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落ちこぼれ王女の魔法修行記  作者: 彩華 芽依
第1章:カーバンクル亜種捕獲クエスト編
17/30

 :VS『カーバンクル亜種』3






エリスの傍を離れたアルトゥールはカーバンクル型人造魔獣(キメラ)に向かって駆け出すと同時に、ぷちりと、勢いよく左耳に付けていた金剛石の耳飾りを外すと、そのまま掌に握り込み、意識を集中させた。すると、その耳飾りは眩い光を放ちながらアルトゥールが望む武器へと姿を変え、しっかりと、アルトゥールの利き手に収まる。





「・・・さぁて、『力比べ』と行こうじゃないか。」





にぃっと笑うアルトゥールは、一度槍斧をくるりと回した後、勢いよく地面を蹴り上げて飛び上がり、カーバンクル型人造魔獣(キメラ)の額に埋め込まれた【悪魔石(トイフェルシュタイン)】を的確に狙って、一気に槍斧を振り下ろした。




「はぁぁぁぁっ!!!」




勿論、カーバンクル型人造魔獣(キメラ)には今まで溜めに溜めた魔力が防御膜となって纏わり付いていたのだが、アランフィニーク教諭による幾度かの召喚魔法の失敗の所為で、その魔力強度は初期の頃よりもぐっと落ちていた。その所為だろうか、アルトゥールの攻撃は簡単に通り、ガラスを割るように、カーバンクル型人造魔獣(キメラ)の防御膜を破り、その勢いで額の悪魔石を叩き砕いた。





辺りにパキィィンという破壊音が響き渡ると、同時に、それまでカーバンクル型人造魔獣(キメラ)に貯蔵されていた魔力が一気に溢れ出し、暴風となって襲いかかるが、アレクサンドルの加護を得ているエリス達には、風音のみが届くだけで、被害といえば、それまでに朽ちてしまっていた村の建物たちが木っ端微塵に吹き飛んだくらいだった。





「くっ!!?」




「おいおい、張り合いねぇなぁ?まぁ、欠片(カケラ)じゃこの程度か・・・・・・・・・・・そんじゃ、次はアンタだぜ。」





そんな爆風などものともせずに、アルトゥールは空中で上手く体勢を整えつつ、その爆風を生かして素早くアランフィニーク教諭へと近づくと、握りしめていた槍斧から、瞬時に長棍へと変化させ、アランフィニーク教諭の懐に一突き、鋭い一発を繰り出す。しかし、気が動転しているアランフィニーク教諭が思わず尻餅を付いたことで、その攻撃は上手く躱されてしまった。





「ちっ・・・」




「ひ・・・ひぃぃぃ・・・・何故・・・・・・何故・・・・・・宝石王国(エーデルシュタイン)王族(もの)が此処にっ・・・・・!!」




「そりゃあ、愛らしいお嬢さん(フロイライン)に喚ばれたからだろう・・・よっ!」




「ぐふっ!!」




完全に逃げ場を失ったアランフィニーク教諭に、アルトゥールの二撃目は簡単に彼の急所を捉え、その衝撃で恐らく懐に忍ばせていたのであろう、船内でレオンハルトが見たという大粒の、【深淵の毒(エヒト・ギフト)】に汚染されたダイヤモンドがころりと転がり落ちてきた。その禍々しさは、レオンハルトが見たときよりも更に酷くなっていたのだが、アルトゥールは大して気にした様子もなく、それを拾い上げると、じぃっと、そのダイヤモンドの内側に宿る深淵の毒(もの)の、更に奥を見るように眺めた。





「・・・・・・確かに、一体化までには至ってないけど・・・結構深く根付いてんな・・・・・・ヒルダ姉ぇ~、とりあえずこれ・・・って・・・・・・お嬢さん!?」





とりあえず目的は果たしたと、エリスとヒルデガルドが居るであろう方向へと視線を投げたアルトゥールだったが、彼が視線を投げた先では、必死に自身の魔力を抑えようとするものの上手く行かず、藻掻き苦しむエリスと、自身が司る『水晶』の調和作用を用いてエリスの負担を減らそうと頑張るヒルデガルドの姿が映り、慌ててアルトゥールは彼女たちの元へと駆け寄った。




「うっ・・・・・・・あぁぁぁぁぁっ!!!!」




「お嬢さんっ!!?」




「・・・アルト。どうやらこちらのお嬢さんは生まれながらに莫大な(マハト)を持っていらっしゃるようなのだけれど・・・お嬢さんの(からだ)では・・・・・・その力を全て(おさ)めきれないようですわね・・・っ・・・!」




