予選初戦へ
ついに迎えた予選の舞台で、風in火山PJTが初めて大勢の観客の前に立つ。
いつもの小さなスタジオとは違い、輝く照明と多くの観客、そして手強いライバルバンドが待ち受けるホール。火煉や山河、そして主人公の風斗の胸中は、期待と不安が入り混じって限界まで高まっていく。
“壊せ!”を合図に始まる激しい演奏は、はたして観客の心をどこまで揺さぶるのか――。彼らにとって大きな一歩を踏み出す予選当日の幕開けだ。
予選の日がやってきた。会場は街はずれの古い劇場を改装したホール。舞台中央には魔法石製のアンプやら照明がズラリと並び、裏方スタッフが忙しなく動き回っている。
俺たちは控室の隅に陣取り、緊張でそわそわ。火煉は貧乏ゆすりをし、山河は何度もベースのチューニングを確かめている。
「はあ……やばい、吐きそう」
火煉が弱音を吐く。
「大丈夫。ステージに立っちまえば、逆にテンション上がるから!」
とは言いつつ、俺も胸がバクバクしている。
出番が来た。舞台袖で吸い込まれるようにステージを見渡すと、思った以上の人の数。
「よし、いくぞ!」
ドラムのカウントが鳴る。1曲目は俺たちの代表曲《壊せ!》。
ギターとドラム、そしてベースが絡み合い、荒々しくも熱いサウンドを響かせる。最初は「何だこいつら?」という空気の観客たちも、次第にノリ始めてくる。
「サンキュー! 俺たちは風in火山PJT! このステージをぶち壊しに来たぜ!」
2曲目、3曲目も勢いで突っ走る。ステージを降りるころには、汗だくで息も切れていたが、観客の拍手は確かにあった。
「あれ、思ったよりウケてたんじゃね?」
山河が息を呑みながら笑う。火煉も安堵の表情を浮かべている。俺は手応えを感じていた。
他のバンドの演奏を見て、正直圧倒される場面も多い。みんな上手いし、派手な演出を使うチームもいる。
そして最後に登場したのが、やはりというべきか――フレキシブルローゼス。
完璧すぎるパフォーマンスに、客席は狂喜乱舞だ。林音が袖で指示を出しているのが見え、バンドメンバーはさらにアピール度を増していく。
「すげえな、やっぱあいつら」
火煉が悔しそうに呟く。が、同時に燃えるものがあるのも確か。俺たちの荒削りな音には、また別の魅力があるはずだ。
予選の結果発表は明日。ロビーを出ようとすると、そこへ鈴楓がやってきた。
「みんな、お疲れさま! いい演奏だったよ」
「マジで!? 嬉しいな!」
「うん、とってもエネルギッシュだった。ねえ、今度セッションしてみない? 本番前にちょっと試してみたくて」
「ぜひ!」
鈴楓がくれるその笑顔に、また胸の鼓動が高まる。そんな俺の様子を見て、火煉と山河がニヤけている。
「林音はいないな……」
山河が辺りを見回すが、林音の姿は見当たらない。
俺たちは高揚感と不安を抱えつつ、会場を後にしたのだった。
初舞台での緊張から、荒削りながらもエネルギッシュに突き進んだ風in火山PJT。上手くいったのか不安は残るものの、観客の拍手を浴びたことは紛れもない事実です。
一方、フレキシブルローゼスの完璧なパフォーマンスや、鈴楓との思わぬ再会など、新たな出会いと刺激が彼らをさらに奮い立たせるきっかけになるでしょう。次に待つ結果発表で、彼らのロック魂はどう試されるのか――希望と焦燥を抱える彼らの物語は、ますます激しく燃え上がっていきます。




