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落ちこぼれ王女の魔法修行記  作者: 彩華 芽依
第1章:カーバンクル亜種捕獲クエスト編
14/30

 :クルール島上陸2





(・・・・・・精霊たちが私のお願いを聞いてくれないなんて・・・・・・)





今までにない経験に、エリスは混乱していた。そして、いつもは自由奔放で恐れを知らない(ようにエリスには見える)精霊たち(かれら)がこれ程までに怯え、引き留めようとする事も、エリスにとっては初めての経験である。




(・・・・・・どうしよう・・・・・・こんな事ってあるものなの?・・・フレイ兄様なら何かご存知かもだけど・・・)





ちらりと視線を後ろにいる二人に投げかけてみるが、向こうは向こうで何やら深刻そうな話をしているようで、エリスが近寄れそうな雰囲気ではない。




(・・・せめて私が自発魔法の回復術を使えれば・・・マーシェルやルーチェの助けになれるのに・・・)




未だ安定しない自分の魔力量の制御に歯痒さを感じつつ、唯一の得意分野である精霊魔法が此処に来て役に立たないというのがエリスにとっては衝撃だった。・・・これから先には本命のクエストが待っているのに・・・お荷物状態じゃないか・・・と顔色を曇らせていると、ふと、目の前に影ができ、ゆっくりと視線を上げた。





「・・・マーシェル?」




「・・・どうしたの、エリス?深刻そうな顔して・・・何かあったのかい?」




「あ・・・・・・うん・・・・・・あったというか・・・・・・」




「?」




「精霊が・・・ね、私のお願いを聞いてくれないの・・・・・・」




「えっ!?」




「さっきまでは普通だったの。でも・・・この島に来てから、精霊たちの様子がおかしいの。理由はわからないの。でも―――――――――――――――――――――――」




「そう、何かに怯えてるようなのよね。この島に居る精霊たちは。」




「「!?」」





ポツリポツリと話すエリスに被せるように、いつの間にか隣に並んでいたルーチェが首を傾げながらそう紡いだ。




「ルーチェもそう思う?」




「まぁ・・・ね。エリスの影響もあるんだろうけど、何か前より精霊を見やすくなってるみたいだから、あたし。それに・・・・・・何かこう・・・・・・さっきから寒気がゾクゾクとしてるんだよね。魔力の淀みと言うか・・・これだけ自然があるのに、不自然なくらい空気がピリピリしてるっていうか・・・」




その影響がもしかしたら、今回の獲物に関係があるのかもしれないけど・・・あんまり長居するのは良くない気がする。と、周囲に視線を投げながら呟いたルーチェの顔色は先ほどよりも青い。




「ちょ・・・大丈夫、ルーチェ?」




「・・・まだ平気。だけど、これ以上空気が悪くなるようだとマズイかも・・・・・・。」




一応司教様から穢れ除けの護符を貰ってきてるけど・・・イマイチ効いてる気しないのよね。と、胸ポケットから取り出した護符をひらひらとさせたルーチェは「まぁ、逆を言えば、護符(コレ)のおかげでこの程度で済んでいるのかもしれないんだけどね。」と苦笑した。





「でも・・・あたしたちですらこんななのに、よくアラン先生は平然としてられるわよね?・・・普通こんな異常に気づいたならあたしたちに注意とかなんなりするもんじゃないの?」




「・・・・・・確かに。でも、これは僕らの受けたクエストであってアラン先生はただの監視役。僕らで対応すべきだと判断しているのかもね。」




「えー何それ面倒・・・・・・」




「でも・・・・・・こんな状態で私たち、ちゃんとクエストこなせると思う?マーシェルとルーチェは体調悪そうだし、私は・・・精霊魔法が使えなくなっちゃってるし自発魔法は・・・・・・やっぱり自信ない。最悪召喚魔法で対応したとしても、捕獲の手助けになるような魔神や魔獣は持ってないし・・・」




「あーエリスの契約魔神獣(けいやくしゃ)達って火力特化のが多いよね・・・。」




「・・・うん・・・・・・」




その魔力量と純度故に、エリスと契約を結びたがる存在は多いのだが、その大半は上位種である者達が先行してエリスと契約を結んでいるため、そうなってしまっているのだが、勿論、契約主であるエリスが願えば、その火力も調整はできるのであろう。・・・その為にどれだけの対価(マナ)を支払えばいいのか見当が付かないが・・・。





「だから、最悪、クエスト無視してやっちゃう方が無難かもしれない。・・・そうなった時の評価がどうなるかはわかんないけど・・・・・・」




「まぁ、別にあたし評価はどうでもいいんだよねー。・・・自分から来た学院(ばしょ)じゃないし、最悪退学になったとしても、あたしは修道院の仕事を手伝うだけの・・・学院に入る前の生活に戻るだけだし。」




