合格発表と新たな迷い
本選の切符を手にした風in火山PJTだが、さらなる試練が立ち塞がる。フレキシブルローゼスの圧倒的な存在感と、林音のつかみどころのない視線。そんな中、思わぬ助っ人として現れたのはシンガー・鈴楓からの紹介で知ることになったプロデューサー・悠栄という大人物。
勢いと根性だけでは乗り越えられない壁があると痛感しながらも、彼らは少しずつ環境を変えていこうと奮闘を始める。果たして運命の出会いは成功への糸口となるのか、それともさらなる混乱を招くのか――次なる舞台への道筋が、大きく動き出す。
翌日、会場前に張り出された結果――そこにはしっかりと“風in火山PJT”の名があった。
「やったー!」「マジかよ、すげえ!」
火煉と山河が大喜びし、俺もガッツポーズ。これで次のステージに進める。
しかし次の本選は、さらに厳しい審査と華やかな演出が要求されるらしい。
「どうするよ。私ら衣装もお金も人脈もないんだけど」
火煉が頭を抱える。山河も「地道にバイトしても間に合わないだろうしなあ」と嘆く。
すると、背後から人の気配が。振り返ると、フレキシブルローゼスのメンバーたちが、まるでこっちを見下すかのような態度で近づいてきた。
「へえ、君らも通ったんだって? まあ、せいぜい頑張れば」
ボーカルの男がいやらしく笑う。その隣には林音の姿もあるが、彼女は無表情で俺たちを見ている。
「次はもっとレベル高いからな。中途半端なバンドはあっさり蹴落とされるぞ」
「あんたらなんかに負けないよ!」
火煉が勢いよく言い返すが、相手は鼻で笑って去って行った。林音だけが少し足を止める。
「……おめでとう。次も、せいぜい楽しんでね」
一見冷ややかな物言いだが、どこか真意を測りかねる雰囲気があった。
俺たちが微妙な気分になっていると、そこへ鈴楓がやってきた。
「お疲れ! 合格おめでとう! 本選も大変だけど、応援してるよ」
「ありがとな、鈴楓。ホント助かるよ」
すると彼女は少しもじもじしながら、こんな提案を持ちかけてくる。
「あのね……もし良かったら、私の知り合いを紹介しようかと思って。悠栄っていうプロデューサー兼ミュージシャンなんだけど……」
「プロデューサー? すごい人?」
「うん、私が音楽を始めた頃からいろいろ指導してくれてて。ステージ演出とか、音楽のアレンジをサポートするのが得意なの。もちろんお金の話とかも絡むけど、結構スポンサーにも顔が利く人なんだ」
俺たちは目を丸くする。まさかそんな大物をいきなり……と少し身構えるが、鈴楓は真剣な表情だ。
「急に言ってごめんね。唐突だってわかってる。でも、あなたたちの演奏を聴いていて、このままじゃもったいないと思ったの。もっと多くの人に届けられる可能性があるんじゃないかって」
火煉と山河が顔を見合わせ、そして俺も大きく息をつく。確かに俺たちには足りないものだらけだ。
「いいのか? 本当に」
「うん。悠栄も、実力ある人なら協力を惜しまないタイプだから」
「……わかった、ぜひ会ってみたい!」
こうして、少しばかり不安はあるものの、俺たちは鈴楓の紹介で悠栄という人物に会うことに。
気づけば、林音の冷たい視線やフレキシブルローゼスの圧倒的な力が頭から離れない。それでも前に進むしかない。
夜、宿に戻った俺は落ち着かずにギターを爪弾く。すると火煉がとなりに座り、珍しくしおらしい声で話しかける。
「ねえ風斗……もし、鈴楓さんの言うプロデューサーが私たちを気に入らなかったら、どうする?」
「そしたらそんときはそんときさ。俺たちはやれる限りをやるだけだろ? 諦めるのは性分じゃないし」
「……そっか」
火煉の横顔はなんだか複雑な表情だ。彼女もまた、この先どうなるか分からない未来に不安を抱えているんだろう。
だけど、ロックンローラーはアキラメナイ――その言葉を何度も胸に刻み、俺は火煉の肩に手を置く。
「大丈夫。俺たちならできるって信じようぜ」
「……うん」
そうして火煉は少しだけ笑みを浮かべ、隣に寝ていた山河も「やれやれ」と肩をすくめて笑う。
こうして、俺たちは次のステージへの一歩を踏み出した。
本選に向けて加速する風in火山PJTの挑戦。鈴楓という新たな仲間の提案と、悠栄との接触は、彼らの音楽や将来をどれほど変えていくのでしょうか。
火煉が見せた不安気な表情に、山河の冷静な嘆き。そして、それでもなお「ロックンローラーはアキラメナイ」と前を向く風斗の姿勢が、ここからの物語にさらに熱を与えそうです。果たして“奇跡のラッキーパンチ”はやってくるのか――次章では新たな試みと、さらなる壁が待ち受ける彼らの奮闘が描かれます。どうぞお楽しみに。




