7:クルール島上陸1
短いですが、PCの機嫌が良い内にうpしときます。
最初の魔物の襲撃以降の船旅は実に快適なもの(カーバンクルの守護のおかげ)で、戦闘による多少の遅れは生じたものの、エリスたちを乗せた船はほぼ定刻通り、夕暮れ前にはクルール島唯一の港である【ハーネスコート】に入港することができた。
「・・・・・・半日も船の上なんて・・・・・・聞いてないんですけど・・・・・・」
げっそりと、如何にも『疲れてます、えぇ、物凄く疲れてます』をアピールするルーチェは、それほど重くもないはずの自身の荷物ですら、今の彼女には重石に思えるほど酷く疲弊していた。
「そもそも『日帰り不可能な島』だって言ってたじゃないか。それくらい予測はつくだろう?・・・・・・まぁ確かに、ゆっくり休んだはずなのにイマイチ回復したっていう実感はないけど・・・・・・」
そんな彼女を見かねて、そっと、ルーチェの荷物を受け取ったマーシェルも、疲労の色が濃く、エリスから貰った魔力回復薬と充分な休息である程度は回復しているはずの自分の魔力が、計算上ではクルール島到着時にはフル回復しているはずの所がどうも半分程度位しかないような・・・なんとも微妙な状態であると感じていた。
「・・・だよね・・・あたしたちですらこんな状態なんだから、ずっとアレクを呼び出したままのエリスは・・・・・・」
もっと疲れてるんじゃないの?と気遣ってみせたルーチェだが、そんな心配を砕くように、エリスはいつも通りの調子で首を傾げてみせた。
「ん・・・私?平気だけど??」
「・・・・・・・マジか・・・・・・」
「そもそもエリスの魔力量はキミたちとは比較にならないほど多いからねぇ~。早々魔力切れにはならないし、精霊達の祝福もある・・・滅多なことでは体に負荷はかからないんだよ。」
でも・・・ちょっと気になることはあるんだよねぇ・・・と、エリスの頭の上に乗ったまま、視線だけを後から船を降りてくるレオンハルトやアランフィニーク教諭へと向けたアレクサンドルはぽつりと「・・・・・・気のせいならいいんだけど・・・」と呟いた。
「・・・アレク?」
「や・・・なんでもないよ。それより・・・ボクはこれ以降は喋らずに、【精神会話】で対応するから。」
まぁ、バレてるとは思うんだけど、念のため、ね・・・。とアレクサンドルはふわりとエリスの頭上から離れると、程よい距離を保ったまま宙に浮かんだ。
「皆、長時間の船旅はどうだったかな?」
「まぁ・・・貴重な経験になりました・・・・・・それより、アラン先生。もうすぐ夕暮れですけど、クエストにはこのまま向かうんですか?」
穏やかそうに見える笑顔でそうエリスたちに問いかけてきたアランフィニーク教諭にマーシェルが答え、そして疑問を投げかけると、アランフィニーク教諭「・・・そうだねぇ・・・」と空を仰いだ。
「・・・・・・一応、問題となっている【アルブ村】はハーネスコートからそう遠くない距離にはあるんだけれど・・・・・・慣れない船旅で皆疲れているみたいだからね。クエスト実行は明日の早朝にして、今晩はゆっくり体を休めてもらおうかな。」
その方が効率がいいだろうと言うアランフィニーク教諭にルーチェとマーシェルはほっとした表情を浮かべた。
「あの・・・ヴォルフラム様・・・この島にちゃんとした宿泊施設ってあるんですか?」
きょろきょろと辺りを見回したエリスに、ヴォルフラムは苦笑しながら「勿論、ありますけど・・・多分エリス嬢が思い描いている様な立派なものではないかもしれませんねぇ・・・」と答えた。
「見ての通り、此処ハーネスコートも、普段は単なる船着場の役目だけしか機能していませんからね。アクアポートのような『港町』とは言い難い。なので、普段、旅行者たちを受け入れているのは近隣の村にある小さな宿屋や要人の場合は村長宅に宿泊するんですよ。」
「へぇ・・・・・・」
「まぁ、この時期にこの島に来るような旅行者は殆ど居ないでしょうから、宿に関して言えば問題ないでしょう。取り敢えず・・・アルブ村まで行ってみましょうか。」
そう言ってアランフィニーク教諭は先頭を歩き出した。
そんな彼の背を追い、エリスたちも歩きだしたのだが、疲れきった様子のルーチェとマーシェルの動きは鈍い。
「・・・風の精霊たち・・・ルーチェとマーシェルを支えてあげて。」
見兼ねたエリスが風の精霊たちにそっとお願いしてみたのだが、彼女の近くに舞う精霊たちは、お互いの顔を見合わせるとふるふると、首を横に振った。
「?」
―――――――エリュシフィア・・・ダメ・・・・・・近づいちゃダメ・・・
―――――――ボクたち、食べられちゃう・・・これ以上・・・近づけない・・・・・・
「・・・・・・近づけない?・・・食べられる・・・??」
嫌がる精霊たちの様子に首を傾げたエリスを見て、アレクサンドルはすっとエリスの傍から離れて、最後尾を行くレオンハルトとヴォルフラムに近づいた。
