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用務員と学園

ピリリ、ピリリ。と、エンドレスに鳴るアラーム

いつものように迎える朝。俺、【小檜山時(おひやまとき)】は、何時ものように目覚まし時計の音でのそのそと起き上がる。

「......朝食はいいか、食べてる暇ないし。」

時計を見れば、6時を迎えようと分針がせっせと動いており、カップラーメンを作ったとしても食べるのに時間が掛かりそうな気がして、即座に朝食を作ることを諦めた。

学校の模範となる教師と違って用務員は裏で働くことがほとんど。だから、仕事に支障をきたすということを除けば、割と朝食を取らなくてもよかったり......と、個人的には思っている。

まあ、そのせいで最近体が怠いうえに気力が湧いていないが...


俺は4月.....2か月前から「ヤグルマギク私立高等学園」の用務員として勤めている。元々、学園用務員なんて言葉すら知らなかったんだが......今となっては絶縁状態の家族事情、それに巻き込まれてしまったのがきっかけで、この学園の用務員になったってのがここにいる理由ってところだ。

まあ、その"事情"というか、"事件"というか...説明するのがとてもめんどくさいのだが、簡単に説明すると「家族内の紛争」と言うところだな。

___俺の家は莫大な富を確立した、所謂「名家」に生まれた。

その家に生まれた子供には幼少期から期待とプレッシャーの中で育つことがほとんどだ。無論、俺の家もそうだったのだが、特に苦と思うことはなかった。

...いつからだろうか、兄弟姉妹たちが派閥に分かれて醜い争いを始めたのは。俺が小檜山の家を出ていく原因になったってのに、そこらへんは記憶があいまいでよく覚えていない。大まかに言えば、時に言い争い、時に優位性を示して相手の敵愾心をくすぶったり、時に流血沙汰に発展したり...そんな事態も、富と顔によって事実は表に出なかったのが唯一の救いだったのかもしれない。

それも、ネット上で目をつられればエスカレートしなかったんだって思えば、後悔しか思い浮かばなくなったけどな。


「あぁ~...眠い...」

目をこすりながら俺は、今時珍しい住み込みの用務員室から出ては、校門に向かって駆け込んだ。この用務員室は校舎とは別の場所、グラウンドにある体育館の隣に設置されている。そのためか校門から遠く、いつもここから走っていた。準備体操をしてないせいで筋肉が驚き、毎日のように足を痛めるが、実際に激痛で足がもつれたのは精々3回ぐらいしかない、そう!まだ3回しか...

「ッ!?痛ってえぇええぁ!」





「....はぁ。」

校門を開錠し、横に動かしてその門を開けた。先ほど足に激痛が走ったものの、それで歩を止めてしまっては真面目な生徒と早めに登校しなければいけない各種委員に迷惑が掛かるので、必死に足を動かして校門までたどり着いた。

今は学舎に戻り、用務員備品室に行っているいるところだ。もう6時半だからなのか、ぞろぞろと職員室から出てくる教師を目にすることが多い。

「時さん、今日も"破損物交換"お願いできませんか?」

すれ違い際、女性に話しかけられる。その人とは、学校生徒から超絶な人気を誇る体育教師「一夜秋」。噂で話を聞いた程度だが、「一夜家」という名家から出てるかなりの"お嬢様"だそうだ。

「....またあの人たち、壊しちゃったんですか。」

「ええ....すいません、毎度毎度こんなこと....」

逆に謝られても、俺の仕事はこういうものである。「誤られることでもないですから」とだけ残し話を切り上げると、そのまま体育館物品庫へ向かうこととした。何時もの如く3分間走で転んだ拍子にカラーコーンを割ったりしたのだろうか.....本当に学習しない奴が多い高貴な学園だ。

体育館までの連絡通路に入ると、少し寒気がした。教室階と違い、喚起によって空気が循環しているためだろうか、最近用務員として着任したばかりの俺にとっては、その理由ですらも謎に近い。

