第5話:隠された糸口、そして決断
宮廷の夜は、昼間とはまるで別の顔を見せる。
灯籠の淡い灯りが、廊下の隅々をぼんやりと照らし出している。
私は静かに歩みを進めながら、胸の奥に渦巻く不安を押し殺していた。
「蘇静蓮、これを見てくれ」
江煕の声が、穏やかながらも緊張を孕んでいる。
彼が差し出したのは、先日私が解析した布片の別の一部だった。
「この部分の縫い目が、これまでのとは違うリズムを刻んでいる」
彼は指でゆっくりと線をなぞった。
私の目は自然と釘付けになる。
縫い目の間隔に、微妙な変化があった。
思わず息を飲む。
この違いは、単なるミスではない。
意図的な暗号の変化。
「これは……メッセージの終わりか、それとも新たな暗号の始まり?」
私は声に出して自問する。
その夜、私は資料室にこもり、織符の解読に没頭した。
江煕が持ち込んだ布片の断片から、新たなメッセージを読み解く。
文字列はこう告げていた。
「“監視”――」
後宮のどこかに、秘密の監視網が張り巡らされている。
そして、私たちは今、その網の中にいるのかもしれなかった。
翌朝、私は緋月に再会した。
彼女は怯えた様子で囁いた。
「妃嬪の一人が、最近“異変”に気づいているようです。夜な夜な誰かの気配を感じ、声が震えている」
私は静かに頷いた。
午後、江煕とともに妃嬪の部屋へ向かう。
そこにいたのは、端正な顔立ちの若い妃・蓮華だった。
彼女は私を見ると、かすかに微笑んだ。
「蘇静蓮さん、あなたの話は聞いています。私も、真実を知りたい」
蓮華の瞳には、決意と不安が交錯していた。
私たちは夜の後宮を慎重に歩きながら、蓮華の話を聞いた。
彼女は最近、誰かに尾行されていると感じているらしい。
「私はただ、静かに暮らしたいだけなのに」
その言葉に、私は胸が締め付けられた。
だが、その日の夜、不可解な事件が起こる。
蓮華が倒れ、急に意識を失ったのだ。
私はすぐさま診察を始める。
脈を取り、舌の色を確かめる。
(これは……毒だ)
しかし、いつもの鍼や布に付けられたものとは違う。
翌朝、江煕と調査を重ね、蓮華の毒の成分が判明した。
それは新種の神経毒で、微量でも急激な心拍異常を引き起こすものだった。
犯人は、毒の種類を変え、警戒心を高める私たちを翻弄しようとしている。
私はふと、自分の境遇を思い出した。
辺境から呼び寄せられ、知らぬ間に宮廷の闇に巻き込まれた。
だが、今はもう逃げられない。
蓮華が回復した夜、私は決意を固めた。
この後宮に隠された秘密を暴き、真実を明らかにする――。
そして、いつか、この暗闇の中で、江煕と心を通わせられたらと、密かに願った。
(それは、私だけの小さな希望)
書き溜めた話の掲載が終わったので、一度完結済みにします。
明日以降執筆が終わり次第、再開します。




