第九話 応戦
なんか日刊一位も取ってたな…週刊も三位に上がってるし…
嬉しすぎる、皆様ありがとう!これからもどうぞよろしく!
すみません、本日二話目の更新が何時間か遅れます。
「何処から湧いて出たんだコイツら」
『かなりの規模かと、数が多いため発砲音による敵個体識別が不可能です』
「そんなオマケ機能は当てにしてない、撃て撃て!」
銃撃を避けるために路地へと入ったが、大通りからは大規模な銃撃戦に発展しているであろう銃声が聞こえて来る。傭兵は敵が銃を構えて撃つ前にライフルの引き金を引き、出遭い頭の戦闘でも的確に撃破する。
「狭い場所じゃあ使い難いな、いっそ大通りに出るか?」
『どちらが敵対勢力なのか不明ですが、どうされますか』
「もうUAVは戻ってきてる、上から見れば分かるだろ」
撃ちあっているのは服装に統一感のある方と、ない方だ。検問で持ち物検査をしていた兵士と同じ格好の男たちが賊と撃ち合っていて、数の差はあまりない。
「多脚車両を呼んでくれ、こりゃ不味い」
『倉庫に直行という訳にはいきませんか?』
「ここの兵士が押されてる、それにこの手の戦闘が人間だけで終わるわけがねぇ!」
そう、この街には二週間後に迫る大会のために人型兵器が集結しているのだ。街の兵士達も青色の人型を引っ張り出して来たようだが、それで一方的な闘いになるとは思えない。
「そこら中に駐機されてるんだ、一機や二機奪われても不思議じゃ…」
建物を突き破って現れた人型は町側の機体に素手で殴りかかり、発砲を止めた。歩兵達の頼みの綱だった人型兵器の火力は提供されず、機体同士でのハイリスクな近接戦へと発展してしまう。
「それみろォ!」
『大会用の機体が鹵獲されてしまうとは、これが狙いなのでしょうか』
「思ったより早いな、こりゃあ前言を撤回して帰るのを優先するか」
多脚車両の主砲を使えば人型兵器は撃破出来る、ひとまず自衛が出来る装備のある所まで行くのが先決だろうか。そう思い大通りを避けながら町の中を進むが、上空監視に回したUAVが付近での戦闘を検知する。
「さて、じゃあもう帰…」
「ゲリラ共、覚悟しろッ!」
「ん?」
『偵察情報来ました、その奥からです』
ライフルを構えて小さな広場に出ればそこには動かない人型兵器とそれを守るべく拳銃を抜いたパイロットと、それを囲む数人の武装した発砲犯が居た。駐機されている機体はこの町に配備されていたものと同型かつ同色の塗装であり、加勢すべきはそちらに違いない。
「助太刀するぜパイロットさんよォ!」
敵を認識してから一秒とかからず傭兵とミナミの射撃は急所へと放たれ、彼らを絶命させた。傭兵は倒れた者達が持っていた銃火器を蹴飛ばして手の届かない位置に移動させ、腕から血を流すパイロットに駆け寄る。
「…なんだ?」
「撃たれてるぞアンタ、手当てするから腕出しな」
「あ、ああ」
興奮状態だったのだろう、自分自身の怪我に気がついていない。弾丸が腕を貫通しているのを確認した後、止血剤の入ったチューブを傷口に当てる。
「落ち着いてきたら死ぬほど痛いかもしれないが、失血死するよりマシとは言っておくぞ。ミナミ、周辺警戒頼む」
『了解、良いものがありますね』
ミナミは傭兵が蹴とばした武器を手に取り、射殺したばかりの死体から弾倉を抜き取った。そして人型兵器を見つけては集まってくる武装集団に対して発砲、路地裏との射撃戦を始めた。
『流石に人型兵器は止められませんからねー、このまま暴れるとデカいのが来ちゃいますよ』
「ここに留まるのは危険だ、逃げるぞ」
「駄目だ、この機体をゲリラ共には渡せない…」
手当てを受けたとはいえ片腕を動かせなくなったパイロットはふらつきながらも機体に向かうが、片手では乗ることすらままならない。この機体は放棄して逃げるのが最善だが、しかしあのパイロットはこの場所から梃子でも動かなさそうだ。
「その腕じゃ乗るのも難しいだろ、操縦はどうにかなるかもしれないが…」
そう言って怪我人を引っ張り上げるために機体の上へと登ったが、傭兵はそこでコックピットの中をのぞいてしまう。そこにあったのは今や廃れた初期も初期の操縦方式、二本の操縦桿とペダルによる手動操作インタフェースだ。
「脳波制御じゃねぇのかよ!操縦も無理だこんなの!」
「…その服、防弾装備ということは中々羽振りがいいな」
「どうした急に」
「そんな格好を出来るのは防衛隊の主力部隊か、稼げる部類の人型兵器パイロットだけだ。貴方がもし人型兵器を操縦出来るのであれば、操縦桿を握ってほしい」
非常時とはいえ所属も経歴も分からない人間を兵器の操縦席に乗せるのは大問題だが、このパイロットが最優先するのは機体の鹵獲阻止らしい。中々凄い奴だなと傭兵は内心思いつつ、彼の無事な方の手を掴んで引っ張り上げた。
