて、司教さまや修道女(シスター)達が勝手に手続きしたからだし。・・・そもそも、成績云々を拘るのはお貴族様連中くらいでしょ?別にあたしは魔法で食ってくつもりもないから、Dランクでも全然問題ないの!!」




えへん!っと胸を張ったルーチェだったが、その直後、スコーンっと、彼女の頭に薄いけれどしっかりした素材で出来た出席簿が勢いよく落とされた。





「問題大有りだ、馬鹿者。・・・アウレリア司教たちが嘆いていたぞ?」




「っ!!!!!」




ルーチェに直接攻撃を仕掛けた人物は、湖水の淡い水色の長い髪を無造作にひとつで束ねた、エリスたちのクラスの担任でもあるルシオール・ラグーンだった。彼の登場に、それまでクラス内で騒がしくしていたその他の生徒達は、自分にも火の粉が降りかからぬようにと、慌てて席に着き、未だ痛みに呻くルーチェやそれを見守るエリスとマーシェル、そしてルシオールを遠巻きに見つめていた。




「アウレリア司教様って・・・確かルーチェの修道院の?」




「そうだ。ルーチェ・リンメルはエリュシフィア姫程ではないが、精霊が最も好むとされる、清らかなる魔力と魂を持っている。その資質にいち早く気付いたアウレリア司教は、彼女をこの学院で育て、何れは修道院専属の精霊魔術師にと、お考えだったようだが・・・当の本人にやる気がない以上、実現する事はないだろうな。」




実に勿体無い。と、呆れたように溜息を吐いたルシオールは、一瞬だけルーチェを見やった後、すぐに教卓へと向かいつつ、三人にも席に座るよう促した。そして、エリスたちが近くの空いた席に腰を下ろしたと同時に、授業開始のチャイムが鳴り響いた。





「・・・さて、皆自分の今期の成績は確認したな?」





チャイムが鳴り終えた直後、挨拶や出席確認をすっ飛ばして、ルシオールは生徒達に問いかけると、生徒達は頷いたり返事を返したりと様々な方法で是と答えた。




「よろしい。・・・今回の成績を元に、後日、来期のクラス編成が発表される予定だ。・・・恐らくそれほど変動はないとは思うが・・・・・・エリス・ドルティニカ。」




「!!!?」




何時にも増して重く名を呼ばれたエリスはびくりと身体を震わせた。





「は・・・はぃ・・・・・。」





・・・いろいろと身に覚えがありすぎるエリスは、ルシオールに何を言われるのだろう?と身構えたが、一向に最悪の宣告が来る気配もなく、次に彼は別の人物の名を口にした。





「・・・・・・・・マーシェル・グランバニエ。」




「はい。」




「ルーチェ・リンメル。」




「・・・はい?」




「・・・お前達三人には補講期間中にとあるクエストを受けてもらい、そのクエストの成功の有無で、次のクラスが決定する事になっている。・・・・・・大変だとは思うが、必ず参加するように。」





