EP6 鋼(はがね)を求めて
______「ねぇみんな、あの冒険者の子、私達になにか用があるみたい。さっきからずっと私達を見ているのよ」
「あぁん? レイン、あのツルペタ女がか?」
「防具越でも、流石は女を見る目だけはAランクのアレスタ。俺が見たところソロだな。ローブの脇から見える武器も防具も、俺達に比べたら安物で貧弱そのものだ」
「馬鹿野郎! 何が見た目だけだ、俺様はじきにAランクになる男だぜ」
はぁ~
今の溜息は、レインと呼ばれた女性だった。
『そりゃバレるわね』
ところで私は、スキル フェイス・シフトは顔だけかと思っていた。
でも今の会話で、肉体までがロレイス・イットガルに変わっていたと分かってしまった。それは______
「あらら? 床が見えてる?」
その方が好都合。もしバインバインのままだったら、リーダーらしき男に間違いなく絡まれたからだ。
私を舐め回すように見る男は、あの時私を襲おうとした三人組と同じだった。
『目的は鋼の剣! がんばるのよ私』
______「あのう、あなたの剛剣に興味がありまして、そのちょっと触らせてもらえませんか?」
ん?
自慢の獲物を見たくて寄って来たのだろう。男は悪い気はしなかったが、相手はツルペタだ。見事な洗濯板だ。
ふん。
「俺様は、ツルペタに用はねぇんだ。俺様のような男になるとな、いい女かどうかはローブ越しでも分かるんだぜ。引っ込んでな」
「まぁそういうこった。残念だったな、ツルペタ女」
『どいつもこいつも外見ばかりで!』
アレスタ、モレイのモノサシは、私のようなツルペタは女ではないらしい。だったらエルフなら見せて貰えたのだろうか? 問題はその後だ。
『絶対に付け込まれる! 相手はCランクで力は有りそう。ダメならすぐ退こう』
「あの、私の武器は鉄なので、鋼とどう違うのか興味がありまして」
「用はねぇと言ってるだろ!」
レインという女性は聖魔法使いなのだろう。先程の鋼自慢の会話で、持っている武器はやはり鋼のダガーナイフだと言っていた。
「あなたのは鉄のダガーね。私のと比べて見なさい。それでも違いが分かると思うわよ」
レインと言う女性は、よくこんな男共とチームを組んでいると思うくらい分別があって優しかった。
「いいんですか?」
「おいレイン、洗濯板に構うな」
「あなたは同じ冒険者同志、見せるくらいなんでも無いことよ」
<鋼に触れれば、原子構造は分かるが......>
「有難う御座います。ではちょっと拝借」
「わおっ、違うわ全然」
手に取って分かるのは、深みと輝きだった。鉄とは明らかに素性が異なっていた。
<鉄原子に炭素と言う原子で構成......これで強度が増すのか。それに粘りが出て折れにくくなるとは面白い>
「どう? 私もミスリルなんか買えないけど、Cランク冒険者ならこれ位は必要よ」
確かにレインと言う女性の言う通りだった。
例えるなら安物の鉄の包丁でも切れるけれど、見ただけで切れ味が違うだろうと分かる。
「ありがとう御座いました。私も鋼を買えるように頑張ります」
「あなたソロ? 無理しないでチームを組んだ方が......」
私には目的がある。その目的を話せるほどの人材にあてはない。
私は忠告を有難く受け取り、テーブルを後にしたのです。
______レインは、この厄介な男達と縁を切りたかった。私の聖魔法のお陰で自分が強いと錯覚しているのだ。その為、討伐報酬は均等ではなく、レインが受け取る報酬は2割だったのだ。
『潮時かな......しかしどう切り出したらいいものやら』
私は冒険者組合を出ると、誰も居ない事を確認してから<トゥルー>に戻った。
「一応ダガーに触れたけれど、どうすればいいんだろう?」
<ご希望通り、鉄のダガーを鋼に変えておくか>
私が悩んでいると、ダガーナイフの鞘が熱くなった。
「これ、も、もしかして!」
鞘からダガーナイフを引き抜くと、刀身が熱くシューと音を立てていた。
冷めるまで暫く眺めていると、レインが見せてくれたダガーと同じ質感のダガーナイフに変わっていたのだ。
「嘘! やっぱり触ると私の武器に変化が起きる! これは凄い事だわ。だけど6階層のアーマー・リザードにはまだ勝てない。私自身の体力強化、俊敏、攻撃力の底上げが無くては無理」
<私はそこまでは出来んぞ>
『ミシエル......あなただけでも生きていたなら』
私は安宿に戻ると、一人まったりと鋼のダガーナイフを眺めながら夕食を待っていた。
「バフスキルを持った仲間が必要ね。これではいつまで経っても強くなれない。けれど私の正体とか謎スキルの事は、絶対に話せないし......」
あっ!
「あのエロセクハラジジイ! 確かクリーン魔法が使えたのは、もしかして聖魔法も使えたりして」
ローブと銀貨までくれたジジイ。一応、話をしてみてもいいかもしれない。バフを掛けてくれれば、後はダガーナイフでもアーマーリザードは倒せる気がするし」
セクハラっぽい老人だったけれど、悪い人ではないと思う。
「6階層のアーマーリザードを倒すだけでいい。その後はまたソロで活動すればいし、何しろアーマーリザードを倒すと、稀に鋼のアイテムを落とすと訊いている。そうなると10階層のボスを倒すより効率がいい。これは賭けなの。ダメならまたソロで腕を磨きながら、お金を貯めるしかない」
<犯人捜しをするのか......もっと楽しく生きるのも道だと思うが>
_____そうと決めた私は、あの老人が住む川沿いのバラック小屋を目指したのでした。