EP4 奇跡のメタモルフォーゼ 革から鉄へ
______この村にあるダンジョンはDランク。強いモンスターは出ない事になっています。
一応<トゥルー>はCランク冒険者なのだけれど、エルフになった今でも、手っ取り早く銀貨くらいは稼がないと生きてはいけない。
<食って原子構造変換......面倒なことよ>
冒険者登録の為、私が受付嬢エリナと話している様子は、居合わせた冒険者達の注目を集めていた。何故なら______
フードをとった時、特長のある長い耳が見えたのだろう。
「おぉあいつ! エルフじゃねぇか。Cランクでソロとは勿体ねぇ」
「珍しい!なら俺のパーティーに強制参加させようぜ」
ダンジョンに出るモンスターは、定番のスライム、ゴブリン、ハンターウルフ、ポイズン・スコーピオン、ロックリザードなどが出る。
討伐報酬は、ゴブリン一匹で5ラルス(日本円で500円)。村の安宿でも一泊二食付きで泊まるには、50ラルス(4,000円)は必要になる。ゴブリンなら、ざっと8匹を倒せばいい計算だ。
それにソロで<トゥルー>の軽装備でも、十分倒せるモンスターばかりなのだ。
「やるしかないわ」
______1~5階層あたりで、単純作業とも言える討伐を繰り返して10日が過ぎた。
ざっと700ラルス(7万円)を稼ぐことが出来た。
無理をしない討伐なので宿泊代を差し引いても、10日で銀貨2枚(日本円で20,000円)が残っている。
防具として盾やポーションを揃えたいところだが、中身のない革袋を見て、今はもう少しお金を貯めたいと思う私だった。
ダンジョンの定番で最下層の10階にはボスがいて、それはボスらしくDランク冒険者では倒せない強さだと訊いた。
D+ランク冒険者が4人パーティーで挑んで、やっと倒せる難易度らしい。
しかし、せっかく倒しても宝箱から出たアイテムは、とても納得出来る物ではなく、わざわざボスを倒しに潜るDランク冒険者はいなくなっていったらしいのです。
ダンジョン近くの武器屋のオヤジに訊くと、ロングソードや盾、籠手などがランダムで出現するが、全てが鉄製でCランク冒険者以上が装備するには、余りにも貧弱だと言う理由で、この店には売られた武器が展示販売されていた。
「でもボスを倒すと手に入るのなら、今の私には魅力なのよね」
その物欲しげな表情から、私が貧乏冒険者だと店主は分かる。
「珍しいエルフの姉ちゃん、売ってはいるがあんたCランクなら、そんなもん買う冒険者はいねぇよ。Dランクなら話は別だが、Cランクに人気があるのはズバリ鋼だ」
それでも今の私にはない、手に入れたい代物です。
現状、私の装備は鉄製ショートソードと鉄製ダガーナイフ。質はよくない。
防具は革製ブレストガードに革グローブ、革製ロングブーツで、Cランクにしては軽戦士の装備ではあるのだけれど、ソロでは何とも心もとないのは確かだ。
『依頼が受けれず、これでも無理して買ったものばかりなのに』
「オヤジさん、ちょっと触っても?」
「あぁ構わねぇぜ。こちとら商売してんだ」
では。
店主に頼んで、そのロングソードやブレストガード、シールドを手にしてみた。
ズシリ
やはり鉄製のブレストガードは重い。それに革より動きにくくなってしまう。
値段も手持ちの銀貨2枚では、とても買えるものではなく、私は諦めて店を後にしたのだった。
「仲間かぁ......ヒーラーの仲間......ミシエルがいれば」
聖魔法が使えるミシエルだけでも生きていたなら、そう思うと自分が独りぼっちなんだと改めて思い知らされた。
「訊いたか?」
「ヒーラーが欲しいらしい」
私は後を付けられていたのでした。
「あのエルフ、明日もソロで潜るつもりだろう。なら明日無理やり」
「いいぜ。Cランクだろうが、ソロなら楽勝だよな」
<ストーン>である私?は、<トゥルー>が何を求めているのかを理解出来るようになった。
この世界と人間の思考に順応した事が大きく、彼女が望めばそれを叶えるのが私の役目だと思えるのだ。実際、それしかする事がない。
<トゥルー>が触れた武器と防具の原子構造は吸収済みである。
私の能力は、素材を元にしてメタモルフォーゼが出来る事だ。但し、一つに限られるがクールダウンすれば再構築が可能になる。......頭の中でスキル解説する存在がそう言っていた。
そのクールダウンに、どれだけの時間が必要かはまだ分からない。
しかし、ひ弱な<トゥルー>を考えると、まず防御が優先するだろう。
私? ストーンは革製ブレストガードに注目、原子構造を改変再構築して鉄製に再現した。
何故鉄かと言うと、石の私にはそれ以外の金属を知らないからだ。
「な、なにこれ!」
宿に戻って、装備を脱ごうとした<トゥルー>は、大きな瞳を更に丸くした。
体が急にズンと重くなったのは、疲れのせいだと思っていたのだ。
「これ、店にあったブレストガードと似ている! どうしてここに?」
あれ?