そう告げたルシオールに、生徒達は一瞬ざわついた。





「・・・・・・それってエリスの救済措置ってやつ?」




「でも、マーシェルってウチのクラスじゃトップの成績だったじゃない?なんで彼も??」




「だってマーシェルっていっつもエリスの傍にいるじゃん?」




「エリスの騎士だって誰かが言ってたよ??」




「それならルーチェだって・・・・・・・・・・」





などと、各々予測を立てるものの、その真実を知るものは只一人、ルシオールだけである。ざわつく教室内を鎮めるべく、ルシオールはコホンと、大袈裟に咳払いをした。





「なお・・・詳細についてはこのあと、私の研究室で話す。三人とも、逃げずに真っ直ぐ来ること。」





「「「は~い・・・」」」





エリスとルーチェは元気も気力もないような、気の抜けた返事を返すと、大きな溜息を吐いた。





「はぁ・・・・・・・・・今から気が重いわぁ・・・」




「でも、クエストって言ってたじゃない?あたしたちが受けれるクエストって限られてるじゃん?ほら、自慢じゃないけど、あたしたち最低ランクなわけだし?」




「・・・だと良いんだけど・・・・・・・でも、マーシェル居るし、もしかしたらランク無理やり上げてくる可能性も・・・・・・」




「あー・・・・・・今から逃げるのってアリかな??」




「ナシでしょ・・・」






がっくりと項垂れる二人を他所に、マーシェルだけは真っ直ぐ、ルシオールを見つめていた。彼には一つ、疑問に思うところがあった。





「・・・どうも、今回の僕たちの課題、先生は不本意というか・・・あんまり納得してないんじゃないかな?」




「え?」




「何でそう思うの?」





突然のマーシェルの発言に驚く二人に、マーシェルは曖昧に「・・・う~ん・・・どう説明すればいいのかわかんないけど、先生の瞳が揺らいでるというか・・・雰囲気的にっていうか・・・」と口にした。





「それこそ、僕よりエリスの方がそういうのわかるんじゃないの?」




それこそ、生まれた時からの付き合いなわけだし?・・・とは、このような場所ではもちろん言うことはできないのだが、マーシェルの言いたいことを正しく読み取ったエリスは、じっと、その他の連絡事項を淡々と紡ぐルシオールを見つめた。





(・・・・・・ルゥの真意・・・・・・・・・。)





ルシオールを深く知らない人間には、彼はいつも感情を表に出さない、鉄壁の無表情に見えるのだが、エリスやエリスの家族、その周囲にいる人間はそれを否定する。無表情に見えて割と細かいところ・・・例えば瞳だとか口元とか・・・そういった部分でよく彼は感情を表している。見抜く事は至難の業なのだが、一度それに気づいてしまえば、もう彼を無表情だとは思えないのである。




「・・・・・・ん~・・・・・・確かに、マーシェルの言う通りかも。・・・・・・なんだかすごく複雑そうな感じだね。」




「だろう?」




「そもそも、今回の件はルゥが決めたことじゃないのかもしれないね。・・・・・・はっ!ま・・・まさか学園長直々の追試験なんじゃ・・・・・・・」




ありうる!!!ていうか、私、本当に崖っぷちなんじゃない!!?





そう慌てるエリスだったが、マーシェルは別の考えを思い描いていた。





(・・・そもそも、ルシオール様が納得していないこの状況でこちらに拒否権がないって言う事は・・・もしかすると、とてつもなく厄介な事になってるんじゃないかな?)





例えば、エリスの正体がバレかけてる、とか・・・。





そこまで考えて、マーシェルはいやいや、と頭を横に振った。・・・ありえない。っていうか、もしそんな話になっていたとしてもルシオール様や王族たち(あの方々)が黙ってはいないだろう。深読みしすぎだ、と、否定しても、何処か漠然とした不安は拭えない。





「・・・・・・どちらにせよ、詳しい話を聞かないことには解らないよ。って・・・おーい、エリス~戻ってこぉ~い?」





マーシェルがあれこれ考えている間に、エリスは現実逃避に入ったのか、虚ろな目になってしまっているので、少々手荒になるが、マーシェルはルシオール直伝、分厚い本の角でエリスの頭をスコーンっと叩いた。





「~っ!!??」




あまりにもの痛さに、現実に戻ってきたらしいエリスは、しかし、今度は別の意味で意識を吹っ飛ばすのだった。





「あ~・・・言い忘れていたが、エリス。クエストとは別で、新学期の準備期間は全て課題で潰れる事を覚悟しておくように。」




「!!!????」




つまりは休み返上で課題をこなせと!!??鬼っ!!悪魔っ!!!!!




と、声にならない罵りをルシオールにぶつけながら、エリスはがっくりと、自分の不甲斐なさに涙しながら机に突っ伏した。





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