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落ちこぼれ王女の魔法修行記  作者: 彩華 芽依
第1章:カーバンクル亜種捕獲クエスト編
16/30

 :VS『カーバンクル亜種』2

エリスの感覚としては、ぶちぶちと、体内に廻らされた『鎖状』の封印式が、『鍵』となる大鎌によってぶった斬られるようなもので、はち切れた封印式の隙間から溢れ出してくる莫大な魔力は、本来ならば、格納庫(エリスのからだ)(おさ)まりきらず、内側からエリスの体を痛めつけるだけの危険なものでしかないのだが、皮肉なことに、溢れ出した魔力はカーバンクル型人造魔獣(キメラ)が漏れ無く吸収して行っているので、エリスにかかる負担は殆どない。





防戦一方のヴォルフラムを更に痛めつけるかのように、魔力吸収の量を増やすよう指示を出し、自身も【悪魔石(トイフェルシュタイン)】の力で、【深淵の毒(エヒト・ギフト)】の穢れを纏った魔法を繰り出していたアランフィニーク教諭にも、そのエリスの莫大な魔力の気配に、思わず攻撃の手を緩めた。




「!?この魔力は・・・?」




「っ・・・・・・・」




漸く、ヴォルフラムから意識を外し、莫大な魔力の気配の源であるエリスの方へと視線を投げたアランフィニーク教諭は、想像を絶するほどの光景に、「っ・・・あっははははは!!!やはり・・・!やはり()の目は間違いではなかった!!!!」と、狂乱を含んだ嗤い声を響かせた。





カーバンクル型人造魔獣(キメラ)が魔力を吸い上げ続けていてもなお、無限に湧き上がるようにエリスから溢れてくる純粋な魔力は、彼女が、エリスの母であるアクティアハート国王妃の腹に宿った時から、絶えずその貯蔵量を今も尚増やし続けているもので、【封じられた大陸(アルタートゥーム)】の守護竜であるルシオールの守護と封印術によって、本来、人間が持つべき適正魔力量(よりは遥かに多いが、アクティアハート王家の者ならば制御できるであろう量)に抑えられていた。しかし、その枷が外れた以上、増え続けているエリスの魔力が枯れ切るには相当な時間を要すことになるだろう。





実はアレクサンドルの狙いの一つに、エリスの莫大な魔力をカーバンクル型人造魔獣(キメラ)に喰わせ続けた結果、その魔力量に人造魔獣の体(キメラほんたい)が耐え切れず、自滅することを望んでいたのだが、【悪魔石】の欠片が思った以上に仕事をしているようで、彼が望む結果は得られそうにはない。ならば、もう一つの・・・本命の方を実行するだけである。





「エ・・・リス!!さぁ、アランフィニーク(アイツ)が馬鹿笑いしている間にっ!!」




「・・・うん!」




今も尚、耳に劈く嗤い声が不快に響き渡っている。しかし、アレクサンドルは的確にエリスに声をかけ、先手を打つ。





「『――――――『封印の外側』に在り、【創造の女神(プリマヴェスタ)】の力を受け継ぎし『宝石を統べる者(エーデルシュタイン)』・・・その力の一端を担う者よ!!』」





「!!?その呪文はっ!!?」





アレクサンドルに促され、エリスはそっと目を閉じ集中し、自身の内側の魔力と溢れ出た魔力を連結させながら、召喚魔法陣を呪文と共に編み上げていく。そんなエリスの様子に気づいたアランフィニーク教諭は、その召喚呪文を耳にして、一瞬にして顔を青褪めさせ、「さ・・・させん!させんぞぉぉぉぉ!!」と自身も、本来彼が呼び出すべきものの為の魔法陣を慌てて形成していくが・・・・・・遅い。





「『我、エリュシフィア・プリム・アクティアハートは汝を望み、(こいねが)う!!今此処に現れ出てよ!!―――――――アルトゥール・ディアマント・フォン・エーデルシュタイン!!!!』





エリスの真名と共に織り上げた魔法陣は莫大な魔力を対価に、エリスが望む者を、この地に引き寄せる―――――――――――――












































目を開けていられないほどの眩い閃光が一瞬、エリスを中心にして放たれる。そして、同時にズドンっという、地震にも似た強い衝撃を受け、辛うじて意識を保っていたヴェルフレイドとレオンハルトは、その衝撃に耐え切れずがくりと膝をついた。




「っ!」




「うわっ・・・」




「大丈夫かい、二人とも・・・?」





唯一宙に浮いていたアレクサンドルだけはその衝撃を免れたようで、いつものように飄々とした声を二人にかけた。





「アレクサンドル・・・どうなってる?エリュシフィア(あのこ)は召喚に成功したのかい?」




「当然デショ?・・・だから、ボクがこうして君たちを守りきれてるんだから。」




「「!!??」」






アレクサンドルの宣言に、ヴェルフレイドもレオンハルトもはっと自身の状況と、アレクサンドルを見遣る。・・・確かに、先程までのアレクサンドルの加護では完全に魔力吸収の効果を防ぎ切ることはできていなかった。けれど、確かに今は――――――――







