第七話 協力
SF宇宙で週間ランキング五位!
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二人と一機しか居ない格納庫の中で多脚車両から降り、少女に連れられ奥へと進む。破損した多脚車両は兎も角、中には人型兵器すら壊れたまま放置されている。
「…第一世代機ばっかりだ、開拓用に持ち込まれた旧式か」
「この町で使われた後直せなくなった子達です、もう高度な修理設備も予備の部品も品薄ですから」
「なるほどね、それで何処まで行くんだい」
「もう少し奥までです」
かなり大きな格納庫だ、恐らくは小型の宇宙艇といった船舶も整備を行なっていたのだろう。それ故に大量のスクラップが気になるが、今は従った方が良さそうだ。
「ミナミ、暗視装置は使えるか」
『はい、周囲の警戒は継続中です』
「ここまで奥に連れ込むんだ、何か用意しているに違いねぇ」
疑われているのだろう、スパイか何かだと思われれば次の瞬間にはあの世行きという可能性もある。
「なんでここまで警戒するんだ、俺は船を直して貰えればそれでいいんだが」
「…その船は何処にあるんです?」
探りを入れてみるが、分かるのは疑われていると言うことだけだ。信用してもらうためには船を見せる必要がありそうだが、彼女を完全に信用して良いかも分かっていない。
「峡谷の下に隠してある、どの街もドックが空で不気味だったからな」
「そう、ですか」
彼女は立ち止まってこちらに向き直る。それに対して傭兵はホルスターに収まっている拳銃を握りつつ、少し身構えた。
「…私はその、貴方を信用して良いか分かりません」
「そうだろうな」
「なので、貴方が乗っている船について教えて下さい」
どういった意図の質問だろうか、こちらの情報を掴もうとしているなら面倒だと誘い込まれた二人は思う。しかしここで踏み込まなければ先に進めないのも事実、ここはリスクを承知で話すべきだろう。
「帝国軍三番工廠の装甲コルベット、ハヤブサの五式に該当する筈だ」
「そ、装甲コルベット?!」
おおよそ個人で運用する物では無い、彼女は知識がある故に驚いたようだ。
「それなりに儲けてる傭兵でな、これがライセンス証」
「拝見します、本物ですよね?」
「いや聞くなよ」
手持ちの機材でライセンス証を調べる彼女だったが、何度か調べた後に本物であると認めたようだ。
「ライセンスの更新日時と傭兵組合からの評価を見るに海賊とは思えませんし、奴らの船は大抵が協商連合製の旧式船なんですよね…」
傭兵連合や帝国からの呼びかけに応じて参戦した幾つかの戦闘で得た電子勲章がライセンス証には表示されており、どれも小さな小競り合いで授与されるようなものではなかった。彼女は唾を飲み込み、その数を数えるのをやめた。
「信用してくれるってことで良いのか?」
「…はい、もし内通者だとしても私は貴方に全てを賭けたいと思えました」
「え?」
彼女が点けていなかった照明の電源を入れ、巨大なシートを思い切り引っ剥がす。すると目の前に現れたのは、ピカピカに整備された旧式の人型兵器だった。
「私と一緒に二週間後に海賊が主催する人型兵器の戦技大会、サンド・ロワイヤルに出場して下さい!」
急な言葉に処理が追いつかずポカンとするミナミを尻目に、傭兵は面白そうだと言わんばかりに彼女に近寄った。
「何が何やら分からんが、話は聞こうか!」
「えっと、本当に良いんですか?」
こうしてよく分からないまま、何も知らない大会への出場が決まったのである。
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ーー
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彼女と出会ってから一日が経ち、あれから色々と説明して貰った。この大会に勝つことこそ宇宙船修理の第一歩になるというのは、傭兵から見ても大きな対価となり得たのだ。この人が居なくなり荒れ果てたドックを蘇らせるにはかなりの資金が必要だが、優勝すればお釣りが来る。
「操縦系は入れ替えるぞ、第一世代の作業用OSモドキじゃあ勝てねぇ」
『私がシステムの書き換えを担当します、マスターは調整を』
今は二週間後に迫る大会当日に向けて使用する機体を仕上げているところだ。尤もハードに関しては完璧に近い状態だったので、彼らはソフトに絞った作業を行っている。
「トバリさんよ、後で試運転行けるか?」
「だ、大丈夫です!」
作業服姿の少女は名をトバリと言うらしい。協力関係を結んでからというもの、傭兵は彼女のことを気に入ったのか名前で呼ぶようになっていた。
「海賊が支配地域のガス抜きにこんな大会をやっていて、それも優勝者にはこれだけの賞金があるとはなぁ…」
「多分使える人型兵器を減らして戦力を削いでるんです、それも彼らが直接手を下さなくて良い方法で」
彼女の倉庫に大量のスクラップが放置されている理由が分かった気がする、あれはどれもが経年劣化ではなく戦闘によって破損していたからだ。
「そう考えると怖いな、だが曲がりなりにも奴らが統治を行なっているってのは面白い話だ」
こんな搾りカス以下の惑星に滞在しても儲けは少ないだろう、こんな場所に居続ける理由が分からない。宇宙船を沈めて住民を星に閉じ込め、何をしたいのだろうか。
「重機転用型の第一世代機じゃなくてカンナギが使えれば優勝確実なんだが、そうもいかないか」
「カンナギ、ですか?」
「俺の愛機、泣く子も黙る秋津島グループ製の第三世代機さ」
『過度な自慢は嫌われますよ』
今回使用する機体はかなりの旧式だが、OSの書き換えと操縦系の最適化が終われば見違えるような性能を発揮出来るだろう。コックピットは窮屈だが、システムを補助するミナミと傭兵自身が収まるスペースはある。
「武装は?」
「用意出来たのはこれだけです、すみません…」
「そう謝らないでくれよ」
トバリがコンテナに入れて持って来たのは拳銃を模した人型兵器用の40mm砲であり、設計はかなり古いものだ。見る限り整備はしっかりされているが、元々の品質はそこまで良くなさそうだ。
「開拓時に持ち込まれた骨董品をどうにか撃てるようにしてみました、でも故障率がかなり高くて…」
「問題ない、コイツが壊れる前に敵機を倒して武器を奪えばいい」
「滅茶苦茶なこと言いますね、傭兵さん」
「無茶を通してこそ一人前のパイロットだ、それに賞金が無けりゃ修理用の機材を買い戻せないんだろ?」
略奪された機材を取り戻すためには金が必要だ。船を直したい傭兵と修理設備を元の形に戻したい彼女は利害が一致している、この辺境惑星で手を組むには十分過ぎる理由だ。
「思ったんだが、トバリ以外の作業員は何処に?」
「海賊に攫われました、船の整備をさせるためだと思います」
「うへぇ、奴ら相当だな」
海賊が主催ということなら、より多くのことを知るきっかけにもなるだろう。現地協力者に賞金、情報も集められるという一石三鳥の策は、果たして成功するのだろうか。