第六十二話 新型機
「機体を探すわけだが、一応の検討は付いてる」
「はい」
傭兵とフジカネ、防弾装備に身を包んだ二人は新たな機体を調達するための計画について話し合っていた。それなりに知識のある傭兵は既に考えがあるようで、懐から紙の束を取り出した。
「第二世代機も価格帯に幅があるとはいえ、予備機含めて三機調達することを考えると自ずと範囲は限られてくる」
傭兵はいつの間にか用意していた紙製の取扱リストを開き、第二世代機のページを開く。第一世代と比べて機種は少なく、汎用性の高い機体のバリエーション機が大半を占めていた。
「それで買える機体を見つけて、明らかに安い中古やレストア品を弾いて、更には予備パーツの在庫が十分流通しているとなると…」
「殆ど残らないんスけど」
「第二世代の整備は大変だからな、整備性が良い堅実な機体を探しておいた」
リストにペンを向け、条件に合わない機体に線を引いていく。そして最終的に残ったのはたったの数機だったが、カタログ上のスペックは第一世代とは比べ物にならないものばかりだ。線を引かれた機体は、第二世代機とはいえ星の外と比べれば十何年も前の旧式ばかり、初期不良や重要な改善点が放置されてしまっているのは、正直言って買う気にならない。
「こんなもんか、じゃあ行くぞ」
「何も分かんないっスけど」
「いいからついて来てくれ、愛機候補を見に行こうじゃあないか」
第二世代機が第二世代機であるための条件とは、案外単純である。一つは最初から戦闘用として設計・開発されていること、二つ目は強固な新型装甲を採用しているか否かだ。
「選定で第一に考えたのは装甲だな、今の機体じゃ一発で死ぬぞ」
「うっ…」
「初めて一緒に仕事した時なんかは本当に危なかったからな、次の機体は真正面から撃ち合えるだけのタフさが欲しいと思っていた」
各国の戦訓や運用思想、求められた役割や課せられた制約などによって機体が持つ性能は様々なものになる。中央工廠での戦闘は激しいものだ、出来れば頑丈そうな機体を調達したいと考えるのは道理だろう。
「着いたぞ」
「PMCの奴らが乗ってたような機体ばっかりっス」
「入ってみるか、すみませーん!」
そう言って入ると、装備からして冷やかしではないと判断した店員が颯爽と現れる。先に身なりを整えたのにはこういった理由もある、舐められないためのドレスコードというのを把握するのは、傭兵という職業に必要な能力の一つだ。
「はい!なんの御用でしょうか!」
「リストを見て来たんですがね、この機体って在庫あります?」
「…なるほど、この機種でお間違いないですか?」
「ええ」
「幸い在庫ならありますよ、倉庫の方までご案内します」
店員は何やら含むものがありそうな言葉を溢しつつ、二人を連れて受付から倉庫へと向かう。第二世代機が多く駐機されていたが全てが売り物というわけではないようで、損傷した機体が修理のために運び込まれていた。
「最近は抗争が多くてですね、販売やメンテナンスよりも修理の方に人手を取られていまして…」
「どれも第二世代だな」
「第一世代は直せないくらいになりますからね」
そうこう話している間に倉庫の奥へ辿り着くが、そこには埃を被ったカバーをかけられた機体が鎮座していた。指示を受けた作業員によってヴェールが剥がされたが、そのシルエットは第二世代というより第一世代に近かった。
「…ずんぐり、むっくり?」
第二世代と言えばより人に近い骨格が採用されていることが多いが、この機体は身長が低く、肩幅があり、四肢が太い。しかし傭兵はこの機体に見覚えがあるらしく、腕を組んでそれを見上げた。
「帝国で使われてたType-24の…前期型じゃないな、秋月か」
「よくご存知で、この機体は後期改修型の設計図を元に作られた新品ですよ」
型式を見抜いた傭兵に対して店員は説明しつつ、仕様書を渡す。設計の変更は行われていないようだが、砂塵対策用のオプションは搭載されているらしい。
「その割には長いこと倉庫番をしていたみたいですが、何か理由でも?」
「正直に行ってしまえば、現在普及しているOSとは相性があまり良くないんです」
「この機体専用のOSがある筈ですが」
