はじまりの記憶
朝からずっと不安というか、
ソワソワして落ち着かなかった。
今日はお姉ちゃんが遠征から帰ってくる日。
お姉ちゃんはすごく強いし、すごく頑丈だ。
おまけに、異能のおかげで
尋常じゃない回復力もある。
でも、『極地』に行くって聞いた時、
私は必死になって止めた。
『極地』は危険だ。その辺の『異地』とは
文字通り格が違う。
20年前、世界全体が『異変』に見舞われた時。
至る所から化け物……『異獣』が溢れ出してきた。
異獣は通常の兵器がほとんど効かず、
特殊なエネルギー……『異力』を使わないと
倒すことができない。
最初、人間側には『異力』がなく『異獣』に対して
手も足も出なかった。世界人口の4分の3が殺され、
いよいよ人類もここまで、となった所で人間側に
変化が起きた。
『異能』
今、私たちが『異能』と呼んでいる力を
持つ人間が生まれ始めた。
何かのきっかけで目覚めた『後天的覚醒者』、
『異力』に適応し、生まれた頃から『異能』を
身に宿す、『先天的覚醒者』。
これら『異能力者』のおかげで、
人類はどうにか絶滅を逃れ、
今の今まで生き延びている。
そこから20年間、日本は少しずつ『異獣』を倒し、
居住地を取り戻してきて、今や日本の『異獣』は
散発的に各地域に残る『異地』と、
北海道や九州と南北に巣食う
『極地』から出てくる個体のみとなった。
まぁ『異地』はともかく、『極地』はやばい。
出てくる『異獣』の強さが段違いだ。
その上『極地』の中にはまだまだたくさんの
『異獣』が残っていると予想されている。
しかし今回、日本政府は極地遠征へと乗り出した。
たくさんのお金、たくさんの物資、
そしてたくさんの異能力者を動員し、
極地の調査及び局地の縮小を狙って。
今日は、そんな極地遠征部隊が帰ってくる日。
ニュースでも、帰還の旨が取り上げられていた。
「大丈夫、大丈夫……」
そう心に唱え続けるも、不安は拭えない。
心にある焦燥感と喪失感は強まるばかりだ。
そうこうしていると、
「ピンポーン」
とチャイムが鳴る。
おかしい。お姉ちゃんは家の鍵を持っているはず。
なぜ、チャイムを鳴らした?
死
嫌な予想が脳裏によぎるが、
そんなはずはない、と言い聞かせ、
扉に向かい「ガチャリ」と鍵を外す。
扉の外にはあのお人好しが居るはず。
少し抜けているお姉ちゃんのことだ。
鍵を無くしてしまったんだろう。
そうやって自分に都合のいい言い訳を並べ立てながら震える手で扉を開ける。
目に飛び込んできたのは、
まだ若い男女のペアだった。
どこにもお姉ちゃんの姿はない。
嫌だ。そんなはずない。
そうして黙りこくった私に、
彼らのうちの女性の方がが声をかける。
「綺羅星さんの、妹さん……ですよね」
嫌だ。その先の言葉を言わないで。
「お姉さんの遺品と、遺書を届けに参りました」
その言葉を聞いた途端、私の思考は真っ白になった。続けて何か言っていた気がしたが、
もう何も認識できなかった。
彼等は私に箱を渡すと、
どこか悲痛な何かをこらえるような顔をした後、
なにも言わず立ち去って言った。
気づいたら、私はリビングの椅子に座っていた。
目の前の机には先程彼らに渡された
『お姉ちゃん』があり、
無情にもこの光景が現実であると伝えている。
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ずっと昔、私たちが小さかった頃に、
お姉ちゃん言ってたっけ。
『たくさんの人を助けたい!
お父さんとお母さんみたいに!』
って。
まさか、本当に同じふうになるなんて
思わなかったよ。
見知らぬ誰かのために自分の命まで賭して。
2人と死に方までそっくりだなんて。
分かってる?
死んだら、もう何も出来ないんだよ?
困ってる誰かに手を差し伸べることも、
泣いてる誰かの涙を拭ってあげることも、
そして、大切な誰かと一緒にいてあげることも。
出来ないんだよ?
なのに、なのにさ、
「バカみたいじゃん……」
声が漏れ出る。
血の繋がってる家族より、
見知らぬ誰かのための人助けの方が
そんなに大事なの?
分かってる。
お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも、
私なんかと違って立派な夢があって、
それを叶えるだけの才能も、力もある。
それに比べて私は、何をやっても中途半端で、
泣き虫で、ずっと家族の誰かに引っ付いてた。
小さな頃は持ち前の記憶力のおかげで
何とかなってたし、家族のことを本当にすごいと、
誇らしいと思ってた。
中学生に上がってから、
自分のことに目がいくようになって、
家族と比べて劣等感に
苛まれることもあった。
沢山泣いて、喚いて、
大嫌いだなんて言ってしまって。
でもさ、それ以上に、
私は大好きだったんだよ。
優しくて、頼りがいがあって、
太陽みたいなお父さん。
あまり喋らないけど私たちのこと大切なんだって、
ずっと守ってくれる、かっこいいお母さん。
明るくてキラキラしてて
咲き乱れる花みたいなお姉ちゃん。
みんなみんな、大好きなんだ。
でも、もう居ないんだ。
私以外、この家には誰も。
ずっとずっと、あの日常が続くんだって思ってた。
思いなんて言わなくても、
口に出さなくても分かってくれるって、
甘えてた。
大好きだって伝えたい。
そばに居てって、泣き喚きたい。
でも、
でも、
伝えたい相手は、
だれも……
だれも……
ねぇ、何か言ってよ。
みんな。ただいまって言ってよ。
わたしに、おかえりって、言わせてよ。