『っててて・・・・・・!!!?ちょ・・・ヒルダ姉っ!!重っ!!』




『・・・・・・あぁら、アルトったら。うふふっ・・・だぁれが『重い』ですって??』




『ぎゃぁぁぁぁっ!!ゴメンナサイ!!俺が悪かったです!!ヒルダ姉は羽よりも軽いですっ!!でも、いい加減退いてくれると助かりますぅぅぅっ!!!!』






ぺたんと、召喚の衝撃に座り込んだエリスの前には、エリスが召喚したと思しき、白銀の髪を持つ少年と・・・何故か倒れ込んでいるその少年の背にどっしりと、穏やかな笑みを湛えつつどこか不機嫌そうにも見える、水色の髪を持つ麗しい女性が座り込んでいた。賑やかに会話をしているようではあるのだが・・・・・・エリスには彼らの言語が理解できず、ポカンとするばかりだった。





「・・・・・・?」




「くっ!!何故だ!!?何故私の召喚魔法が発動しないっ!!???」




『『・・・・・・・・・』』




「魔力量は申し分ないのだろう!?それともまだ足りないのか!!??あぁ・・・こうしている間にも奴ら(・・)がっ!!?」




エリスの召喚者をも凌ぐ大声で喚くアランフィニーク教諭に、召喚された二人の目がそちらに向くと『・・・なぁ、ヒルダ姉。もしかしてあれって・・・』『・・・そのようね・・・言語はどうやら古代語のようだけれど・・・・・・』と今度はヒソヒソと会話し始めた。そして、ふと、振り返った女性とエリスの目があった。




「っ!!」




「あら。・・・アルト・・・どうやらあの()に呼ばれたようですわよ?」




「・・・ん?」




にっこりと微笑む女性の言葉に、同じく振り返った少年がエリスへと視線を投げてきた。・・・その綺麗な薄金色の瞳に、エリスの鼓動がドクンと跳ねる。




「あぁ・・・じゃあ、彼女に従うべきだよな?・・・・・・はじめまして、愛らしいお嬢さん(フロイライン)。俺はアルトゥール・・・アルトって呼んで。俺たちは君に呼ばれて来たんだと思うんだけど・・・何をすればいいのかな?」




まぁ、なんとなくはわかるけど。と苦笑したアルトゥールに、エリスははっと意識を戻し、「は・・・はじめまして、エリスです!」と慌ててお辞儀をすると、えぇっと・・・と視線を彷徨わせながら言葉を紡ぎ出した。




「あの・・・・・・と・・・取り敢えず、あのカーバンクルっぽいのを捕獲したいんです!!」




「・・・捕獲、だけでいいの?」




と、言いながらちらりと、未だ召喚魔法陣を生み出しては喚いている人物へとアルトが視線を投げると、エリスは顔を俯かせながら「アラン先生・・・本当はあんな人じゃないと思うんですけど・・・」と呟いた。




「そりゃそうだろう。どう見たって【悪魔石(トイフェルシュタイン)】に良い様に操られてるだけだろ、アレは。・・・・・・ヒルダ姉。どれくらい【汚染】されてる?」




「・・・・・・そうね・・・・・・一体化までには至っていないようですけれど・・・・・・どこまで【浄化】できるかは、やってみないとわかりませんわね。」




「・・・了解。ま、生きてりゃ文句ないだろ?」




任せといて。と、エリスの頭を軽く撫で笑うと、アルトゥールは単身、カーバンクル型人造魔獣へと向かって行った。




「えっ・・・!?あ・・・アルトさん武器も何も持ってませんけど!?」




身軽そうだなぁと思っていたエリスだったが、確かにアルトゥールの腰にはマーシェルやレオンハルトのような剣はなく、服装自体は戦うのに向いたものではあるようには思うのだが、丸腰で戦えるほど楽な相手ではないはずだ。




「心配なさらなくても大丈夫ですわ。」




「あっ・・・あなたは・・・・・・」




「うふふ・・・はじめまして、可愛いお嬢さん(フロイライン)。わたくしはヒルデガルドと申します。どうぞ、ヒルダとお呼びくださいませ。」




そっとエリスに寄り添い、にっこりと微笑んだヒルデガルドはすっと自身の手のひらをエリスに見せると、そこからすぅっと、息をする様に簡単に、数個の『水晶』生み出してみせた。そして、ヒルデガルドはその生み出した水晶たちに軽く口づけすると、ふわりと、周辺にそれらを撒き散らした。




「!!??」




「これがわたくしたちの【宝石魔法(シュタイン・マギカ)】ですの。わたくしたちが生み出す、宝石にはそれぞれ【創造の女神(プリマヴェスタ)】の力を宿していますのよ。・・・と、言ってもわたくしが生み出せるのはこの【水晶】だけ。そしてアルトは――――――――――――」




「はぁぁぁぁっ!!!」




「!!?」




「最も強く硬い【金剛石】を司っていますのよ。」





丸腰であったはずのアルトゥールの手にはダイヤモンドで出来たと思われる槍斧が携えられていて、迷うことなくカーバンクル型人造魔獣の額部分に埋め込まれた宝石へと振り下ろされていた。

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