「第二世代機用は協商連合の汎用OSしか無いんですよ、帝国の設計ではどうも…」
四肢のバランスが違うからだろう、この機体本来の制御システムまでは用意出来なかったのだろうか。脳波制御が殆ど普及していないのを見る辺り、ハード面ではそれなりでもソフト面にはなんらかの問題を抱えているらしい。
「装甲やフレームの剛性はかなりのものですし、市街戦への適性も高いです。ですがどうしても扱い難くなってしまって…」
「確かに汎用OSじゃあ難しいでしょう、独自色の強い帝国製の局地戦用機を動かせないのは道理というかなんというか」
この星で運用・生産されているのは殆どが協商連合という勢力によって設計された物だ、彼らはテラフォーミング計画にも一枚噛んでいたとミナミが言っていたのを傭兵は思い出した。
「よくご存知で、センサや人工筋肉の装備の配置にも癖があるものですから」
「確かに癖だらけ、このタレットも上手く設定しないと自分を撃つ羽目になる」
機体の背中に装備された砲台は市街戦において全方位に攻撃を浴びせ、待ち伏せをする歩兵に地獄を見せた。だがそれにより衝突回避を含めた動作制御は複雑なものになる、専用のOSが必要になるわけだ。
「本当ならばお勧めしないんですがね。お客様は分かっている方のようですし、安くしておきますよ?」
「取り敢えず試乗した後に…三機、予備パーツと使えそうな武器もお願いします。これが予算で、安くしてくれた分だけ買うんで見積もりを」
中央工廠でガワだけ作れても中身が伴わないのは問題だが、彼らには頼れるアンドロイドが居る。安く済ませてくれるというのなら万々歳だろう、機体の状態も悪くない。
「…買っちゃいました、ね」
「ああ、次の機体はコイツになった」
この機体が悪いのではない、周囲を取り巻く環境が悪いのだ。それに見放されていた機体を乗りこなすとなれば確実に目立つ、新たな広告塔となるに違いないと考えた彼は口角を上げた。
「不人気とはいえ生産はされてるんだ、部品の面も安心…」
「あっ」
「ん?」
傭兵が振り返ると、明らかに動揺したフジカネが棒立ちになっていた。彼はどうしたのかと声をかけようとしたが、彼女はヘルメットの通信機で誰かと話しているようだった。
「ミナミ、通信内容傍受出来るか」
『あの服の初期設定は私がやったんですよ、出来ないわけないじゃないですか』
「悪いアンドロイドだぜお前は、頼む」
『要約しますと…彼女が属する孤児グループで誘拐があったようですね、それも大規模な』
確かに大事だ、あの焦り方にも納得がいく。数秒続いた放心から抜け出した彼女は状況を聞き出そうといているが、あれでは聞けたとしても要領を得ないだろう。誘拐の原因は彼女が活躍しすぎて大金が一気に入り、目を付けられた…というのが妥当だろうかと傭兵はごちる。
「フジカネ!」
「…え、あ、ハイ!」
「手なら貸すぜ。丁度機体もある、セットアップはぶん回しながらになるがな」
彼の実力を知る彼女は頼もしいと思いながらも、付き合いの浅さから信用していいのかを決めかねていた。しかしこれ以上の援軍は望めず、彼が駆る人型兵器一機でこの状況をひっくり返せる可能性は大いにあった。
「お願いしても、いいでしょうか?」
「慣らし運転のついでってことにしてやる、借りだなんだと言うつもりはないからサッサと乗れ!」
「お客さん!?」
「コイツ動くよな。悪いが燃料満タンで頼む、使える武器も!」
「…いいですとも、御代は頂きますからね!」
整備士達が機体に電源ケーブルを繋ぎ、起動用の電源を確保する。機体を整備モードで立ち上げ、ミナミが後頭部から伸ばしたケーブルを機体に繋ぎOSの書き換え作業を開始した。ディスプレイには何かを示すコマンドが表示されるが、すぐに人の理解できる言語ではなくなった。人とは構造の違う脳を持つアンドロイドが中身を書き換えているのだ、機体のコンピュータは人に合わせなくても良いと知った瞬間に今まで以上の処理速度を叩き出す。
「行けるか?」
『余裕です。一気にやるので、向こうの機体にもケーブルを』
燃料補給と武器弾薬の搭載が並行して行われる中、作業状況を見ていた電装品の担当者だけが口をあんぐりと開けて固まっていた。




