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一歩も歩けない異世界転生 〜全てが「ひっぱり物理演算」で決まる世界に来たので、元CADオペレーターの俺が神の反射角(ベクトル)で無双する。抱き合いたい妹が「貫通タイプ」で近づくと爆発するんですが……〜

掲載日:2026/04/10

「この物語の世界には『歩行』が存在しません。移動はすべてベクトルによる射出と反射。どこかのスマホゲームで見たことがあるような光景ですが、女神がテキトーに作ったせいで物理演算がバグりまくっているのが特徴です。独自の用語が出てきますが、直感で『あぁ、あの激ムズギミックのことね』と理解していただければ幸いです」

第一章:おはようから、絶望の射出ベクトル・シフトまで

「……くそッ。動け、動けよ……ッ!!」


目を覚ました瞬間、俺は自分の右足に全神経を集中させた。

太ももの筋肉を収縮させ、膝を曲げ、足裏で地面を蹴る。前世――日本でCADオペレーターをしていた頃なら、無意識にできていた動作だ。


だが、動かない。

まるで足の裏が、この宿屋の床と原子レベルで融合しているかのように、ビクリともしないのだ。


「……あぁ、そうだった。ここは……『ベクトリア』だったな」


天井を見上げ、深く、重い溜息を吐き出す。

半年前にこの異世界に転生してから、毎朝繰り返されるこの絶望。俺は、いまだに「一歩踏み出そうとする」という無駄な抵抗を諦めきれずにいる。


この世界、ベクトリアには「歩行」という概念が存在しない。

女神ベクトルナの気まぐれにより、全ての生物は地面に固定されている。移動するには、何者かに自分の体を「引っ張って」もらい、その反動で射出されるしかない。


「……お兄ちゃん、またやってるの? 往生際が悪いわね」


隣のベッドで、義妹のルナが欠伸をしながら起き上がった。

彼女はこの世界の住人だ。「歩けない」ことに何の疑問も抱いていない。


「……うるさい。俺は、自分の足でトイレに行きたいだけだ」


「無理よ。ほら、予告線ベクトルが出てるでしょ?」


ルナが指差した足元を見る。

俺の意思と連動し、進行方向を示す極太のオレンジ色の予報線が床に浮かび上がっていた。

それは俺の後ろ髪を、目に見えない「神の指」がグイッと引っ張っていることを示している。指が離された瞬間、俺は弾丸となって飛んでいく。……それが、この世界の「歩行」だ。


「……よし。座標指定、完了。……ベクトル・シフト!」


俺は襟首を掴んでいた手を離した。

電子的な**「ピキョーン!」**という音が寝室に響き渡り、俺の体は砲弾と化した。


ビヨヨーン! バキィッ! ズドドドッ!!


壁、タンスの角、天井を正確に三回リバウンドし、最後は食堂の椅子に「着席」という名の全力体当たりを決める。衝撃で昨日の残りのスープが少し跳ねたが、許容範囲だ。


「お兄ちゃん、今の**『リバウンド・レート(反射角)』**、ちょっと甘かったんじゃない? 左に0.3度ズレてたわよ」


ルナが朝食を準備しながら言った。


「うるさい。……それよりルナ、朝飯に触る時は気をつけろよ。俺はまだ**『共鳴連鎖レゾナンス・チェイン』**の蓄積値が溜まってるんだ」


「わかってるって。……あ、お醤油取って」


ルナの手が、うっかり俺の指先に触れた。


――キュイィィィィィィン!!


