EP3再生と新たな決意の旅立ち
______ロレイスは走り続けた。恐怖で足がもつれても、転倒したらそれで積む。
はぁ
はぁ
ぜい
ぜい
森を抜けて一人残ったロレイスは、身も心も消耗し切っていた。
振り返ると<ヒュドラ>は、森からはもう追って来なかったが、それでも今はこの場から遠く離れる一択しかないのだ。
その時!
ゴッ
ガゴッ
がふぅ
逃げるロレイスは後頭部に何度も衝撃を受け、生暖かい液体が流れるのを感じていた。
「頭蓋骨が陥没したな」
「留めは?」
「この出血ではどうせ助からん。行くぞ」
それがほんの十数分前の出来事だったのだ。
理由も分からないまま、肉体を再構築したロレイスは、幽霊のように目の前に流れる川下に向かって歩き出したものの______今のロレイスに行く宛てはなかった。
<謎の老人との出会いは復讐の始まり>
______ぐぅぅ~
何時間彷徨ったのだろう。ロレイスは、腹が減っていることにようやく気づいた。
「何か食べないと」
取り合えずダガーナイフで下りながら川で捕った魚を、火炎魔法で焼いて空腹をしのいだ。
<魚? を焼いて川の水? を飲む。人間は食って原子構造を維持するのか>
「今日は途中で野宿するしかない......どうして私は生きているの?」
<人間は寝る。そして魔法?を使う。寝るとは?>
「エルフの姿でまた冒険者登録をして......金と情報を集めなくては。私にはそれくらいしか能がないし。それにどうして私達のパーティーは殺されたのか。私達はCランクで、誰の脅威でもなかった筈なのに」
手っ取り早く金を稼ぐなら、エルフの美貌を利用する手はある。
しかし私は男を色気で、どうのこうのするなんてマネは出来はしない。
「つるペタだったし」
金持ちの愛人になるなどもってのほかで、私はそっち方面に全く免疫がないのだ。
「彼氏なんていなかったし」
はぁ~
「洒落にならない......皆」
______川を下る途中、バラック小屋に住む老人と出会った。
「ほう、これはまた美しいエルフだのう。しかし一人では何かと危なかろうて」
老人に敵意はなく、暫しロレイスを見つめると小屋に案内した。
「入りなさい」
小屋の中の木箱を開き、中から灰色のローブを取り出すと、ロレイスに渡したのだ。
「御老人、なんです?」
「この辺りではエルフは珍しい。その美しい顔を晒していては、いらぬ面倒事まで背負い込むじゃろ。これは昔、儂が使っていたローブでな、クリーン魔法をかけてあるから心配は無用じゃ。儂がもう10年若かかったら、セクハラしているところじゃがな。冗談じゃぞ」
ほれ
「10年前?? それでも70歳以上だろう。 このセクハラじじい」
確かに老人の言う通りだと思う。
ロレイスはローブを受け取り、礼を言った。
「御老人、お名前は?」
......。
「ふ、名乗る名前など、とうに忘れたわい。いかんなぁ、歳をとると」
ふぉっほほ
老人が出してくれた粗末な野菜スープは暖かく、悲しみと疲労を和らげてくれた。
そして老人は、もう10ヤーク(10km)ほど下ると、宿や冒険者ギルドがあると教えてくれた。
「ギルドが? 知らなかったわ」
それは小さな村なのに、そこにギルドがあるのは珍しく、ロレイスでも知らなかった情報だった。
「そら、これも」
と言って老人は銀貨を1枚くれた。
「これは?」
『ローブと銀貨の礼に、お、おっぱいを揉ませろとでも?』
「おまえさん今、妙な事を考えたじゃろ。これから冒険者登録をするなら、銀貨がいるだろうが」
「す、すまないです」
名も分からず、私の事情をよく知っているような老人に礼を言うと、貰ったローブを羽織って小屋を後にしようとする私だったが、すぐ呼び止められた。
「野宿は冷える。バラックでも雨、風くらいは凌げるから休んでいくがいい」
『やっぱり......おっぱい狙いか』
「あのな、あんた妙な事を考えすぎじゃ」
「あぐぅ、申し訳ないですぅ」
私は、老人の言葉に素直に甘える事にして横になった。
疲労は相当なものだったのだろう。私はいつしか眠り込んでしまっていた。
ソロ冒険者<トゥルー>
______「明日は、川を下った村の冒険者組合で、冒険者登録をするわ」
その時、私は名前を変える。名前は<トゥルー>。これから真実を追求する意味が含められている。
ところで、こんな村に冒険者組合がある理由だけれど、それはなんと村外れに小規模なダンジョンがあるからです。
10階層で、難易度はDランク程度。ルーキーからDランク冒険者の練習用になっていて、わざわざこの村にやって来る初心冒険者は多いと訊いた。
お陰で規模が小さくても、宿屋と飯屋、武器、防具屋の生業に役立っていると言う。
冒険者組合<ビレッジ・アロー>
そこの受付で新規冒険者登録をしようと、私はカウンターの前に立った。
「冒険者登録で御座いますか?」
「あ、うんそう」
受付嬢エリナの前でローブを捲り顔を晒すと、エリナは一瞬驚いたような顔をしたが、そこはプロだ。すぐに落ち着いた仕草に戻っていた。
「ステータスを確認しますので、まずこの水晶球に手を載せてください」
「あい分かった」
あの目的の為、登録する私の名前は<トゥルー>だ。
ジョブは魔法剣士。水晶球の鑑定ではやはりCランクに変わりはなかった。
「だよね、甘くなかった」
登録料の相場は知っている。セクハラじじいが言ったように、どこでも大抵、銀貨1枚だ。
老人から貰ったなけなしの銀貨1枚を支払い、新しい冒険者プレートを受け取る。
プレートには自分の顔も登録されるのが普通だけれど、ステータスなどは本人かギルドの受付水晶でしか見る事が出来ない。
改めて冒険者カードでステータスを確認すると。
個体名<トゥルー>♀ エルフ種 18歳
「ちゃんとエルフになっている」
総合Cランク 魔法剣士
武器 鉄製ショートソード 鉄製ダガーナイフ
魔法 初級火炎球弾<ディオ>
特殊スキル
※これは本人にしか開示できない。
hidden skills<フェイス・シフト><複製>
「なに? これ」
幸いあの時、受付嬢のエリナには見えていなかったようだ。
私が<フェイス・シフト>をタップすると。
ロレンスと、今のエルフ顔の<トゥルー>の顔が登録されていた。
「なるほど......と言う事は二つの内、どちらかを選べるのかしら?」
今、元のロレンスに<フェイス・シフト>するのは危険である。
「このスキルを使うのは......止めておきましょう」
お金を稼ぐ為、取り合えず剣と火炎魔法で、村外れのダンジョンに潜る事にした。もちろんソロで。
今日の宿賃と食費だけは稼がないと野宿になってその上、お腹も空く。
「エルフじゃ寝込みを襲われるし、結構面倒なんだよね。あっ、そういう時こそロレンスに<フェイス・シフト>すればいいのかな? 案外便利じゃない」
<なるほど。生物とは、なんとも不便なことだ。相棒>
「見ていてブレンダン、グレッグ、ミシエル、ロレーン」
ロレンスは、自分の中に不思議な相棒が潜んでいる事も知らず、これから仲間と自分を殺した犯人に復讐を誓う旅の始まりとなったのだ。