「・・マジかよ・・・・・・・・・わかった。ヒルダ姉はそのままお嬢さんの力を『調和』してて。後は俺がなんとかする。」




「えぇ、よろしくねアルト。」





貴方にしか出来ないことだから、と言ったヒルデガルドは、更に集中するように瞳を閉じた。それに合わせるようにアルトゥールもそっと目を閉じ、自身の体の奥深く・・・魂と一体化した『金剛石』へと意識を向け、その一欠片を削り出すようなイメージを脳裏に描くと、すっと差し出した掌にそれを具現化させた。




ドクンと、脈打つ様な感覚が残るのは、今も尚、アルトゥールの魂との繋がりが残るからだろうか。ある意味好都合だと、アルトゥールは迷うことなく、その欠片を、藻掻き苦しむエリスの心臓の真上に乗せ、ぱちんと指を鳴らすと、それはすぅっとエリスの体の中に溶け込むと同時にエリスの魔力全てを飲み込んでいく。




・・・要するに、カーバンクル型人造魔獣の悪魔石の欠片がやったこととほぼ同じことを、アルトゥールがやってみせたのだ。前者と大きく違う点は、エリスだけの魔力を確実にその欠片に吸収することと、内側から彼女を傷つける作用を封じ込める事だろう。




最も、これはエリスとアルトゥールに、召喚主(あるじ)召喚者(じゅうしゃ)の関係という『繋がり』がある事が大前提であって、誰にでもこの荒業が使えるかといえば、決してそうではない。




「っ・・・・・・、よくこれだけの力を抱えて、これまで生きてこられたな・・・・・・」




「・・・元々は(からだ)に見合った力量分に調整されていたようですわよ。・・・わたくしたちを喚び出す為に致し方なく開放なさったのでしょう・・・・・・再封印を施せる方が此処にはいらっしゃらないようですから・・・お嬢さんには少し苦しい思いをさせてしまいましたわね。」




欠片を通してアルトゥールに伝わってくるエリスの本来持つ魔力の強さに呻くと、ヒルデガルドは苦笑しながら垣間見た状況をアルトゥールに伝えた。






――――――――――アルトゥールとヒルデガルドが召喚されて、ほんの数分で事態は終息へと向かっていた。


















そう、本当にあっという間だった。






アレクサンドルに護られながら、その光景をただ眺めることしかできなかったヴェルフレイドとレオンハルトは、こんなにあっさり終息するとは思ってもいなかったのだ。





「・・・・・・ねぇ、アレクサンドル・・・・・・彼らは本当に僕らと同じ『人間』なのかい??」





人造魔獣の魔力吸収を物ともせず、今まで奪った魔力で形成された分厚い防御膜をあっさりと打ち砕き、額の魔石まで破壊した・・・そして、アランフィニークを秒殺(実際には生きてるけれど)し、尚且つ、エリスの魔力をも押さえ込んだ・・・エリスが呼び出した少年は本当に人間なのか?と、掠れる声で問いかけたヴェルフレイドに、アレクサンドルは「うーん・・・一応(・・)人間じゃないかなぁ?」と曖昧に答えた。




「・・・一応?」




「何というか・・・その辺りの説明はアルト様たち(かれら)にしてもらうのが一番なんだけど・・・そもそも、この大陸以外の場所には『魔力』や『魔術』っていう概念がないんだ。」




「「!!?」」




「まぁ、彼らは唯一の例外なんだけど・・・実際彼らが使ってる【宝石魔法(シュタイン・マギカ)】は魔力を使わない・・・宝石自体に宿る力を引き出しているに過ぎないっていうか・・・・・・あれは【創造の女神(プリマヴェスタ)】の力の一部なんだ。」





だから正確には神通力っていうか・・・まぁ、魔力ではないから、魔力吸収なんて意味を成さなかっただけなんだよ。とアレクサンドルは苦笑した。





「・・・・・・そんな・・・・・・だって、彼らは僕たちと同じ【プリオール(せかい)】の住人なのだろう?・・・魔力を必要としないんなんて・・・・・・そんな・・・・・・そんなことが・・・・・・・・」




「・・・・・・守護竜(ルシオール)箱庭(けっかいない)で守られてた僕らとは違う進化過程を踏んだ・・・と、言うことだろう。・・・・・・『聖教』の教えも・・・恐らくはこの大陸内だけの事を謳ったものなのだろうな・・・」




いやぁ・・・確かに、世界は広いね・・・・・・と、乾いた笑いを零したヴェルフレイドに、レオンハルトも同意するかのように力なく頷いた。

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