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落ちぶれロッカーの叫び

この物語は、底辺と呼ばれる境遇にありながらも燃え尽きることなく、音楽への情熱を抱き続ける若きロックンローラーたちの物語。

舞台となるゴシックな街と、そこに絡み合うキャラクターの人間模様。

そして、ひとたび始まれば止まらないロックの鼓動――。

落ちこぼれと言われながらも“ロックンローラーはアキラメナイ!”の精神で走り出す主人公・風斗と仲間たち。

彼らの小さな決心が、どんな大きなうねりを生み出すのか。

「俺の名前は――いや、違った。俺は風斗(ふうと)。とあるゴシックな街の片隅で、オンボロ楽器を掻き鳴らしながら夢を見るロックンローラーだ。もっとも、世間的には“落ちこぼれの道化”扱いだけどな」


 夕闇が迫るストリート。賑やかな歓声が遠くでこだまする。その先では、今をときめくバンドが魔法石の照明を浴びて演奏をしていた。観衆はみな、そのバンドを褒めちぎっている。


――だけど、俺・風斗はその輪の外。

 理由は簡単。オーディションに落ちまくり、ステージに立つチャンスなんか皆無だからだ。

 けれど、ロックンローラーってやつは根拠のない自信が身体の奥に染みついている。ずっとバカみたいに燃え上がる衝動が、なくならないんだ。


「はあ……また落ちたか」

 隣でドラム(というかパーカッション全般)の練習をしているのは、火煉(かれん)。力強いビートが武器の女性ドラマーだ。とはいえ、今は萎えきって石畳に腰を下ろしている。

「しゃーないよ、かれん。次があるさ、次が!」

 俺が声をかけると、火煉は長い髪をかき上げながら苦笑いする。

「風斗、あんたってホント図太いね。私なんか胃が痛いよ」


 もう一人の相棒、ベース担当の山河(さんが)はギターケースを枕がわりにして寝転んでいた。

「なあ風斗、明日の飯、どうすんだ?」

「なるようになるって! 歌ってりゃ金は入るだろ!」

「どこからくるんだよ、その自信」

 山河は呆れ気味に笑うが、俺は真顔で言う。

「ロックンローラーは絶対に諦めない。いつかラッキーパンチだって起きるさ」


 そのとき、そばを通りかかったのが――林音(りんね)という、黒髪の女性。物静かだけど、妙な圧を放つ。噂ではフレキシブルローゼスという人気バンドのマネージャーをしているらしい。

「へえ……そんなに楽観的なのね」

「お、おう……」

「ま、勝手に頑張れば?」

 それだけ言い残して、林音はスタスタと歩き去っていく。どこか冷たい目線に、火煉はちょっとだけムッとした表情を浮かべる。


「なんなのよ、あの人。馬鹿にしてるわけ?」

「いや、もしかしたら『頑張れば可能性はある』って言ってくれたのかもしれないだろ」

「そりゃプラス思考すぎるって……」

 山河はあきれながらも笑っている。


 その夜、俺たちは金なし飯なしの貧相な宿屋に戻り、床についた。

 とはいえ腹が減って眠れず、天井を見つめながら明日のことを考える。

「なあ火煉、山河……俺たち、もっとデカい勝負に出ようぜ」

「何を言い出すかと思えば、ロックやめる気か?」

「逆だよ。近々ある“ロイヤル・ロック・フェス”にエントリーするんだ」

 火煉は目を丸くし、山河は呆れて頭を抱える。

「そんなの、私ら底辺バンドが出る大会じゃないでしょ……」

「だからこそ挑戦する意味がある! ロックンローラーはアキラメナイ!」


 腹の虫がグルルルと鳴く。けれどこの飢え以上に、俺の心は渇望していた。夢でも奇跡でもいい、音楽で世界を揺らしてやるんだ。

「やるしかねえ、だろ」

 そうつぶやいて、俺は薄暗い天井を見つめ続ける。

 この日の夜は、そんな空腹と熱狂のあいだで更けていった。

空腹のまま床につく風斗と仲間たちが、憧れと諦めのはざまで葛藤しながらも、“ロイヤル・ロック・フェス”という大舞台に挑む決意を固めたところで、物語は一旦ここで幕を下ろします。

ほんの些細なきっかけから生まれる新たな夢と衝動。

そこに“落ちぶれ”という烙印を跳ね返すだけのパワーを秘めているのが、ロックンローラーたちの真骨頂です。

はたして彼らがどのように逆境を乗り越え、未来を切り拓いていくのか――次章では、その道のりが少しずつ明らかになっていきます。

どうぞお楽しみに。

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