「あッ!!」


彼女が触れた瞬間、俺の背中から、八方向へ向かって**極太の熱線(光属性レーザー)**が射出された。

レーザーは食堂の天井を焼き抜き、朝食の目玉焼きを蒸発させ、村の空を飛んでいた渡り鳥を数羽、丸焼きにして落とした。


「……ごめん」

「……お前の『砲撃型』の才能、マジで呪いたい」


これがこの世界の「友情」だ。親愛の情を示す「接触」が、そのまま広域破壊兵器の起動スイッチになる。

抱きしめたいのに、近づけばお互いを焼き尽くしてしまう。俺たちは、物理的な距離という名の、残酷な制約の中で生きている。


第二章:ギルド『ベクトル計』の、落ち着きのない日常

村の外れにある冒険者ギルド。ここには、女神のバグに翻弄される哀れな連中が集まっている。

だが、その光景は、前世の俺が知るギルドとはかけ離れていた。


「おい、そこ退け! **『慣性維持アンチ・イナーシャ』**を持ってない奴は端を転がってろ!」


猛スピードで横切っていく冒険者の風圧で飛ばされそうになる。

ギルド内では、人々が壁や天井を縦横無尽に跳ね返りながら、依頼票を確認したり、酒を飲んだりしている。

誰も、一箇所に留まっていない。止まっているのは、壁に激突して気絶している奴か、これから射出される奴だけだ。


「……さて、今日の依頼は……」


俺は、ギルドの壁に一度バウンドし、カウンターの前にピタリと停止した。

前世でCADオペレーターをしていた経験――設計図上の1ピクセルの狂いも許さなかったあの執念が、今、この狂った世界の「軌道計算」に役立っている。


「あら、アルくん。今日も精密な停止位置ね」


受付の女性が、カウンターの後ろでビヨンビヨン跳ねながら微笑んだ。


「今日の依頼は、村の南にある『嘆きの谷』に出没した『ロックゴーレム』の討伐よ。最近は**『遅延粘性力場スロウ・フィールド』に加えて、『極性反発壁ボルト・ウォール』**を張る個体も確認されているわ」


「スロウ・フィールド」に「ボルト・ウォール」。

女神の悪意が凝縮された最悪のギミックだ。


「……アル、お前、その依頼受けるのか?」


背後から声をかけられた。仲間の戦士、ガッツだ。

彼は、不気味に明滅する黄色い光を放つ**『時限式魔導爆核デトネーター』**を両手に抱えていた。


「地雷除去の依頼の途中なんだが……、あのアホ女神、起爆条件を『3秒後』じゃなくて『接触即死』にアプデしやがった。……お陰で、除去中に仲間が一人飛ばされた」


「……お前のパーティー、爆発物処理班かよ」


「うるさい。……それよりゴーレムだ。俺は移動速度が殺される『スロウ・フィールド』が苦手なんだ。お前はどうする?」


「俺は反射タイプだ。ルナの貫通属性と組み合わせれば、フィールドの外側からでも叩ける」


俺は脳内に図面を広げた。

「ルナが敵の外部装甲を貫通し、内部コアを露出させる。俺はゴーレムの足元と、背後の崖の隙間に潜り込む。……角度は、ゴーレムの入射角に対して35.42度。……これで、フィールドの粘性を最小限に抑えつつ、一秒間に200回の『臨界破砕カンカン』を叩き込める」


俺の視界には、CADで設計したような、精密な予報線が浮かび上がっていた。

他の住人が「だいたいこの辺!」と根性で弾けている中、俺だけが、ミリ単位の精度で世界を切り裂く。


「よし、行くぞ。……射出準備!」


第三章:嘆きの谷、物理演算の地獄

嘆きの谷。そこは、女神の悪意が形となった場所だった。

巨大なロックゴーレムが、不気味な青い光を放つ『スロウ・フィールド』の中で、俺たちを待ち構えていた。

さらに、周囲には無数の『魔導爆核(地雷)』が撒かれている。


「……ルナ、先行しろ! 内部コアを露出させろ!」


俺は空中で体勢を整え、壁に一度バウンドして敵の背後を取った。


「了解! 『臨界限界突破オーバー・ドライヴ』!!」


ルナが叫んだ。この世界の必殺技の発動条件は、「世界中に響き渡る声で、最高に恥ずかしい決め台詞を叫ぶ」ことだ。


「――私の愛は貫通する! 乙女のハート、受け取りなさい!!」


「……相変わらず、聞いてるこっちが死にたくなるセリフだな」


ルナの体がピンクの光に包まれ、時速400キロを超えてゴーレムを貫通した。

巨体の中心部で弱点が露出し、そこへ俺が突っ込む。


「今だ! **『共鳴連鎖』**を起動する!」


俺は、ルナを追いかけるように自分を射出した。

ゴーレムの体を突き抜け、反対側の壁にバウンドしたルナに、俺が接触する。


ピキョーン!!


