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第六話 交易拠点

「…本来は環境隔離用のドームが建設される筈だったんだろうな、基礎だけが施設を覆うように建ってやがる」


『内部の保護は不可能な状態ですが、5mの壁があるだけで結構変わりますね』


「外敵からも身を守れる、この構造材なら相当頑丈だろうな」


多脚装甲車にて街を訪れた二人は検問の列に並びつつ、未だ飛び続けている偵察機の映像を見ていた。暫くの間彼らの順番は訪れないと分かるほど人が集まっており、日没後が心配になるほどだ。


「しかし解せないな、ここの宇宙船用ドックも空じゃないか」


『やはりここに来るような人は少ないということでしょうか』


「いや、この星の人間が所有する宇宙船が無いってことが異常なんだよ」


本来なら輸送船を使って稼ぐ人間はそれなりの数居る筈だ、それなのに全く宇宙船の影も形もないのは不自然過ぎる。


「中に入れたら調べることにしよう、海賊って奴らが相当暴れているのかもしれん」


『だから目立ち難い服に変えたんですか?』


無骨な装甲服に身を包んでいた筈の傭兵は検問の列に並んでいた人々を見て、それっぽく衣服の雰囲気を寄せていた。一部の装甲板を外し、布製のポーチや砂から身を守るコートと明らかにサイズが合っていない帽子を持って来たようだ。


「前の服から少し装甲板を外しただけだ、これでも火薬式の銃なら大抵止まる」


多脚車両の砲塔内部は居心地が良いとは言えない、暇を潰すにも持ち込んだ端末で電子書籍を読むくらいだ。砂漠型の惑星ということもあって陽が沈むと急速に温度が下がる、これには車内のヒーターを点けるしかない。


「日中はクーラー、夜間はヒーターって…バッテリー切れちまうぞ」


『燃料電池ですから、燃料を買うしかありませんね』


「大気分解系のプラントが有れば安く済むんだが、40年経っても動いてるかどうか…」


この車両は水素と酸素を消費して動いているため、副産物として水が手に入る。燃料電池は長い間コストパフォーマンスの悪さから他の動力源の陰に隠れていたが、人類が宇宙に進出してから発見された量産可能な超高効率触媒の利用によってその価値を高めたという経緯がある。


「監視頼む、俺はちょっと寝る」


『そうして下さい、個人用火器の使用許可を』


「電磁兵器は目立ちそうだからな、アンティークを使え」


『火薬式の火器…これですか?』


今回持ち込まれたのは、狩猟用として使われていたレバーアクションライフルだ。火薬式火器というのは高い信頼性から使われ続けてはいるが、この星で主流だと思われる無煙火薬は外の世界で既に廃れている。


「本当は別のにしたかったんだが、高効率火薬の青い発砲煙は目立つだろ」


『これも相当ですよ』


「リボルバー拳銃と抱き合わせで安かったんだよ、カウボーイってな!」


本来ならコレクションとして飾られるレベルの代物だが、案外整備はしっかり行われていた。


ーーー

ーー


「珍しい車輌だが、まあ多脚車両なんぞ幾らでもあるか?」


「貨物も問題無し、だが敷地内で砲の引き金を引けばどうなるか…分かっているだろうな!」


陽が沈むこと一回、二人の順番がやって来た。偵察が目的のため余計な物を持ち込まなかったことが功を奏し、案外すんなりと許可は降りた。


「はい、分かってます」


「…おい、その防弾装備の型は?」


「ナカガワ繊維の五型防弾服ですが」


検問の人間が近寄りまじまじと傭兵のことを見る、何かを探しているようだ。コートも脱ぐよう指示され、防弾服のことを確認された。五型は52年前に開発された傑作防弾装備だが、傭兵が着込んでいるのは改良が重ねられた八型だ。馬鹿正直に答えることはないだろう、それに外観は弄ってあるために特定は難しい。


「被弾痕は無いとなると、発掘品か」


「ええ」


「…ならいい、あまり自慢して歩くと奪われるから気をつけろよ」


何が気になったのかはよく分からないまま、検問を通り抜ける。聞き返すわけにもいかないため、これ以上は自分達で調べる必要があるだろう。


「アイツら防弾服の何がそんなに気になったんだ?」


『現状の情報では絞り切れないかと』


「やっぱり今は情報収集が必要か、まず空のドックでも覗きに行こうぜ」


船の整備を行っていたであろう施設に向けて多脚車両を走らせると、そこには思いの外綺麗な建物があった。倉庫など施設に連なる建物はある程度管理されているように見えたが、なんとも人の気配が無い。


「営業してないみたいだな、ドックが空な理由も知りたかったんだが」


『中に入って聞いてみますか?』


「インターホン鳴らしてみるよ、人が出て来たら儲けものさ」


何度か押してみるが、応答はない。やはり人は居なさそうだ、偵察機にも人影は映らない。


「…どうするよ」


『日を改めるか、夜にもう一度調査に来るかですね』


「後者だな、街を回るか」


諦めてその場を去ろうとした時、格納庫のシャッターがけたたましい音を立てて開いた。何かと思って凝視すると、一人の人間がこちらに走り寄ってくるではないか。


「すみませぇーん!今そっちに人が居なくてー!」


油で汚れた作業服を着た少女は多脚車両を少し見た後、こちらに向き直って話を続ける。


「ご用件はなんでしょう、もしかして船の修理ですか?」


「その通りだ」


至極当然のように答える傭兵と、固まる少女。空気は凍りつき、一瞬にして口を開くのも憚られる空間になってしまった。


「…た、多脚車両の整備ですね!ほら入って入って!」


「あ、ああ、助かる!」


急に大声で演技を始めた彼女に合わせる形で声を張り上げ、車輌を建物の中へと入れる。ミナミに警戒するよう呼びかけ、傭兵自身は懐の銃と閃光弾にいつでも手が届くようコートの中に腕を隠した。


「閉めますよ!」


分厚いシャッターが閉められ、暗くなった倉庫に照明の光が満ちる。倉庫内には他にも幾つかの多脚車両が保管されていたが、どれも酷く損傷していた。


「…ここなら大丈夫です、誰にも聞かれませんから」


「そんなに不味い話だったとは、悪かった」


「船を持っているということは旅の方ですよね。事情を知らないのは当たり前ですから、気にしないで下さい」


どうにも良い状態とは思えない、彼女が言う事情も碌なものでは無さそうだ。本当に面倒な星に降りてしまったと頭を抱え、警戒を解かぬまま話を続けることにした。

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