落ちても立ち上がるぜ
これまで打ちのめされてばかりの風in火山PJTが、ようやく踏み出した最初の一歩。
金も実績もまったく無い彼らが、名うての実力派バンドが集う“ロイヤル・ロック・フェス”に飛び込もうとする様子は、一見無謀な挑戦にも思える。
しかし、荒削りだからこそ燃え盛る勢いと根性こそが、彼らの最大の武器。
一体どんな結果が待ち受けているのか――ロックの衝動に身を任せたまま、風斗たちは決して立ち止まろうとしない。
そんな彼らの“たとえ失敗しても、諦める理由が見つからない”ようなロック魂を感じ取ってみてほしい。
翌朝、俺・風斗は早速“ロイヤル・ロック・フェス”の予選会場に足を運んだ。まだ申し込みどころか、受付の要領すらわかっていないが、とにかく現地の熱気を感じたくて仕方なかった。
「ちょっと風斗、ほんとに出る気なの?」
火煉が入り口前で足を止める。受付には、既に腕に覚えのあるバンドマンたちが長蛇の列を作っていた。毛皮のジャケットや魔法使い風の衣装など、服装の自由度はやたら高い。おまけに、彼らの背後にはいかにも金持ちそうなスポンサーまでちらほら。
「そりゃ当然。挑戦しなきゃ始まらないだろ」
「でも……」
火煉はわずかに不安げだ。彼女のドラムは迫力があるけれど、やはり実績ゼロの身で乗り込むのは心配なのだろう。
「何、ビビってんのか? かれんは度胸だけはあると思ってたのに」
「そりゃドラム叩く度胸と、このフェスに挑む度胸は別ものだっての」
列の最後尾に並んで待っていると、二階の窓辺に林音が立っているのが見えた。俺たちに気づいたようだが、すぐに視線をそらしてしまう。
やがて順番が回り、受付係の女性に声をかけられる。
「はい次の方~。バンド名は?」
「風in火山PJTです!」
「……聞いたことないわね。実績資料や演奏動画は?」
「ありません!」
受付の女性は困った顔をするが、一応エントリー用紙を渡してくれた。
「エントリーは受け付けるけど、一次審査で音源や映像が必要になるから、期限内に提出してね」
「やってみせますとも!」
俺はやたら元気よく返事をした。
そのまま街外れの小さなスタジオに向かう。狭い部屋にはドラムセットとベースアンプ、ギター用のアンプが1つ。防音の壁には無数の落書きが残され、歴代バンドの痕跡を感じる。
「さあ録音だ! 音源を作るぞ!」
「いや作るって、やったことないんだけど……」
「勢いと根性さ!」
火煉のドラムは手数が多くて荒っぽいが迫力がある。山河のベースは若干リズムが走るときもあるが、その“危うさ”が逆にライブ感を高める。
俺はギターとボーカルを一気にシャウト気味に鳴らし、一発録りで勝負をかけた。
録音した曲は《壊せ!》。
――♪Hey! 叩き壊せよ 閉ざされたドアを
――♪迷う暇なんて これっぽっちもないのさ
「どうよ、録れた?」
「結構ノイズ多いけど……魂は入ってるかも?」
火煉も山河も、再生した音源を聴いてなんとも言えない高揚感を覚えているようだった。
スタジオを出ると、そこにまた林音がいた。
「うわ、びっくりした……いつからそこに?」
「さっきから。録音してるの、聴こえてきたからね。随分と荒削りだけど、熱はあるわね」
「ま、褒めてくれてるのか?」
林音はツンとした表情で、ちらりと俺たちを一瞥する。
「ただの感想よ。せいぜい頑張れば?」
言い残して去る彼女に、火煉は「何が言いたいのかしら」と少し不満げだが、俺はポジティブに受け止めていた。
エントリー用の音源ができたので、再び予選受付へ提出しに行く。
あとは結果を待つだけ。
「受かってくれ~! マジで頼む~!」
火煉が頭を抱えるが、俺は肩を叩いて笑う。
「大丈夫。もしダメだったら、また挑戦すればいいだろ。ロックンローラーはアキラメナイ!」
思い立ったが吉日と言わんばかりに予選会場へ駆け込み、その足でスタジオにこもり、一発録りの熱をそのまま音源に叩き込んだ風斗たち。
常識的には「もっと練習しろ」と言われそうな無鉄砲さですが、初めての挑戦に胸を弾ませる彼らの姿は、どこか痛快な勢いを感じさせます。
林音の冷ややかな一言が、火煉や山河の心をわずかに乱しつつも、むしろ燃えるきっかけになるのかもしれません。
次回以降は、果たして予選を突破できるのか、そして彼らの運命はどう転がっていくのか――熱く荒々しいロック魂の先行きに、どうぞご期待ください。