「いいのか、そんな真似をさせて」
「この状況だ、もしゲリラの手の者なら射出座席を使って打ち上げてやるとも」
「そりゃ怖い」
「それに防弾装備がある以上私の自衛用火器では歯が立たん、奪う気ならサッサと殺しているだろう」
パイロットは後部座席へと収まり、効かないと分かり切っている拳銃の残弾を確認した。恐らくそれを使う際に撃つのは傭兵ではなくコックピット内の機材だろう、泥棒女と違って多少震えながらも堂に入った握り方だ。
「頼む」
「…依頼料はサービスしとくぜ、傭兵とでも呼びな!」
「傭兵殿か、承知した」
乗り込んだ傭兵が真っ先に行ったのは外部機器との接続用ソケットの開放だ。保護用のカバーを外し、長いケーブルを差し込んだ。迫りくる武装集団の足止めを行っていたミナミも弾切れになった武器を捨て、コックピットハッチに飛び込む。
「ミナミ!俺と機体をバイパスしてくれ!」
『私を通して制御信号を手動操作規格の物に変換すると、こんな回りくどいことは久しぶりですね』
「いけそうか?」
『この場でOSを書き換えるわけにも行きませんが、アドリブで補う以上精度は期待しないでくださいよ』
「一体何の話をしてるんだ、貴方方は…」
後部座席が埋まっているので傭兵の膝の上に収まったミナミは追加で幾つかのケーブルを機体に接続させ、操縦系統への入力を行える体制を整えた。傭兵のヘルメットにはメインカメラの映像が投影され、動作データから感覚のフィードバックを実行する。
「セットアップに暫くかかる、幾つか質問してもいいか」
「勿論構わない、寧ろ気が紛れる」
「なら聞きたい、この状況について何か知ってるか」
「恐らくゲリラの襲撃だ、目的は人型兵器に違いない」
人型兵器の窃盗とは中々大規模な犯行だが、最近同じような目的を持った人間に相棒を奪われかけたことがある。そのことを思い出し、傭兵は泥棒女達はもしやゲリラなのではと考えを巡らせた。
「へぇ、なんだって人型を集めてるんだ」
「それは…現統治機構と戦うためだろう、奴らは海賊の傀儡となった現状を許していない」
「勝手に戦ってるわけか、それがここまで過激化してるとは驚愕だぜ」
「彼らが海賊を倒そうとする気持ちはこの星の人間なら分かることだ、だがこうも血の流れるやり方をしては…」
中々踏み込んだ話をし始めたなと思ったところで青色制服は我に帰り、それ以上言葉を続けるのをやめた。やはりこの手の話題というのはタブーなのだろう、見るからにバツが悪そうだ。
「すまない、これに関しては少々話し過ぎた」
「問題ない、それよりもう動かすぞ」
「うわっ!」
青い塗装の機体は勢い良く立ち上がり、持っていた武器に砲弾を装填した。そして砲門を向ける相手はいつの間にか迫ってきていた敵人型兵器、大会で使うための識別番号や搭乗者のエンブレムがそのまま残っているのがやるせない。
「目の前じゃあないか!」
「撃つ…」
「駄目だ!周囲の建物に当たる、距離を取って弾かれにくい側面を」
「できるわけねぇだろ、それくらいなら別の方法を試すね!」
傭兵が選んだのは格闘戦であり、一撃目は懐に潜り込んでの肘だ。その衝撃で敵機のメインカメラが圧し潰され、カバーとして使われていたガラスが飛散する。
「この機体で接近戦をやるのか!?」
「出来れば俺もやりたくないさ!」
二撃目は体勢を崩すための膝蹴りで、繊細なバランサーを巨大な衝撃が襲う。そうすると敵機は装甲をゆがませ、仰向けに倒れこんだ。機体重量を上手く乗せるだけの技量があり、人工筋肉の伸び縮みを理解出来る経験を培った人間にしか放てない完成度の高い攻撃だ。
「終いだ」
弱点の一つである腹部に砲弾を叩き込み、敵機に致命的な損傷を負わせる。コックピットハッチを開いて乗っていたゲリラが逃げ出そうとするが、漏れ出た燃料が引火したお陰で火達磨になってのたうち回った。
「み、見たことがないモーションパターンだ…こんな動作を登録していた気はないんだが…」
「もうアンタの味方が集まって来てる、ここらでお暇するよ」
「ま、まて!置いていく気か!?」
「片手でも追従くらいは出来るだろ、俺達は乗り換えだ」
そう言って傭兵とミナミが10m程の大きさを誇る人型兵器から飛び降りたかと思えば、その下には彼らが持ち込んでいた多脚車両がいつの間にか待機していた。パイロットは操縦席へと移って計器を見たが、彼らが居たことを示す痕跡は殆ど残っていなかった。
「…颯爽と現れたかと思えば私を窮地から救い出し、そしてまた一瞬でいなくなるか」
町は未だに銃声が響いていたが、本来の操縦士一人になったこのコックピットの中だけは場違いな静寂に包まれていた。