「ルーチェ・・・。」




「あんたたちだって別に退学になったところで帰る場所も、学ぶ環境もあるわけでしょ?別に学院じゃなくたっていいのなら、この際、とことんやっちゃうべきだと思うよ。やれることはやりました、でもこうするのが一番でした。で説明は付くんだし。」





難しいこと考えるよりも、自分に出来ることを精一杯やってこの状況を切り抜ける方がよっぽど賢いんじゃない?と、不敵に笑ったルーチェに、マーシェルもエリスも呆れたような表情を浮かべたが、それは実に正論だと、二人も理解していた。




「・・・ルーチェがマトモな事を言うなんて・・・・・・嵐が来なきゃいいけど。」




「・・・マーシェル・・・アンタあたしが完全復活した時覚えてなさいよ。」




「・・・ルーチェに諭されるなんて・・・・・・槍が降ってきたらどうしよう・・・・・・」




「今からでも降らしたろかっ!?」





もう、何よ。あたしがマトモな事言うのダメなの!?そんなにあたしは残念な娘か!??と怒り出すルーチェにエリスもマーシェルも一抹の不安が紛れ、ホッと息を吐いた。





「はいはい、元気なのはいいですが、後に響きますよー?」





そんなアランフィニーク教諭の注意が入るまで、エリス達は軽口を叩き続けていた。













































ハーネスコートを出発して約30分。アルブ村の入口(明確な入口は存在してはいないのだが、一面の田畑や小高い丘の合間を縫って進んでいると、漸く集落を思わせる建物たちが見えてきたので暫定的にそう呼ばせてもらっている)付近に辿り着いた一行は、その村の異様さに圧倒されていた。





「ちょ・・・コレ、結構ヤバイんじゃない?」




「っていうか・・・・・アレ・・・だよね?僕たちの今回の獲物って・・・・・・」





日暮れは目前ではあるが、村人の気配が感じられないのは可笑しいと思いながらも、嫌でも目に入ってしまう存在に、それを目撃したエリス達の思い一つだった。




(((((でかっ!!!!!!)))))




思わずエリスの肩に居座るアレクサンドルと何度も見比べてしまうほど、その存在は予想以上に大きかったのである。アレクサンドルを含め、普通のカーバンクルの大きさが兎より少し大きい(個体差によるが大体その程度)位なのに対し、堂々と畑のど真ん中に居座る、まるで悪趣味なオブジェのようなカーバンクルの亜種らしきものの大きさは切り崩したばかりの巨大な岩石程なのだ。その差は歴然過ぎて、どうしてこうなったのだろうと、それぞれが途方にくれるレベルだった。




「なるほど・・・・・・確かに、アレはカーバンクル・・・・・・の亜種・・・・・・と言えるでしょうね。」




・・・現に、アランフィニーク教諭でさえも、その大きさに言葉を詰まらせている。




《で?カーバンクル族の長(アレクサンドル)の見解は?》




呆然と立ち尽くすエリス達を他所に、ヴェルフレイドが問いかけると、アレクサンドルは尻尾を不機嫌そうにパタパタと振りながら(アレはボクらの同族じゃないよ。完全に作り物だ。)と忌々しそうに呟いた。




《そもそも、ボクらはあんなに大きく成長しない。それに・・・・・・あの額の宝石。あれこそがボクらとは決定的に違うという証明だね。》




アレクサンドルに言われ、ヴェルフレイドも目を凝らし、カーバンクルの亜種(実際には人工魔獣(キメラ)らしい。)の額に埋め込まれた宝石を見つめた。




「!?」




《・・・見えたかい?あれこそが【悪魔石(トイフェルシュタイン)】・・・最もその一部でしかないみたいだけど。・・・創造の女神(プリマヴェスタ)の力の欠片が宿りし宝石の祝福を持たない、呪われた石。・・・【深淵の毒(エヒト・ギフト)】・・・世界に淀みし負の感情の成れの果てだ。》




悪魔石の欠片(あんなの)が埋め込まれている時点で同族じゃない。・・・仮に無力種(ドール)に植え付けられたのだとしても、あんな歪なモノは同族とは認められない。と、普段のおどけたような声色ではなく、魔獣の性を顕にした獰猛さを込めた声色は、嫌でもゾクリと肌を波立たせる。




《それに、この村の魔力(マナ)が枯れかけている。・・・・・・アレは【精霊喰い(エレメンツイーター)】ではなく、悪魔石トイフェルシュタインの影響だろう。村人達から恐怖心や殺意、ありとあらゆる負の感情を煽り、搾り取った後はこの地に宿る魔力や精霊たちの魔力を糧にしていたんじゃないかな?》




