屋上と少女
「トキっちって、意外と事情が複雑なんだねぇ~」
ジュースを飲みながら話しかけてくる少女、"夏"。そして俺は、絶賛二人で屋上を独占している。学食の時間が終わり、生徒たちも教室に戻ったからなのだろうか、とにかく、その状態が望ましかったので好都合だ。この話を拡散されては、時雨が不利益を被るかもしれないからな。
「....まあな。だけど、これはすべて自分の欲張った行動だったし、後悔もしてる。」
「ふーん?でも、仮に家出しなかったとき、トキっちは耐えれる自信はあったの?」
「さあ、それはよくわかんねぇ....だからこそだ。もしかしたら耐えれるかもって思っちゃうんだよ。」
確証はない。だって、現に逃げ出してる時点で、「絶対耐えれる」なんて言えないのだ。
だから後悔することしかできない。もう、これは単なる既成事実でしかないからだ。何をしようと、変えることはできない。
「でも、割とこっちの方が気楽でしょ?」
「....否定はしない。だけど、迷惑をかけ続けるぐらいなら...な」
もちろん、本音を言ってしまえばこの生活が続いたほうが楽だとは思う。その一方、内紛に関わっていない時雨に迷惑をかけるのも気が引ける。だから、俺が身を引かなければいけないだろう。せっかくもらった職だが、それに確執し続ければ自分ごと壊してしまう。それを理解しているからこそ、早めにここを離れなければいけないと頭の中で考え続けていた。
「....もしかしてトキっち、"私たち"の元から離れようとしてる?」
突如、鋭角のような言葉が、俺の頭部を貫きとうした。マズい、早々にしてバレてしまった。
「そんなん、今後の展開次第だ。少なくとも、今辞めるか考えていな___」
「トキっちは案外顔に出やすいよね、特に"嘘"をつくときとか」
言葉を遮られて放たれた言葉。それが全てを語った。ここにいる時から、この少女はわかっていたのだろう。早々に計画が破綻したことよりも、隠しておきたかったことを暴かれたことが一番マズい。
「トキっちがやめちゃうのはちょっと悲しいかな、夏の友達もトキっちのこと好きだったし。あれだよ?秋ちゃんと結構いい勝負してるよ?それぐらいの人が急にいなくなったら....ね?」
こいつ、攻め方が上手すぎる。そこを突かれると、流石に痛い。物理的じゃなくて精神的な痛みが襲ってくる。
「だから、これを機に時雨ちゃんとさ、兄弟まではいかないとも友達のような関係に戻したらいいんじゃない?」
「....普通に考えて、そんなことできるわけないだろ....」
「そういう固定観念が良くないの!挑戦だと思ってやってみようよ!」
俺の何倍も強い力で背中を叩かれ、同意せざるを得なくなった俺は、渋々ながら関係を築くことを約束してしまった。しかし、今更できないというのもなかなかおかしい話だ。ここは男として、一つ頑張ってみることとしよう。