金の肉
おいしいものを食べることが大好きな、とても太った王様がいました。
毎朝目玉焼きを五つ、ポタージュスープを七杯、ふわふわのパンを十個も食べて、十時のおやつにはチョコレートを一箱まるまる平らげ、昼食にはボウル一杯のスパゲッティ、三時のおやつにはホールケーキをまるまる一つ、そして夕食には豪華な肉や魚のフルコースを三人前食べるといった調子です。そして、ちょっと小腹が空いた時のために、執務室にはいつもカップケーキを二十も三十も置いていました。
王様は家来や民にとても優しかったので、みんなから好かれていたのですが、一方で誰もが王様のめちゃくちゃな食べっぷりと日に日に太っていく様子を心配していました。
そこで、家来たちはこっそりと相談し、遠い異国からとても腕の良い医者を呼びました。医者はお城に招かれ、王様の暴飲暴食ぶりを目の当たりにすると、最初は目を白黒させ、それからちょっと笑い、しまいには黙りこんでしまいました。
王様は、珍しい客が来たので、たくさんの料理でもてなしながらにこにこと話しかけます。王様はとりわけ剣や格闘技の試合を観るのが好きでしたから、医者の国での格闘技の様子を知りたがります。
「余も、こんなに太っていなければ剣や格闘技の試合に出てみたかったのだが……」
まあるくふくらんだ自分のお腹を見下ろしながら王様が言いました。その場に同席していた女王様や王子様は、どんな顔をしていいかさっぱり分からず、目の前のデザートに夢中なふりをします。
けれど、医者は違いました。王様をまっすぐに見つめ、こう言いました。
「陛下、試合に出るために必要なものをお教えしましょう」
「なに? 剣とかかな?」
「いいえ、違います。__これさえあれば、陛下も試合で優勝できるものです」
「なんと。一体それは何じゃ? 教えてくれ!」
医者は答えました。
「それは、『キンニク』です!」
王様も、その場にいた誰も、『キンニク』のことを知りませんでした。けれど、王様は目を輝かせました。
「キンニク? それは、おいしそうな肉じゃな! しかも、それを食べると試合で優勝できるくらいに強くなるのか!」
そこで王様は、鈴をちりんちりんと鳴らし、料理人頭を呼びました。
「明日の晩餐は、『キンニク』料理を出してくれ!」
それを聞いた医者は思わず笑ってしまいそうになりましたが、なんとかがまんしました。
さあ、困ったのは料理人頭です。『キンニク』がなんなのか、分かりません。でも、王様のご命令なので、
「かしこまりました」
と答えました。
さて次の日の夜、王様はわくわくしながら晩餐の席に座りました。いつものようにテーブルクロスがしかれ、おいしそうなにおいがただよってきます。わくわくする王様の前に、前菜とサラダが運ばれてきました。
あっという間に出される料理をたいらげ、王様は「キンニク」料理を待ちました。料理人頭が、緊張で少し震えながら銀の蓋でおおったお皿を運んできます。医者も女王様も王子様達も家来も、みんなが「キンニク料理」に注目しました。
蓋を開けると、出てきたのは金粉を一面にまぶした分厚いステーキ肉でした。
きらきらと金色にかがやくその大きな肉からは、まだじゅうじゅうと肉汁があふれ飛び散っています。待ちきれない王様がお行儀悪く金色の肉に手を伸ばした時、医者がさっと立ち上がり、肉の皿を王様から遠ざけました。
「王様、『キンニク』とは、金の肉ではありません。キンニクは、王様が一生懸命体を鍛えたら、自然と身につく強い体の組織なのです。けれどキンニクを手に入れるためには、並外れた努力が必要です」
「そ、それは、いったいどんな?」
王様は、つばをのみました。
「とにかくたくさん体を動かすことです。これから、毎日お城の中を一階から最上階まで上ったり下ったりしてください。それから甘いおやつは食べてはいけません。食べていいのは、あぶらっこさのない固い肉や、野菜とくだものです。お酒も飲んではいけません」
王様は、まるで剣の切っ先を突きつけられでもしたかのように、青くなりました。けれど、医者が厳しい目でにらんでいるので、うなずかざるをえませんでした。
医者は料理人たちに命じて、豪華な料理を残らず下げさせました。(余った料理は、家来みんなで食べました)それから、走ったり、腕立てふせや腹筋をするように王様に言いました。また、踊りの名手を呼んで、王様たちに踊りを教えさせました。踊りというものは、全身をよく使うからです。
それから、一日二回のおやつは禁止して、朝昼晩の食事にはサラダとパン一つ、冷えた蒸し鶏を出しました。王様はこれまでとがらりと変わったお皿を見るたびにとても悲しそうな顔をするのですが、医者が譲ることはありませんでした。
ひいひい言いながら医者の言うことに従う王様をかわいそうに思って、医者をわるく言う家来もいました。けれどほとんどの家来は、王様には良い薬なのだと分かっています。
さあそうなるとかわいそうなのは、つきあわされる女王様や王子様なのですが、そこは医者もちゃんと分かっていて、彼らの休憩時にはこっそりおやつやジュースを飲んでいいことにしました。女王様と王子様たちは元々あまり太ってはいなかったからです。彼らも一緒に運動させるのは、王様にやる気を出させるためでした。
そんな運動や食事を一ヶ月続けると、王様はすっかり……とまではいかなくっても、かなりやせてきました。
「どうだ、キンニクがついてきただろう」
以前の半分ほどの太さになった腕を医者にみせながら、王様は言いました。医者は王様の腕にさわってみて、首を振りました。
「まだまだ、キンニクはついていません。でも、もう少しがんばれば必ず身につきますよ」
「そうか、では頑張らなければな」
王様は、自分から運動を始めました。その様子を見守る医者に、家来がこっそり話しかけます。
「王様は本当に頑張っているので、たまには大好きなものを召し上がってもらいたいのですが……」
「メニューを見せてください」
家来が用意したメニューを見るなり、医者は怖い顔をしました。
「砂糖とクリームたっぷりのケーキなんて、いけません。せっかくがんばっているのに、あっという間に太ってしまいますよ」
「そんな……」
「でも、ステーキならいいでしょう。筋肉を育てる栄養になりますからね」
「金粉は?」
「少しならいいですが、この前みたいにどっさりかけたらだめです。金属は体にわるいのです」
「わかりました!」
料理人は、たちは、さっそく大きなお肉を焼きに、台所へかけていきました。頑張って運動をしている王様は、まだそのことを知りません。夕食の時間になったら、さぞかし大喜びすることでしょう。




