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第四十八話 旅立ちの前に

「駄目だこりゃ、何も残ってねえ」


『私たちの船が着陸した際にはここまで荒れていなかったはずですが』


「管理者を殺しちまったからな、荒れるのは当たり前だろ」


 中央工廠への遠征を前に、傭兵はある場所までやって来ていた。ここは船を初めて着陸させた場所であり、今では主人を無くした空ドックだ。事務所であったはずの部屋は丸ごとひっくり返されたかのような状態になっており、何者かが漁って回ったのがよく分かる。


「一緒に消し炭になってたのは護衛だったのかねぇ、この荒れ様もそうなら納得出来るんだが」


 消し炭にしたのは傭兵の船が放ったレーザーなのだが、それも船から人型を盗んでおいて不用意にも再度近付こうとした奴らが悪い。しっぺ返しは来るものだ、来たことを理解する前に死ぬのだが。


『電子機器が残っていれば情報を吸い出せたのですが、こうも纏めて持ち出されるとお手上げですね』


「運び出せる物は貰って行くけどな、連絡してくれるか」


『アイサー、作業を始めるように言っておきます』


 傭兵が窓を開けようとするが、砂塵対策のために詰め物がされていて開かない。汚れて外が見えにくいガラス窓をどうすべきかと彼は首を傾げたが、ミナミがそれを躊躇なく叩き割ってサッシを引っ剥がした。


『これで見えますね』


「…わーおワイルド、そんな風に育てた覚えはないぞー」


『あらやだ、これでもマスターに似たとは思ってるんですよ』


 窓、いや窓だったものから外を見ると、そこには陸上艦に似た大型車両がクレーンを展開していた。大きさは三分の一以下だが、それでもコンテナ船程度の全長は有しているように見える。


挿絵(By みてみん)


「こちら屑鉄兄弟、廃品回収は好きにやっていいんだな?」


「精密機器を壊さないならそれでいい、双方の取り分は決めてある通りだ」


「回収と修理で俺達兄弟の右に出る者は早々居ない、まあ適度に期待して待っておけ」


 クレーンが垂らしたフックには屑鉄兄弟の機体がぶら下がっている、ドックの中に降ろして作業を行うのだろう。陸上艦の解体作業もひと段落したということで、少し加勢を依頼したのだ。


「壮観だな、やっぱり大型車両は良い」


『中央工廠へ辿り着くための足としては…少々豪勢なのでは?』


 巨大な物体というだけでまず頼もしさが違う。武装こそ施されていないものの、それ故に装甲は分厚く弱点は少ない。


「カザマキの実家が協力してくれるから問題ない、アレは護衛として人型兵器を数機載せた陸上コンテナ船だよ」


『なるほど、商会としての身分を盾に使う気ですか』


「陸上艦で儲けた分は還元してくれるんだとよ、カザマキも着いてくるって言って聞かねぇしさ」


 隊長からの依頼で中央工廠へと向かうことになったものの、この大型車両を用意するのに少々手間取った。陸上艦から引っ剥がした重力制御機関を転用することで動かせるようになったものの、作業に当たった人々は気が気ではなかったらしい。


『やはり多少錆び付いてはいますが、複数の整備用機材があるようですね』


「全部掻っ攫って帰るか、レンヤも待ってることだしな」


 傭兵は建物の外に駐機してあったカンナギへと乗り込み、周辺警戒に当たることにした。陸上艦の襲撃事件以降ゲリラは大人しくしており、スカベンジャーも解体事業で利益を得られるということで交渉の席につくようになった。強力な兵器を有する傭兵がこの街に留まらずとも大丈夫な体制に近付きつつある、治安維持隊の手腕には驚くばかりだ。


ーーー

ーー


 街へと帰還した傭兵達一行は隊長に集められ、治安維持隊の地下格納庫にて中央工廠へと向かう部隊について話し合うことになった。船に乗せられる人型兵器には限りがある、コンテナ船という偽装を行うことも考えると全員で向かうわけにもいかない。


「人型兵器部隊は傭兵に任せる、船の人員は治安維持隊でどうにかしよう」


「隊長も行くのか、街を離れて大丈夫なのか?」


「街一番の精鋭であると自負はしているが…一部隊に過ぎん、我々が抜けても大きな問題は無い」


 隊長が見せる余裕の源は陸上艦内に残されていた戦力の鹵獲だ、特に無人機として運用されていた第二世代機40機分の残骸は金塊と同等と言っても良い。傭兵の攻撃によって原型が無い物もあるが、自爆した機体の損害はコックピットに留まっている。


「移動に使うコンテナ船が運用出来る人型兵器は四機、傭兵の機体を載せれば残りは三機だな」


「潜入調査でカンナギを持ち出すわけにもいかないか、困ったなぁ~」


「偽装の意味が無くなるな。かと言ってあの機体…トバリカスタムだったか、アレも大会で目立ち過ぎた」


「塗装と外観も弄らないとダメか」


 前回のように正面から殴り合ってはい終わり、というわけにはいかない。準備は念入りに行うべきだろう。それにコンテナ船に載せる積荷も用意しなければならない、この街に纏まった数のコンテナがあっただろうか。


「こうなってくるとアイギスが使えるのが助かった、奥の手になるしな」


「だな、これも陸上艦のお陰だと思うと癪だが…」


「ぶっ潰してかっぱらったんだ、俺達の戦果だよ」


 陸上艦から鹵獲した物の中に予備パーツと思わしき物が発見されたのだ、やはりゲリラが事故を装ってアイギスを受領する手筈になっていたのだろう。少々複雑だが、修理の目処が立ったということは素直に喜ぶべきだ。


「しかしアイギスの存在は敵も知るところだ、少々リスクが大きいが」


「でも慣性制御装置は強力だ、敵の土俵でカンナギは使えないしな」


「…積荷の準備にはまだ時間がかかるか。それまでに偽装を済ませておく必要があるな、残りの二機は?」


「ああ、それは考えがあるんでね」


 そう言って彼が促した方には、見慣れた三人組が居た。隊長は共に死線を潜り抜けた男達を見た後、その背後に鎮座した人型兵器に目を奪われた。

お久しぶりです、第二章の書き溜めがある程度終わったのでざっと20話ほど投稿します。

先行して公開中の他サイトでも第二章は完結に至っていないため、おおよそ中盤までの投稿になると予想されます。よろしくお願いいたします。

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