革製は鳩尾までカバーしていて、鉄製もその形になっていた。
それににエルフになってからのバインバインがスッポリ収まるように、でかいお椀のように湾曲して、胸にピッタリだった。
「エッチな! でもどうしてかしら? か、確認してみましょう。ス、ステータス・オープン」
<これは私なりのサービスだよ。エッチとは何だ?>
ブゥン
ステータスを確認すると、hidden skills<複写>と言うスキルがある。
「もしかして、このスキルのせい? かな?」
自分はあの時死んだ筈なのにエルフの容姿で生きている。それを考えると、防具が変化してもおかしくはない。しかし何故私がと言う説明がつかないのも確かだ。
<トゥルーのボディサイズは把握済。それをエッチと言うのか?>
「私は今日も生き抜く為に潜るつもりだけれど、ブレストガードが昨日と代わっている事は、エロジジイから貰ったローブで隠せるわ」
するとダンジョンの入り口で、見るからに怪しい冒険者三人組に絡まれた。
「ねぇちゃん、俺達と組まねえか。いい思いをさせてやるからよ」
ヒッ ヒッ
「ソロじゃ夜も寂しいだろうしなぁ、いい話だろ?」
『くッ こいつ等!』
「御断りする!」
「そうかい、ならいっぱい後悔しな!」
おりゃぁ!
それを訊いた途端、男の一人が腹を狙って拳を繰り出した。
ゴキィ
痛てぇ!
「なにやってんだ! 糞が! だが俺の蹴りは効くぜ!」
どりゃぁ!
ボクゥ
がぁぁ
「どうしたんだ、二人とも?!」
「このアマ革じゃねぇ、鉄を仕込んでやがるぞ」
「昨日は革だったぞ、武器屋で買ってねぇ。どうなってやがる?」
かなりの衝撃を受けたものの、怪我をする程では無かった。
「畜生が! 覚えてやがれ!」
利き腕の右手と右足を骨折、因縁をつけている場合ではなくなった三人は、捨て台詞を残して去っていった。
「覚えていろって? あの三馬鹿達、何をしたかったんだか? あれじゃD-ランク程度でしょうね」
美人なエルフだと言う意識に慣れていない私は、自分がどれほど飢えた男達に狙われているのか、いまいち理解してはいなかったのです。
「あぁ、あの時、川沿いのセクハラじじいが言っていたのは、こう言う事ですかね? でも鉄でなかったら、私は今頃、あの三人に売り飛ばされたりして......とにかく鉄で助かったわ......でも私っていくらで売れるんだろう?」
<何を期待してるんだ相棒?>
※希少種エルフの美女が奴隷として市場に出れば、恐らく最低でも金貨200枚(2,000万円)は必要になると言う。但し、多くは好色家の富豪か貴族と相場は決まっているのだ。