彼女に触れた瞬間、彼女から極太の熱線が垂直に放たれ、ゴーレムの親玉を直撃した。


「グギャアアア!!」


ゴーレムが悲鳴を上げ、その巨体が揺らぐ。

俺の脳内予報線が、勝利への軌道を捉えた。


「……捉えた。**『臨界破砕』**を決める!」


俺はゴーレムの足元と、背後の崖のわずか数センチの隙間に、自分をねじ込んだ。


ドカカカカカカカカカカカカカカカッ!!


一秒間に数百回の往復衝突。俺の肉体は悲鳴を上げるが、止まることは許されない。反射回数が増えるごとに威力が増幅される物理法則が、ゴーレムの岩肌を砕いていく。


だが、ここでゴーレムが死に際にギミックを発動させた。


「……ッ!? 壁が、光りだした……**『極性反発壁』**だ!」


四方の壁が真っ赤に燃え上がり、触れるだけで高圧電流が流れる処刑場へと変貌した。

俺はまだ反射中だ。一度壁に触れれば、今の加速がそのまま「自滅」となって返ってくる。


(……くそ。……ここまでか)


死を覚悟した瞬間、俺の脳内に、アホ女神のテキトーな顔が浮かんだ。

『えー? 角度さえ合えば壁にぶつかっても痛くないよ?』


(……角度さえ、合えば……痛くない?)


その瞬間、俺の脳内CADが、ありえない軌道を導き出した。

反発壁は「壁に垂直に触れる」ことで発動する。ならば、**「壁面と完全に平行な角度」**で侵入すれば、接触判定を回避できるのではないか?


(……0.0001度の狂いも許されない。……だが、俺は図面のプロだ!)


俺は反射の瞬間に、自分のベクトルを極限まで微調整した。

崖の表面に対して、完璧な平行。1ピクセルも狂わない、神の軌道。


――シュパァァァン!!


俺の体は、真っ赤に燃える反発壁の表面を、滑るように駆け抜けた。

発動しない。高圧電流は、俺の体を捉えることができない!


俺はそのまま、ゴーレムの頭部へと突っ込み、その核を粉砕した。


第四章:勝者の孤独、あるいは病院代

戦いは終わった。

ゴーレムは宝石となって霧散したが、俺の手元には何も残っていない。

激闘の衝撃で、報酬の宝箱は粉々に砕け散り、中身はルナの熱線に焼かれて塵となっていた。


「……赤字か?」

「……うん。お兄ちゃんの治療費と、ギルドへの『壁の修理費』を合わせたら、余裕で赤字だね」


俺たちは、夕暮れの道をリヤカーを引いて帰ることにした。

もちろん、一歩も歩けないので、互いの背中を引っ張り合い、壁や地面にバウンドしながらの帰宅だ。


「……なぁ、ルナ」


「なあに?」


「……いつか、……アホ女神の顔を、このベクトル量でぶん殴ってやりたいな」


「あはは、いいかも。……あ、お兄ちゃん」


ルナが、少し離れた位置から俺を見た。


「いつか、……普通に歩けるようになったら。……手を繋いで、デートしようね」


「……あぁ。……そうだな」


俺たちは、それ以上近づくことはできなかった。

近づけば、また「共鳴」が暴発して、この平和な帰り道が愉快なオブジェだらけになってしまうから。


遠くで、また誰かの「臨界限界突破!」という恥ずかしい叫び声が響いた。

ベクトリアの夜は、今日もどこかで「ピキョーン!」という衝突音が絶えることはない。

俺は、いつか自分の足で一歩を踏み出す日を夢見て、今日もベクトルの一部となる。


(完)

【追伸:女神様へ】

次にアプデするなら、せめて「トイレの個室にワープホールを設置する」のはやめてください。隣の街まで飛ばされて、半日戻ってこれなかった俺の身にもなってください。

他の人ならもっと面白い話にできそうな気が、、

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