EP7 伝説の聖魔法使い 受け継がれたもの
______ボッキュン美女エルフにフェイス・シフトして、久しぶりに川沿いを北に私は急いでいます。
走る勢いでフードがめくれ、特長のある耳と魅惑的な生足を露わにすれば、私がエルフだとバレてしまいそうだけれど、幸いにも川沿いに人影はありません。
エルフと言う種族は、もともと森林に住み足腰は強く、人間よりも体力が見た目の美しさよりあるのです。
「知らなかったわ。エルフって凄いのね......バインバインが揺れる経験なんてなかったし」
私は、安宿屋で朝食を食べてから、老人に会って聖魔法の話を訊き、ダメでも夕食までには帰る予定です。
「老人がただの生活魔法程度であれば、すぐ引き返せばいい。その後の事はそれから考えるとして、さて老人は本物なのかどうか......ちょっとドキドキしてきました」
安宿を出てから、私は自然と逸る気持ちで走っていました。
あった!
昼には老人のバラック小屋が視界に入った。
「なんだか懐かしいわね。あのスケベ老人は居るのかしら?」
バラックの入り口を覗くと、老人は臥せっていました。
「あの、私です。覚えてますか?」
すると老人は、せき込みながら寝返りをうって、私の顔をじっと見つめた。
その顔は、会ってから1か月しか経っていないにも関わらず、死相が漂っていたのです。
「ごほ あんたあの時の......ゴフ」
どうやら私を覚えていてくれたのはいいけれど。
「一体どうしたのです御老人。病ですか? それなら薬を」
ゴフ
「あんた......あれから無事だったと見える。 これは寿命じゃ。命の終焉にはどんな魔法も薬も効かん。そのローブ、役に立っていそうで なによりじゃ」
もうあの時の陽気なセクハラジジイの面影はなく、本当に蝋燭の火が消える間際のような、そんな崖っぷちに立たされた気分でした。
「私に何か出来ますか?」
ゴフ
カハ
『血を吐いた。重い肺炎かな』
「それなら......お前さん、 あの村の冒険者組合に行ったのか? もしかしてレインに会ってはいないか? 会っているのなら ゴフ レイン 孫はどうしてたか 訊かせてもらえんかの これが儂の最後の 願いになるでの」
レイン? 孫? 私に鋼のダガーナイフを見せてくれた、あの優しい女性の事だろうか。
「冒険者のレインさんなら、一度だけ会った事があります。嫌な男二人と、冒険者パーティーを組んでいたようでした。確かアレスタとかモレイとか?」
な、なんと!
ゴフゥ
「儂が あれほど言いきかせたにも関わらず あの男共と関わりおって! カフ」
確かに男二人は下衆そのものだった。何故レインと言う女性がパーティーを組んでいたのかは、私には知る由もない。
「レインは、高価な薬を買う為に......無理しよって。 どの道助からんこの儂の為に 本当にバカな孫よ 」
と、その時誰かの気配を、エルフ耳が捉えた。
バッ
「お爺ちゃん!」
私は叫ぶ女性の声に心当たりがありました。
え??
『あなたレインさん!』
「え? あなたのローブ、さっきの女性冒険者と同じ! それはお爺ちゃんの物!」
『ローブでバレた? 鋭い』
「それよりお爺ちゃん、薬を買ってきたの。さぁ飲んで ? どうしたのお爺ちゃん!」
「おぉレ、レインか 最後に会えて良かった 」
カハッ
『これ以上無理をさせてはいけない』
私は老人に代わって話をする事に。
「御老人はもう助からないそうです。残された時間は少ないでしょう。私は以前に、御老人からローブを頂いた者で、ちょっとした理由があって訪ねて来たら、この状態でした」
ゴフゥ
いよいよ老人の様態が変わった。
「レ、レイン 儂の手を」
言われたレインは老人の手を握ると、老人が最後の力を振り絞ったように目を見開いた。
「儂の全てを お前に」
私には、老人の手から光の玉がレインに移動? したように見えたのです。
「これは! お爺ちゃん嫌ぁぁ!」
がふ
老人は息絶えた。安らかな安堵の表情を残して。
あぁあぁ
こんな時に掛ける言葉はない。私だってヒュドラに襲われ、殴られて死んで蘇った時、仲間を失ってこれ以上ない程に泣いたのだ。
『今は思いっきり泣きなさい。きっとそれがレインさんにとって必要な事だから』
______レインさんは、1時間は泣き続けただろうか。しゃくり声になったのは、少し落ち着いた証拠です。
「レインさん いい?」
私は老人との出会いを話す事にしました。
レインさんが訊いているのか訊いてないのか、それは構わない。
「お爺さんはね、それこそ行くあても希望もない私に、道を示してくれたのよ。私の理由は言えなかったの。でもこれからはローブが必要とか、冒険者登録に必要な銀貨をくれたり......塩味だけの野菜スープとか、本当に嬉しかったの」
そう。
「お爺ちゃんは、あなたと会ってどうでした?」
「それが、セクハラっぽい会話で、元気そうでしたよ」
あは
「お爺ちゃんらしいわ」
『笑った!』
その日、御老人の亡骸を清め、埋葬は明日行う事にしました。
狭いバラック小屋で、私とレインさんは少し打ち解けた雰囲気になると、いろいろな話をお互いがするようになったのです。
「自己紹介すると、私はCランク冒険者の<トゥルー>。ご覧の通りのエルフで、今はソロ。強い武器を買う為に、ダンジョンに潜っているの」
『本当は触れるだけでいいんだけど』
「そう言えば、あなたと同じ格好の女冒険者が、私のダガーナイフを見せてくれって......奇遇と言えば奇遇。あなた、トゥルーって声までそっくりだわ」
ギクゥ
『やはりレインさんは鋭い』
______「と、ところで訊いてもいいですか? あの光って何でしたの?」
あの光は、老人の全てだったと感じたのだ。
「私は弟子。聖魔法のね。お爺ちゃんは元はSランク冒険者の<アゥエスタル>。最後に私に奥義を授けてくれたのよ。これは極秘な話なんだけど、私、トゥルーになら、話してもいいと思ったの。会ってまだ二度目なのに不思議よね」
「ご老人の名前、初めて訊きました。と言う事はレインさん、あなたはSランク聖魔導士になったって事ですか?」
うぅん
「Cランクのままよ。実戦を積みもしないで、いきなりSランクにはなれない。何しろ魔力や精神力が追いついていないから」
なるほどと私は思いました。
『私がいきなり重い武器を持っても、体力やアーツが追いついていなければ、役に立たないと言う理屈なのですね
私は心の中で、レインさんとパーティーを組めないかを考え始めていました。
まだ御老人が亡くなったばかりで、そんな話を持ち出せる筈はないのですが。
「レインさんは、これからどうするんです? またあの男達のパーティーに戻るのですか?」
私は少し期待を込めて、探りを入れてみました。