EP8 孤高の戦士トゥルー&聖魔導士レイン
はふぅぅ~
______レインは、恐らく溜息をついた事さへ気づいていなかったと思います。彼女は虚空の一点を見つめて暫く黙り続けていました。
師匠でありお爺さんを目の前で亡くし、最後の力を振り絞って受け継いだS級聖魔法を、レインの中でどう咀嚼吸収したらいいのか分からないからでしょうか。
レインが話した一子相伝と言われるS級聖魔導士奥義を受け継いだとしても、冒険者として経験を積まなければ、それは意味のない奥義となってしまう事でしょう。その事は、レイン自身が一番よく分かっているのです。
魔法を少し使える魔法剣士の私としては、随分と羨ましい話なのですが。
レインに今言える事は、お爺さんが亡くなってあの卑劣なアレスタやモレイと、冒険者を続ける理由は無くなった。
無理をして冒険者を続けていたのは、老衰からくるアゥエスタルの治療薬代を稼ぐ為だった。
「いくら聖魔導士の最高ヒールでも、治せないものはあるの」
「それでも大怪我は治せるんだから、凄い事なのよレインさんは」
......そうかな......
魔法は便利であっても、決して完全なものではないのだ。
トゥルーは、あの悲惨な過去を脳裏に浮べた。
「あの時、仮に聖魔導士のレインさんが居ても誰も助からなかった。ヒュドラは全てに死を与える悪魔そのもの」
!
それを訊いてレインの瞳が見開いた。
「あ、あなた! あのS級モンスターのヒュドラと戦ったの? よく生き延びて」
う、うぅん......
私が俯いて返事をしたのを見て、レインは全てを悟ったのだ。
「ご、ごめん余計な事を......私って」
「いいの」
お互いが大切な人を失った今、私とレインの間のわだかまりが消えたように感じました。
『この人、ヒュドラに仲間を殺されたんだ。私はお爺さんを無くして一人ぼっち.....聖魔導士の鍛錬もあるし、この人と組んでこの村を離れて冒険者稼業を続けるのも悪くないか な?』
私は老人にクリーン魔法の事を訊きにここまで来たのです。しかし老人亡き今は、レインに頼りたい気分になっていました。
「ねえ、あなたさ」
へ?
「な、なんでせう?」
私は期待しすぎて、呂律が回っていません」
プッ
「いやぁねぇ。何を緊張してんのさ、あなたトゥルーだっけ?」
へ、へい。
「私はねトゥルー、あいつらと縁を切ってさ、トゥルーと二人でパーティーってどうかな? なんて思っててさ」
は? 今なんて?
まさか、まさかレインさんから、パーティーのお誘いがあるとは思っていませんでした。
_____私とレインは、老人の死を弔う為に三日間バラック小屋で過ごし、その間にいろいろ話をしました。やがて違う町に出発しようかと言う事になったのです。
「ところでトゥルー、あなた見れば見る程、冒険者組合で会った女冒険者に似ているんだけど......装備と雰囲気と言うか」
ギクゥ
「いえね、ショートソードとダガー、装備のローブにブレストガードまでがそっくりだなんて、こんな偶然ってあるのかな? なんてね」
ジィィィ
それに対して私は、ガマの油を出しながら必死に弁解をするのでした。
「ぶ、武器なんて量産品の安物ばかりだし、レインってば偶然だよ偶然」
あは あは
だら だら
ふぅん そう?
『確かに量産品だけど、だったらどうして油汗なんか?』
「......ところでさ、あなたはC級魔法剣士で、私もC級聖魔導士。アタッカーが一人ってのも、この先不安だよね。まぁ、暫くは二人で日銭を稼ぐしかない訳だけど。街に行っても二、三日分しか宿に泊まるお金しか無いの」
と言いながらレインは、私をチラリと見て来ました。
『そんな目で見られても、私だって似たようなものです』
はぁ~
今のは見透かしたレインの溜息です。
バレてる!
レインの言う通り、二人だけのパーティーは居るには居るけれど、C級の前衛と未完成な聖魔導士だけでは、厳しいと言わざるを得なかった。
「ダンジョンは選ばなきゃね。森で群れたD級モンスターに襲われたら勝ち目はないから」
私は剣の腕はそこそこで、使える魔法はDioと言う下級火炎弾だけ。モンスター一体なら、私とレインで対処出来るとは思うのですが、油断は出来ないのが冒険者稼業なのです。
「私がせめてB級アタッカーだったら」
「あのねトゥルー、もしもはなし。都合のいい事は起こらないのが現実なの」
レインの言う事は当然です。でも、私にはその都合のいい事が起きているのです。
「そ、そのとおり・で・しゅ しゅ ポッポ?」
あはッ
「なによその歯切れの悪い変な返事は?」
私はレインに伏し目で同意を示していたのでした。
『でもこの先、武器や防具が進化したら、私、説明が出来ないんだけど。まぁ、その時は全てを話すしかないわね。これからパーティー組むんだし、それにレインは悪い人じゃない』
______新たな旅路の始まり
私とレイン。勿論、今の私の姿はボッキュン・エルフのままです。
ローブと魔導杖はレイン。私の装備と言えば、ブレストガードとダガーナイフが鋼にグレードアップしているのです。
『ショートソードだけは鉄のまま。ショートソードも実際に触れないと駄目みたい。まだ鉄のままだし......今強化したいのは鋼のショートソードだわ』
<トゥルー、気持ちは分かるが触れてもいない物は、流石にメタモルフォーゼ出来んのだ。だいたいショートソードなる物を知らんからな>
不思議な力を秘め、一心同体の身になったストーンでも、正しい手順を踏まなければ出来ないものは出来ない。もし仮に、レインが最初からミスリルのダガーナイフを持っていたとしたら、それはそれで大きなグレード・アップにはなったけれど、世の中はそんなに都合よく出来てはいなかった。
ただ大きな幸いとして、セクハラ爺さんとパーティーを組めないかと思って、ここまで来たところレインと出会ったのだ。
さっきは都合よく出来ていないと思ったのに、違う目線で見れば幸運と言わざるを得ない。
『不思議な能力を得て、聖魔導士のレインが仲間に!これは大きな旅立ちになったわ』
なにかニヤニヤし出した私は、面白い顔をしていたらしい。
「ねぇトゥルー、やっぱりあんた私に何か隠してない? まぁいずれでいいけどさ、パーティーに隠し事は良くないと思うの」
全くその通りです。信頼関係のないパーティーは、いずれ手痛いダメージを負うから。
レインがこれからS級聖魔導士の修行をし、その先はどうするのかは 私には分からない。
分かっているのは______
『<夕暮れの乾杯>4人を死に追いやった犯人を捕らえる......いいえ殺す事よ』