表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

EP2 覚醒の石(意思)


______とんでもない話だと思うことだろう。私? は意識だけの存在で、自分がどんな姿をしていて、周りの世界がどうなっているのか、それを確認する事が出来ないのだ。

 今までずっと。


 どうして私は生まれたのだろう? 1億年位前だろうか? 一日の基準が分からない存在に、時間など意味を成さない。ただ相当に永いんだろうなとは感じてはいた。


______ある時、視界の無い私は何度も衝撃を感じた。

 その時、何が起こっているのかは分からなかったが、少しずつ何かの意思が流れ込んで来た。

その何かは、<私はもう死ぬ>と呟いた。

「死ぬとは?」


 やがてその意識がより鮮明となり、何故か視界が開けると、その意思がどうして死の淵にいるのかが分かった。

その虫の息の存在は______初めて見る生物(いきもの)だった。

「これは何だ?」


 しかし流れ込んでくる生物(いきもの)の知識と経験が、すぐ私を順応させた。

「これは人間と言う生物なのか? この生物は単体では増える事がない?」

 その時<モンスター退治で稼がなくては>。そんな生物の意思が流れ込んで来ると、やがて生物は息耐えた。


 その人間を殴って、死に至らしめたのは<石>。私である。

もちろん死と言う概念は、この時初めて知った。


______なにもかもが新鮮で、全ての知識は今死んだ人間の知識に頼っている。

死ぬ間際、遠ざかる意識で最後に私? を見たのだろう。河原という所に転がっている石より卵のような楕円で、丸くくすんだ緑青(ろくしょう)が浮かんだ銅のような<石>だった。

犯人は逃げたのだろうか、もうこの場は静寂を取り戻していた。


 けれど石は、瀕死だった人間の意識と経験を完全に吸収していて、今度は人間の肉体原子情報を吸収し、目の前の死体の本来完全な人間の女性を構築再現し始めた。

 おぉ?

 それは私?の意思とは無関係に起きた。


 肉体を再構築した石は今、構築再生した女性の手の中にあった。

石は次第に女性の自我に、一部を除いて塗り替えられていった。

<この身は、彼女の自我の奥に異存するべきか......わからんが>


 すると石は米粒以下の大きさに縮小、彼女の鼻孔から脳の視床下部に納まると、より鮮明な視界を得る事が出来た。

「うっ痛い!」

 ツンとした痛みにのけ反り、彼女は我を取り戻す。


 「あれ? 私......死んだ筈じゃ?」

 女性は、現状を把握出来ず、ただぼんやりとその場に立っていた。

 人間の名前はロレイス・イットガル。殺された理由に全く覚えがない。


______石は改めて自分自身を分析してみた。1億年?もの間、そんな事をしようとは思ってもみなかった事だった。

『スキルを見ますか?』

 どこからか声がした。

「なんだ? スキルとは?」


『ジ・アンサー。そのスキルとは対象の原子構造を吸収、メタモルフォーゼが出来る。対生物なら生きている事が条件で再生が可能。すなわち不死となります』


『人間の肉体原子情報を記憶したので、ロレイス・イットガルがまた死んでも、完全治癒した状態でまた再構築が可能となり、即ち不死と言えるでしょう』

「この女性は不死となったのか?」

 その事実をロレイスは知らない。


 ロレイス・イットガルのパーティー<夕暮れの乾杯>の5人は、全員が殺された。しかし私だけが蘇生したのである。

 はっ!

「私が生きている______と知られればまた狙われる」


そんな不安から変装しなければと考えた時、もし憧れの耳の長いエルフだったらと、姿と形が脳裏を過った。


 エルフは希少な種族だ。その美しい容姿容貌は、冒険者の中でも女性の憧れとなっていて、エルフの居るパーティーは、それだけで邪な熱い視線を向けられるのだが、性別は変えられない。


「人種では狙われる。エルフに変装すれば、私だと分からないから大丈夫なはず」

彼女の中の石は、彼女のビジョンを知り、願いをただ訊いただけだった。

 ニュゥゥ~

 ??

 その時ロレイスは、耳に違和感を感じてそっと触れた。

「えぇ? なにこれ! エルフ耳じゃないの?!」

ロレイスの顔は見た目、エルフになっていた。


 ただロレイスの憧れの記憶にあるのは、碧眼で長い髪はサラサラブロンドのエルフで、それに超美人なのである。

「耳だけがエルフになっているけど......顔がそのままでは」

と思った瞬間、その記憶がまた再現構築された。

 サラサラ~


 長いブロンドの髪が、川面のそよ風に流れた。

 えぇぇ!?

 下を見下ろすと、今迄見えた地面が見えない。何故なら、胸が主張していたからだ。

「洗濯板だのツルペタと言われた私の胸が......そんなところまで再現されたの? なにが私を変えているの?」


 ロレイスの驚きは相当なものだが、同時に「この見た目なら、私達を殺した謎の敵に気づかれないわ」

と、ホッとする自分がいた。


 ところで、ヒュドラに殺された4人の仲間は、埋葬する必要が無かった。

依頼とは、ギルドからではない個別の依頼を手紙で受け、この森に入ってCクラスモンスターを倒すクエストだった。

私達Cランクパーティーなら討伐可能な依頼で、報酬を半分前払いで受け取っている。

その報酬は、ホームのギルドに預けてあるのだけれど、名義はロレイス・イットガル。今の姿では、もう引き出す事が出来ないのだ。


______指定の森に入って依頼のモンスターを探した。しかし出て来たのは、この森では有り得ないSクラスモンスターの<三首のヒュドラ>。災厄なんてものではなかった。

「なんでSランクがこんな森に!」

「グレッグ、そんな事言っている場合じゃないでしょ!」


 グァァォォォン

「拙い!皆、ブレスが来る!逃げろ」

巨漢ブレンダンがタンク役でも、ヒュドラの灼熱ブレスの前には無力。

「がぁぁ逃げきれん!」

「無理だ!」

グレッグのロングソードも、役に立たない。

「ひぃ~あたいもう駄目ぇ~」

「ミシエル!」

<ウィンド・カッター!!>

ロレーンの放った風魔法もまた無力。


 ロレイス以外の4人は、ヒュドラの三つの頭から吐く灼熱の業火で、成す術もなく声も上げられずに消し炭となって消滅してしまった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