洩別2
それから一時間後、病院の霊安室で滝沢は美咲と再会した。
静まりかえった部屋の白いベッドの上に、シーツに包まれた美咲の姿があった。
「あっう……」
滝沢がベッドに向かってゆっくりと歩き出す。
膝がカクンと折れ、思わず躓きそうになった。
「ううっ」
美咲の顔の部分に白い布が当てられている。
滝沢の手がその布に向かってゆっくりと伸びた。
手全体が震えていた。
流れる鼻汁を啜るように滝沢は大きく息を吸い込み、それを嗚咽と一緒に吐き出した。
息すらも震えていた。
顔の布を静かにめくり美咲の顔を見た。
「うぁぁー」
声が漏れた。
その瞬間、滝沢の緊張が一気に解けた。
ガクンと膝を付いてベッドの端に手を突いた。
「ううぉぉ!」
滝沢はそのまま激しく泣きじゃくり、声にならない声を上げた。
ベッドをきしませ、自分の身体をきしませ、まるで獣のように吠える事しか出来なかった。床に何度も自分の頭を打ち付け、息を吸う事も忘れた様にのたうち回った。
「がはっ……」
自分の涙で咽せ込み、何度も咳をした。
何をどうしようと、いくらわめこうと、どれだけ涙を流そうと滝沢の心は収まらなかった。
その時、突然ドアをノックする音が響いて二人の男が入ってきた。
「滝沢馨さんですね」
年配の髪の短い男が、スーツの内ポケットから黒い手帳を取り出してそれを開いて滝沢に見せた。
「私、三咲中央署の小林と言います。この度はご愁傷様でございます」
滝沢が泣き腫らした目を小林に向けた。額からは血が溢れていた。
そんな滝沢を見て、若い方の刑事高橋が目を細めた。
「こんな時に申し訳ないのですが、滝沢さん犯人を目撃されているという事で、少し話しを聞かせてもらえませんか?」
滝沢がぼんやりと小林の顔を見つめている。
「目撃者の証言ですと、滝沢さんが美咲さんの元へ駆け付けた時、犯人は美咲さんを人質にしていたという事なんですが、間違いありませんか?」
「ううっっ」
滝沢が声を詰まらせた。
その時、高橋の携帯電話が鳴り響いた。
「失礼」
高橋がスーツのポケットから携帯を取り出した。
「はい、高橋」
高橋が小声で対応している。
「何!」
突然高橋が叫んだ。
「小林さん、犯人が見つかったそうです」
小林が高橋の元へと歩いてゆき、高橋の携帯を奪い取った。
「小林だ。どういう事だ?」
短いやりとりの後、小林が電話を切った。
滝沢は呆然とその成り行きを見守っているだけだった。
「滝沢さん。今連絡がありまして、犯人は自殺したそうです」
「美咲……」
滝沢が頭を項垂れて、また泣き出した。
「失礼しました」
小林がポツリと呟き、部屋から出て行った。
閉めたドアの中から、泣き喚く滝沢の声が聞こえてきた。