恐らく、この村の住人は他の村に逃げ延びていない限り、誰一人として生きてないよ。と、無情にもそう告げたアレクサンドルに、ヴェルフレイドは表情を曇らせた。




《確定ではないだろう?探せば、まだ・・・・・・》



《ヴェルフレイド。この状況ではキミたちが、アレの餌食になりうるという事だよ。まだ、そこまでには至っていないけれど、遅かれ早かれ、被害は拡大していく。》



《けど!何もしないというわけには!!》



《落ち着きなよ、ヴェルフレイド。・・・そもそもこれはエリスたちのクエストの一環だ。キミが今動くべきではない、というのは解ってるだろう?》



《・・・っ!》



《闇雲に動いても意味がない。・・・どうせこの状況じゃ、アランフィニーク(かれ)はすぐ本性を現すさ。・・・今のキミにできることは、エリスの封印の鍵を、どのタイミングで開けるかだよ。》




それに、昔誰かが言ってたけど、焦った方が負けなんだって。だから、もう少し冷静になりなよ、ヴェルフレイド(おうじサマ)。と、いつもの軽口で言い放ったアレクサンドルに、ヴェルフレイドははぁっと力んでいた体から力を抜いた。



《・・・言ってくれるじゃないか、アレクサンドル?》



《余裕のない野郎(オトコ)なんて面倒なだけだからね。それよりも・・・・・・エリス!呆けてる場合じゃないでしょ?》



《!!?はぇ!??》




ぺちりと、一際強くエリスの額に尻尾を当てれば、エリスは素っ頓狂な声を脳裏に響かせた。




《あ・・・う・・・うん・・・・・・そうだね・・・・・・そもそも、アレってアレクの・・・?》



《違うよ。アレは何者かによって作り出された人工魔獣キメラだ。カーバンクル(どうぞく)じゃないよ。》




だから、ボクはあんな不快なものはとっとと破壊(こわ)しちゃいたいんだけど。と、訴えるアレクにエリスは苦笑しながらも、先程、マーシェルやルーチェと会話した内容を思い返していた。



《・・・・・・アレクは・・・・・・アレは捕獲すべきじゃないって言うんだね?》




《そもそも捕獲なんてできないよ。・・・いや、もし捕獲するんだったら、先にアレの額にある宝石を何とかしなくちゃいけない。・・・カーバンクル(ボクら)に似せて造ってあるのならば、あの宝石(いし)さえどうにかできれば無力化できるよ。ボクらの力の源も額の宝石だからね。》




ただ、その『どうにかする』のが難しいんだけど。と口篭ったアレクサンドルは意を決してエリスに言葉を投げかけた。




《・・・いいかい、エリス。恐らくアレをなんとかできるのはエリスだけなんだ。これから先、どうなるかは予想できないけれど、必ず、アレは溜めに溜めた力を開放するだろう。ボクで防ぎきれるかどうかと言われると・・・実はちょっと自信がない。》



《え!?アレクが??嘘でしょ??》



《いやいや、ホント。実はボクも結構魔力を吸われててさ。本来の実力が出せる気がしないんだよね。・・・勿論、エリスがボクにもっと魔力を分けてくれたら話は別だけど・・・それよりも、エリスにはやって貰いたい事があるんだ。》



アレクの提案にエリスは、私の魔力でよければ全然、あげるよ!有り余ってるもん!!と言おうとしたのだが、それよりも後にアレクが提示してきた内容に首を傾げた。



《・・・え?》




《エリスにしかできないことだよ。・・・『その時がきた』ら、ヴェルフレイドがエリスの魔力封印を全解除する。》




《!!?》




《その後は・・・・・・もう、賭けるしかないんだけどね。恐らく召喚合戦になると思う。エリスの全魔力を賭けて呼び出して欲しいものがいるんだ。いいかい、しっかり聞いてよ?――――――――――――》




「・・・・・・・・・・」





《――――――――――――――――覚えたかい?エリス??》




長々と告げられた召喚の呪文。その大半が召喚者の名前だというのだから、エリスは冷や汗をかいた。・・・あまり耳にしない発音と舌を噛みそうな言葉・・・・・・何回も脳裏に浮かべて、間違えないよう、一言一句辿っていく。




《う・・・うん・・・・・・何か・・・舌噛みそうな名前だけど・・・・・・大丈夫。ちゃんと覚えたよ。》




《良かった・・・・・・まぁ、ボクも余裕があったらちゃんとサポートするからね。》




「・・・ぜひ・・・私だけじゃやっぱり不安だよ・・・・・・」




「?エリス??」




「ん?何でもない。それより・・・・・・アラン先生、これからどうしましょう?」




現実逃避を終えて、エリスがそう問いかけると・・・・・・アランフィニーク教諭は「そうですねぇ・・・」と何故かにたりと哂った。

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