《・・・・・・ヴェルフレイド・・・・・・状況はかなり最悪かもしれない・・・・・・》
《・・・珍しいな、『鉄壁』のアレクサンドルがそんな弱気だなんて・・・?》
《・・・エリスの願いに、この島の精霊が応えない・・・・・・『近づくな、食べられる』と警告してくるって言うことは・・・もしかしたら、エリスたちが捕まえなきゃいけない『カーバンクル亜種』っていうのは・・・見かけだけボクらを模した【精霊喰い】か・・・もしくは・・・・・・・・・・・》
《・・・もしくは?》
肝心な所で口篭ったアレクサンドルに、続きを促すよう言葉を重ねれば、アレクサンドルは意を決して、語り始めた。
《・・・・・・本来ならば、アクティアハート王国・・・いや、この大陸に在ってはならないモノが・・・やってきてるのかもしれない・・・・・・》
《・・・?アルター・・・トゥーム??・・・聞きなれない言葉だな?》
《それはそうだよ。キミたちが住まうこの大陸は、守護竜ルシオールが、何れ蘇るであろうと言われている女神プリマヴェスタの為だけに、他の大陸などの干渉を避けるよう強固な結界で閉じ込めた・・・謂わば世界から隔離された大陸なんだよ。》
《!!??》
「・・・・・・?ヴォルフラム・・・さん?」
アレクサンドルの言葉に衝撃を受け思わず歩みを止めてしまったヴェルフレイドは「・・・どういう・・・ことだ?」と、真っ直ぐアレクサンドルへと視線を投げた。そんな彼を、レオンハルトは不安そうに見つめていた。
《・・・・・・その辺の話は城へ帰ってから直接守護竜サマに聞けばいいよ。それよりも、もし、ボクの想像通りのモノが・・・今回の件に関わっているのだとしたら・・・・・・魔法大国の名を持つアクティアハートの知識を以てしても、捕獲はできないし、倒す事も不可能だ。》
《・・・・・・・・・・・・》
《もし、この件に【悪魔石】が関わっているのならば・・・事態を収拾させる手段は一つだけ・・・・・・―――――――――――――――》
「・・・・・・そうか・・・・・・お前の想像が外れてくれるといいんだがなぁ・・・・・・」
「あ・・・の?」
「・・・あぁ・・・レオンには聞こえてなかったんだな・・・・・・」
マーシェルたちとは違う意味で疲れたような表情をレオンハルトに向けた(ヴォルフラムの姿をした)ヴェルフレイドははぁっと重い息を吐き、『防音魔法』を薄く展開した後、キッと、彼らの遥か先を行くアランフィニーク教諭へと投げかけた。
「・・・・・・レオンは確か・・・・・・見たんだったよな?アイツ―――――――――アランフィニーク・セイラムは・・・今までに見た事のない『魔石』を所持していた・・・と。」
「え?あ・・・はい。何と言うか・・・僕らが知る魔石よりももっと禍々しいというか・・・・・・側に居ると全てを失ってしまいそうな感覚がするような・・・・・・・・」
本能的な恐怖を感じるというか・・・何と言うか・・・と、どう表現すれば一番いいのだろうかと、思いつく限りの言葉を並べていくレオンハルトに、アレクサンドルはがっくりと項垂れた。
「あぁ・・・・・・・・ダメだ、ヴェルフレイド・・・・・・それ、間違いなく【悪魔石】だよ。・・・どうやってこの大陸に入り込んだのかはわからないけど・・・・・・」
「――――――――アランフィニークの研究の副産物かもしれないな。」
「・・・研究?」
「あぁ・・・『召喚魔獣や魔神を通して異世界の【扉】を開き、その先の世界と交流する事は可能なのか?』というテーマで研究してるんだよ。」
「あぁー・・・それで偶然にも悪魔石を引き当てたのか・・・・・・でも、それなら結界を作り出した張本人にも異変を感知できただろうに・・・・・・」
「・・・そもそもルシオールは知らないんじゃないのか?ずっと結果内で居たわけだし・・・」
「・・・・・・はぁ・・・・・・」
役に立たないね、守護竜のくせに・・・と言う毒をぐっと飲み込み、アレクサンドルは呆れたような溜息を吐き出すと「・・・まぁ、これでほぼ確定だよ。」と呟き空を仰いだ。
「・・・手遅れになる前に、『悪魔石に対抗しうる存在』を呼び出すよ。・・・守護竜の結界がある以上、簡単にはいかないだろうし、どれほどの魔力を必要とするかは全くもって分からないけれど・・・それが可能なのは恐らくエリュシフィアだけだ。」
彼女の本来の魔力量ならば・・・結界を一時的にこじ開け、呼び出せるはず・・・と、対策を告げるアレクサンドルに、ヴェルフレイドはぐっと顔を顰め、状況が把握できないまでも、あまり思わしくない事態なのだと悟ったレオンハルトは不安そうに彼らの様子を伺っていた。
「・・・・・・・・・・・・・それが一番の最善策・・・なのだろうな・・・・・・俺たちで対処できないのだから・・・・・・・」
リスクは高いがそうせざるを得ないか・・・と、何とか割り切ろうとするヴェルフレイドはぐっと拳を握り締めた。