そういえばこいつ天才だった
囂々と塔が燃えている。
チラチラと光る赤に、絶叫した。
「エマーーーーーーーー!」
⭐︎
「…い。リカせんぱーい」
「っふが!?」
息が詰まった。目を開けると、クソ生意気な後輩が覗き込んでいる。
あぁ、なんかやばい夢見た気がする。なんだっけ。
周りには大量の羊皮紙が散乱している。片付けるのも億劫なのでそのままだが。
「先輩、居眠りっすか?」
呑気に聞いてくるが、ひとつ確かめなければ。この塔には二人しか基本出入りしないのだから犯人は分かりきったことだけど。
「ねぇ今あなた、私の鼻つまんだ???」
「はい。つまみましたぁ」
悪びれもしない後輩に盛大に舌打ちする。
こいっつ。寝てる間に人の鼻つまむとか、殺す気か?
「何してくれてんのよ!」
「そんなことより先輩」
「聞きなさいよ!!」
「あの魔法陣、なんすか?」
つられてさし示した方向を見た。塔の壁いっぱいに描いた白い魔法陣。昨日の夜、徹夜で描いたものだ。
「あぁ。あれは竜に対して発動させる防御のやつ。ほら、先の地震で結界が不安定になったでしょう?」
「先輩は心配性だなぁ。その時々でねじ伏せたらいいじゃないですか」
「いやぁ。備えあれば憂いなしってやつよ」
大欠伸した私に、ドン引いた目で後輩が見る。魔法学校にいた時からの仲だが、魔法陣に関しては私の右に出るものがいないことは彼女も知っているはずだ。
「さて。仮眠もとったしそろそろ行くか」
「どこにです?」
「予算委員会よ。研究費ぶんどりに行くの。さぁやるわよぉぉ!」
「キモい」
「なんですってぇ?」
予算の重要性をわからないなんて馬鹿の極みだわ。
ただでさえ研究費が足りないのに、どっかの馬鹿がやらかし続けるから金が足りないのよ!
エマの首根っこを引っ掴んで、ずりずりと引きずって塔の下に向かった。
⭐︎
予算は無事ぶんどれた。帰ったらご馳走にしよう。ふんふんとエマを連れ塔に戻る。
空が赤かった。異変を感じたエマが焦った声で私を呼ぶ。
「先輩、あれ!!」
塔が真っ赤に燃えていた。
足がガタガタと震え出した。
私、この光景知ってる。
「先輩、ちょっと私行ってきますね」
っっ!
「だめよエマ、戻って!」
「えぇ?大丈夫っすよ。そこで待っといてくださーい」
エマの後ろ姿が赤に飲み込まれていく。
炎の中に、姿を見失った。
突如、風が吹き上げた。煽られた炎が空に舞う。
ーーだめ。
私はこの後を知っている。
空気の流入により、爆発的に燃える。
そしてーー
あの子が、死んでしまう。
炎の柱が首をもたげた。炎が一気に膨張し、
燃え移っていく。
視界が赤に呑まれた。何も見えない。熱い。息苦しい。
げほりと咳き込んで叫んだ。
「エマーーーーーーーー!」
音が消えた。
ビカッッッーーー!
世界が真っ白に染まった。
ぽたり。
ぽたり。
水が滴った。
ゆっくりと顔を上げる。
塔の炎は消えていた。それどころか、見渡すとどこもかしこも濡れている。
雨?
神がバケツでもひっくり返したの?
ぽた、ぽたと髪から水がこぼれ落ちていく。
簡易魔法陣で飛び上がり、遠くまで見渡す。
街が、濡れていた。
一番近い城下だけじゃない。川向こうも、その先も。
あれ。
もしかしなくてもやばい?
ヒヤリ、と背筋を水滴が伝う。
あぁそうだった。忘れていた。
そういえばあの子は。
塔に駆け込み一段飛ばしで最上階まで登る。
消えた魔法陣。
濡れた羊皮紙。
崩れかけた棚。
その中心で、エマがヘラヘラと笑っていた。
「あ、先輩」
「エマ、あなたーー」
わなわなと体が震えだす。エマがぺろりと舌を出した。
「やりすぎちゃいました」
エミリー・サーディ。
魔法学校で一番の問題児。
そして最上級魔法の使い手。
ーー天才だ。
「私、天才なんで」
おまけ 予算委員会でのおっさん(上司)との会話
「いやぁ、君たちいい加減にしてくれよぉ。調整って言う言葉知ってる?ただでさえお金ないんだよ?」
「でも解決はしてるじゃないですか。見逃してくださいよぉ」
「お願いします!お金ください!!!貢献しますんで!こいつにも言って聞かせますんで!どうか!どうか研究費を!」
「苦情が出てるから言ってるんだけど。国から怒られるの君たちじゃなくておっさんなんだけど」
「そこをなんとか!」
「……頼むから大人しくしててね??」
「します!!!」
「信じるよ?」
「ありがとうございまーーす!」
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