6.5:追跡結果と同時刻のとある場所。
絶賛PC不調中でこれからも亀更新になるかと思われますが(流石に年単位の放置にはならない・・・はず・・・)良かったらこれからもお付き合いくださればと思います。
―――――――――時間は少しだけ遡って、エリス達が未だ『深海を統べる悪魔』と対峙していた頃、不審な言動と行動を取るアランフィニーク教諭を透明化の魔法を用いて追跡していたレオンハルトは、いつの間にか船の貨物庫へと辿り着いていた。
(・・・・・・貨物庫・・・だよね、此処・・・?)
ちらりと視線を投げれば、そこには、ロープや静止魔法でしっかりと固定された木箱が数多く収納されていて、これらがクルール島の住民たちにとっても必要不可欠な生活用品である事は明白だった。
(・・・こんな場所に、アラン先生は何の目的があって来たのかな?)
通常であれば大人しく船室に控えていれば良いはずの立場であるにも関わらず、まるで人目を避けるようにこの場所へ来た意味は何だろう?とレオンハルトが首を傾げていると、程よい距離を保って歩みを止めたアランフィニーク教諭は一度、自分の周囲に人気がないことを確認するかのようにぐるりと視線を投げて・・・そんな彼の行動にレオンハルトは一瞬驚いたが、彼が使った透明化の魔法はヴェルフレイド直伝の改良型で、気配までも完全に消してくれるものであったため、大丈夫。絶対にバレないんだから堂々としていればいいと、自分に言い聞かせ、警戒しているアランフィニーク教諭を注視した。
自分以外の気配がない事をしっかりと確認したらしい、アランフィニーク教諭は、すっと懐から何かを取り出し――――――――――――――その瞬間、言い知れぬ悪寒がレオンハルトの全身を駆け巡った。
(!!!!??)
「ふふふっ・・・・・・もうすぐ・・・・・・・もうすぐだ・・・・・・」
くつりと、嗤うアランフィニーク教諭は・・・確かに、レオンハルトがよく知る彼ではなかった。
彼が懐から取り出したのは大粒の綺麗に加工された宝石(恐らくはダイアモンドなのだろう。)なのだが、その輝きは一般的な、誰をも魅了する美しい虹色の輝きではなく・・・赤黒く濁ったような・・・妖しい輝きを放つ禍々しい物で、レオンハルトもそれは生まれて初めて目にするものだった。
(な・・・何だ・・・あの宝石・・・・・・・ダイヤ・・・だよな?でも・・・あんな禍々しいダイヤなんて見たことも聞いたこともないぞ!?)
『魔石』ですら霞んで見えるほどの強烈な瘴気を纏うそれに、しかし、レオンハルトも冷静に自分自身の感情をコントロールしてある結論を導き出した。
(・・・あの宝石が原因・・・なのか?アラン先生がおかしい理由は・・・・・)
けれど、その宝石がどういうものなのか。どうすれば処理できるのかも今の段階では何一つわからない。そんな中でアランフィニーク教諭はぶつぶつと何かを呟いているようだったが、これ以上此処に留まれば、レオンハルト自身もあの瘴気に飲まれそうな気がして、無意識のうちに貨物庫から遠ざかっていた。
・・・その無意識の判断は正しかったのだろう、足早に船室まで戻ってきたレオンハルトは自身にかけた魔法を解くとぐったりとソファーに身を沈めた。
「・・・・・・僕ですら知らない・・・魔石・・・だよね?・・・・・・ヴェルフレイド様・・・いや、ルシオール様なら何かご存知かな?」
思い出すだけでもゾクゾクと寒気が走るのだが、それでも貴重な手がかりを得られたはずだと、僕だって皆の役に立てるんだ、と、レオンハルトは大きく息を吐いた。
【封じられた大陸】の、海を隔てて北東に位置する【大大陸】中央部に存在する、正八角形の国土を持つ小国、【エーデルシュタイン王国】は、【創造の女神】がその死の間際、持てる力を全て数多の宝石に封じ、後の世の為にと、その宝石達に人としての姿を与えたことから始まったとされる、世界の中で最も古くから在り続けている国の一つである。
「―――――――――――――っくしっ!」
かの国の歴史については語りだすと長くなるので、ここでは割愛させていただくとして、現在、エーデルシュタイン王国の国王夫妻には七人の王子と六人の王女が居る。普段は其々に与えられた仕事のため王都からは出払っていることが多いのだが、この日は久々に姉弟が揃い、天候にも恵まれたこともあって城の中庭で優雅にお茶会を催していたその最中、盛大なくしゃみをして予期せぬ注目を浴びてしまったのは、白銀(光の反射によっては虹色にも見える)の美しい髪を無造作に一纏めにした少年――――――第五王子のアルトゥールに、姉弟たちの反応は何処か呆れを含んだものが多かった。
「嫌ねぇ、アルト兄さまったらっ。まぁた何か厄介事でも持ち込むおつもりですの?」
「・・・・・・エルフィ・・・・・・最近、お兄ちゃんに対して酷くないか?・・・つーか、俺が厄介事を持ち込むんじゃなくて、厄介事が何でかわかんねぇけど俺んとこに来るだけだからな?」
「否定しない所を見ると、それなりに『何か』に巻き込まれそうな予感があるってことだな?・・・ヒルダ。」
「心得ておりますわ、ギルお兄様。」
