新入生と恐怖
「ちい時ぃ~!弁当くわね?」
男子生徒4名が、俺が修繕.....というと聞こえはいいが、秘技「雲隠れ」をしている最中、昼弁当のお誘いにやってきた。
「ああ....いや、お前ら新入生のところに行かねえの?」
「俺たちが高貴な家から出てる二人に絡めるわけないだろ、女子ならあり得るけど!」
『そうそう、金だけあって歴史がない俺たちが話しかけても、あの御方々は楽しくないと思うからさ』
下心があるのかないのかよくわからない理由を述べてくる男子生徒、いや、もしかしたら建前の理由かもしれないが、それでも俺より心が洗われている感じがする。ピュアすぎてそろそろ俺の自尊心が死にかけてきてるが、気にしないことにしよう。
「ちょっと今は腹減って無くてなぁ、すまん、今日は別のやつ誘ってくれ。」
「...時雨さんのこと、結局聞いてなかった?」
「当たり前だ。小檜山の家は既に捨てたから連絡手段は無い....まあ、わざわざ裏切り者に会いに行くほど度胸があるとは思わないし、大丈夫だろうけど、それはそうと腹が減ってないから今日はやめとく。」
「あ~....そっかぁ、そんじゃまた今度食おうぜ~」
男子達は従順で、明確に拒否すればすぐにやめたり、帰ったりしてくれる。本当にいい子だとつくづく実感するし、こんなことを拒否するのも申し訳ないと思っているのだが.....今日は本当に食欲がない。
.....【時雨】は昔、俺がまだ小檜山の家に残っていたころに世話を見ていた妹分だった。俺が19で、時雨が15なので、時雨とは4歳離れている。
兄や姉、親、親せき、しまいには三等親からも、とてもかわいがられて、「神童」とも呼ばれていた。
俺との明確な違いは、どの習い事や物事にも手際よくやってみせて、飲み込みも速かったことだろう。俺はよく失敗したり、飲み込むのが遅かったし、果てにはあきらめたりしたことが多い。そんなことも、時雨は楽々とやって見せた。時雨以外の兄弟も手際良くやっていたが、俺は何もできないし、しようともしない人間だ。
それはさておき、今はカラーコーンの修繕に挑戦しているところである。一度は交換も悩んだが、直せば使えるのではないかとおもった俺は、現状格闘しているところだ。裏からガムテープで接合しようとしても、腕がなかなか動かせず貼りにくい。その上、完全に分離しているため固定するのもなかなか難しい。
「っし!やっと張れた!」
やっとこそ破損部を接合して、カラーコーンがちゃんと機能するようになった。しかし、下から見ればガムテープが見えるのは問題点....まあ、使えるだけいいか。
時計を見てみると、今は12:50。もうすぐ学食の時間が終わるころだ。一応、購買のパンだけ買っておこうかな。
俺は椅子から立ち上がり、用務員室から出る。扉が枠にあたる音だけが、部屋に響いていた。
「....もうすぐ終わりだってのに、なんかやけに人が多いな。」
食堂は1階の体育館近くにあり、ここからは近い。しかし、それでも連絡通路を介していく場合は3分はかかる。学食の時間はあと2分もすれば終わりなのだが、その状態を鑑みて、これは余りにもおかしい。昼休みも近いし、そろそろ教室に戻るはずなのだ。やけに、嫌な予感が体の中を包み込んだ。
「ねぇ!あそこに春さんと時雨さんがいるらしいよ!」「なんかちいトキいるくね?挨拶かな」
「え~!ここで兄者参戦!?」「おぉー!ちいトキ来たじゃん!」「あ、時雨さんも気づいた」
.....やはり、嫌な予感は的中してしまった。どうやら、ここに溜まっていた最大の原因とは、新入生である一夜春と....."小檜山時雨"が、共に食事をしていたからなのだ。
無意識に、俺は先ほど辿った通路へ歩いていく。少し小走り気味に、"逃げるようにして"俺は進んでいった。その光景を見た生徒が不思議そうに俺へ視線を向けてきたが、そんなことを気にする必要はない。なにか、本能的な何かが入ることを拒否している。"あいつと関わっては、何かが壊れてしまう"と、本能がそう告げている。
やっと、人込みから離れることができた。自然と、自分の恐怖のようなものからも解放された気がする。
....少し、狂人のような行動をとってしまったかもな。明日は質問攻めされるに違いない。
そう思うと大変大儀に感じて、ため息を零してしまう。
「____トキっち、大丈夫?」
....突如、後ろから声を掛けられた。その少女の声に、反射で後ろを向いた。
「夏ちゃんがトキっちの悩み、聞いてあげるよ!」