「____んお、トキっちじゃん!おっはー!」

ホームルーム前の時間帯であるのに、連絡通路で毎日のようにたむろっている女生徒.....と言うよりも、”お嬢様”。「一夜夏」、苗字の通り、一夜秋の妹分だ。齢は15の高校一年生、これでも学園環境委員らしい。事実なのか、それとも捏造なのかは不明である。

「.....お前、また壊した?」

「あー....うん、靴紐引っかかった時に...ね?」

少し申し訳なさそうな顔で俺に語り掛けてきた。その目が、"姉"にどのような折檻を受けさせられたかをまじまじと伝えにかかっている。

「本当に気を付けろよ。物は替えがあるからいいが、人の体はどうしても替えが効きにくいしな。」

「トキっちぃ....」

「こういう臭いセリフが好みなのか?」

「その言葉がなかったら完璧だったよ?主演獲得確定だったよ?」

そんな言葉を聞き流し、体育館内に入っていく。構造はアリーナに近いが、入口正面にはステージや演台があり、物品庫も複数用意されている。しかし正直なところ、管理の手間が多いので大変だ。

まあその分、カテゴリー別に整理しやすく助かる部分はある。現にこのような破損物は、第一物品庫、または体育館教師室に置いてあることが多い。

「....おわっ、こりゃまた盛大に....」

カラーコーンは見事なまでに破壊され、2つほどにパカッと割れていた。普通は破損しにくいはずなのだが....なぜいつもこんな風になるのか。

とにかく俺は、カラーコーンの事細かな破損の概要、点検実施者の名前を書いた付箋紙を張り付け、そのまま自分の手で持っていく。ちょうど備品室に向かっていたところだったし、時間ロスは極力しなくて済んだ分いいだろう。

そんなことを思っていたら、ホームルームの開始を伝えるチャイムが鳴り響いた。よく響く体育館内で鮮明に聞こえるチャイムが、体へ直に喝を入れてくるような不思議な気持ちになってくる。今日は、何か良くない事でも起きるのだろうか?絶賛、カラーコーンの破損とか言う悪玉に直面しているので勘弁してほしいものだ。

とりあえず、さっさと戻ってカラーコーンの交換でもしよう。朝一から、なにやら中途で新入生が入って来るらしいからな。





今日、ヤグルマギグ学園の体育館は、入学式を超越するほどの盛り上がりを見せていた。

なぜかといえば....礼儀・作法・知識を一般入試より厳しくみられる学期内入学試験を突破した、有力な新入生が入ってくるからなのだろう。ヤグルマギグ私立高等学園は、元々は名家向けの私立学園であるからだ。財はあっても、礼儀・知識を持ち合わせていなければ生徒としてふさわしくない....らしい。

かくして、体育館にはご子息やご令嬢がごまんと集まっているのだ。

俺も、新入生がどのような感じなのか気になるし、夏はもちろんのこと、秋さんも少々興味を持っていることが顔の表情で容易に分かった。

「はい.....え~、皆さんお静かに!ではこれより、新入生歓迎式を開始いたします」

主幹の開式宣言と同時に、生徒たちと歓声と拍手が巻き起こる。夏は特に熱狂的な歓声をあげ、秋さんが呆れた顔で夏を見つめていた。

「それでは...ン"ン"ッ!えー、これより2名の新入生が登壇いたしますので、皆さま、拍手をお願い致します」

一段と叩く音が大きくなった拍手は、ステージに登壇してきた二人を包み込むように音の振動が纏わりついていた。

生徒や、それこそ教師陣でさえも二人に対する興味が絶頂に達しており、歓声や拍手はやむところを知らないほどだ。

一方、俺は新入生を一目見た、その瞬間。

「....ん?あいつ....どっかで....」

二人のうちの一人、後ろを歩いている一人の生徒の顔を見たとき、なにか「懐かしさ」のようなものを感じた。なぜなのか....その答えは、主幹の声で、すぐに出されたのである

「では説明します.....新入生の方々は「一夜春」さん、そして【小檜山時雨】です」

その名前が出されたときに、俺に衝撃と....目眩が襲ってきたのであった。

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