まず最初にアルトゥールに先制口撃を仕掛けたのは同母妹である第六王女のエルフリーデで、彼女の言葉を訂正するように言った言葉も、第一王子のギルベルトと第二王女のヒルデガルドには余計な深読みを与えてしまう結果となり、アルトゥールはがっくりと肩を落とした。
「しかし、まぁ・・・何と言うか・・・折角姉弟が揃ったっていうのに、どうしてこうも余計なフラグを建てちゃうんだか・・・・・・『金剛石』って不運や邪悪から身を守る石なんでしょう?全くその役目果たしてなくない?」
「ロッティの『翠緑玉』の危機回避力に比べれば大分劣るだろうが・・・それにしても・・・だよな?」
「もうこれは『呪い』と言ってもいいレベルなんじゃない?」
「そうね・・・でも残念ながら強力な不運除けの『十字石』は数百年前から完全に枯れてしまっているのよねぇ・・・・・・」
「「ま、僕らには関係ないからいいけど。」」
「だあぁぁぁぁっー!!マジ、この不幸体質何とかなんねぇかなぁ!!?」
第五王女のシャルロッテ、第六王子のオスヴァルト、第三王女のリーゼロッテ、第三・第四王子(双子)のユーリウスとコーネリウスの言葉に、遂にはアルトゥールは行儀悪くテーブルに突っ伏してしまった。
「まぁ、そればっかりは俺たちではどうしてやることもできないが・・・・・・気をしっかり持つんだ、アルト。」
「そうですわぁ。貴方は厄介事によく巻き込まれても、いつだって乗り越えてちゃんと私達の所へ戻ってきてくれるでしょう?今回もきっと大丈夫ですわぁ。」
「えっと・・・アウグスト兄様も、クラウディア姉様も・・・それ、全然フォローになってませんよ?」
気を使っているのか、容赦がないのか・・・単に天然なのか、判断しかねる発言をする第二王子アウグストと第四王女のクラウディアにツッコミを入れつつも、第七王子であるルートヴィッヒは未だ会話に参加してこない第一王女であり、姉弟の纏め役でもあるアーデルハイドへと視線を投げた。
深紅の美しい髪を風に遊ばせながら、アルトゥールと対面する位置でじっと彼を凝視していたアーデルハイドはふむ、と自身を納得させるように頷きながら優雅に足を組み替えた。
「・・・・・・今の所、アルトの『血液』には異常は見られない。・・・病から来るものではなさそうだな。」
「はい、アルト兄様の厄介事巻き込まれフラグ成立ですわ~!」
「ぐっ・・・・・・」
「とは言え・・・ヒルダ。結果は?」
「それが・・・アデルお姉様・・・・・・わたくしの『水晶』を以てしても、アルトに降りかかる『災難』の正体は掴めませんでしたわ。」
「?・・・ヒルダにも視えない・・・だと?我が国一番の腕を持つ『予言者』のお前が?」
アルトゥールを茶化す年下の妹弟たちを横目に、ヒルデガルドの言葉に首を傾げたギルベルトとアーデルハイドだったが、ある可能性に気づきはぁっと深い溜息を吐いた。
「『プリオール』のほぼ全土を見渡せるヒルダが未だ嘗てその全貌を見知ることができない場所となると・・・可能性はひとつだけ・・・だな?」
「あぁ・・・どういう経緯でそこへアルトが飛ばされるのかは解らないが・・・・・・確かに、アルトにとっては厄介事だろう・・・しかし、ある意味では幸運でもあるな。」
今まで【封じられた大陸】の内情はこちらからでは覗い知れなかった。アルトが呼ばれることで恩を売れるのであれば、こちらとしても美味しい話になってくる。と、純粋な知識欲、そして為政者としての一面を垣間見せるアーデルハイドにギルベルト達も「そうだな。」と頷いた。
「まぁ、それが何時なのかが解らない以上、今からいろいろ準備をしておくべきだろう。アルト、必要なものは一通り揃えておくように。」
結局逃れられないのか・・・と疲れた様子のアルトゥールは、ふぅっと息を大きく吐くと、それまでの情けない表情を一変させ、自国の名を背負う一員としての自覚を持って、アーデルハイドの前に跪いた。
「・・・・・・・・・・承知致しました、アデル姉様。・・・場合によっては国を長く空けることになるやもしれませんが、ご了承ください。」
「勿論だ。・・・・・・それから・・・・・・ヒルダ。どうせならお前もアルトの厄介事に巻き込まれてみるか?」
「えっ?」
「!!?」
「結界の外では視えなくとも、結界の内側に行けばアルトの身に降りかかるものもはっきりと視えるかもしれないだろう?・・・それに、アルトだけでも大丈夫だとは思うが・・・我らには未知の場所だからな。貴重な王族をたった一人きりで行かせるのはやはり危険だろう。」
私が行ければ一番なのだがな。と肩を竦めてみせたアーデルハイドに、ヒルデガルドは心得たと言わんばかりの、麗しい微笑みを浮かべて、アルトゥールと同じく最上礼で姉の言葉に応えた。
「・・・王太姫の御心のままに。」
「あぁ、頼んだぞ。」
さぁ、気を取り直してお茶会の続きをしよう。と、この話はここまでと言わんばかりにアーデルハイドが手を叩けば、控えていたメイド達が颯爽と現れて、温くなってしまった紅茶を取り替えていく。
そんな様子を眺めながら、アルトゥールは、取り敢えず、今を楽しもうと、大好物のアッフェルクーヘンへと手を伸ばした。
――――――――――――そんな姉弟のやりとりがあったのは、エリスたちがクエストに出発する3日前の事である。