第四十六話 決着
「何機居るんだコイツらァ!」
『囲まれますよ!』
傭兵が駆るカンナギは次々と現れる第二世代機を既に20機は蹴散らし、更には陸上艦の砲台の8割を沈黙させた。しかし装備している盾には何本ものナイフが突き刺さり、機体自体にも格闘戦によるものと思われる細かな傷が増えていた。
「隊長、そっちはどうなんだ?」
「格納庫を荒らして突入部隊から目を逸らしているが、歩兵は来ても敵機が来ない!どうなっているんだこれは!」
「全員街と俺の所に来てんだよ」
話しながらも飛来して来た砲弾を逸らし、近付いてきた敵機の腹を蹴飛ばして粒子砲を撃ち込む。まだ対応出来る範囲内だが、分散されると手が付けられない。
「ホバークラフトの護衛もある、こちらは暫く離れられんが大丈夫か?」
「あの第二世代機はバケモンだ、第一世代機じゃ無駄死にするだけさ」
「第一世代で腕を斬り落として帰って来た奴に言われても説得力が無いな!」
厄介なのは大会で見せた回避能力が全機に備わっているということだ、機体ごとの個体差は殆ど無いように思える。鋭敏にも程がある反応を見るに人は入っていないのだろう、恐らく無人機だ。
「人間離れした動きをしやがるな、俺の知ってる無人機は人間の動作ベースばかりなんだが」
『何か根本的に違うものを感じます、所作の一つ一つに人の手の介在を感じられないと言いますか…』
無人機のセオリーを守らず、反射速度だけを極限まで高めた謎のAI。集団戦にも慣れていないらしく複数機の連携がまるで取れていない、この数を相手にしても大きな問題になっていないのはそれが原因だ。
「まだ生きてる砲台が居やがる、潰すにしても邪魔な奴らが多すぎて街の援護に回れないぞ!」
『そうは言いましても手が足りません』
「盾じゃなくて武器を持ってくるべきだったか…?」
脚部の推進器で一気に飛び上がり、街へと砲身を向けていた砲台に頭部を向ける。増設された頭部機関砲を放てば質の悪い鋼材など貫通し、いとも簡単に沈黙させた。
『こちらミナミコピー、おっ始めますよ』
「到達したのか!」
『弾切れになる前に脱出したいので手早く済ませます、上手く行くと良いんですがね…』
突入部隊は管制室に到達したらしく、遂に陸上艦のシステムに対して攻撃を仕掛けるそうだ。抵抗は激しいものの閉所では防弾装備を来た彼らに軍配が上がる、ミナミが持ち出した近接戦用のボディも役に立ったようだ。
『全マルウェアを隔離領域から移送…投入します!』
「これで多少マシになれば助かるんだが、コイツらが止まるとは思えんしなぁ」
『陸上艦が街に突っ込む前に止まるなら万々歳ですよ、流石私』
どうなるものかと思われたが、異変はすぐに現れた。陸上艦の船体が軋み、歪な形で増設された砲台が落下し始めたのだ。どれだけ雑な応力計算をしていたのかと問いたくなるが、荷重に耐えきれずに大きく曲がった鉄骨を見ればそうも思うだろう。
『おっと、重力制御装置が止まりましたね』
「…これさ、重力を軽減する前提で作った上に安全係数まで削ってる?」
『過酷な環境に置かれる以上劣化が激しいというのは分かりますが、多分マトモな維持管理が行われてませんね』
「ありゃりゃ、本当に酷いな」
複数のキャタピラを集めたかのような脚部も異音を立て、装甲の間からはなんだかよくわからない液体が垂れている。内部に水や砂が溜まっていたのだろうか、砲台が崩れ落ちたのも原因はそれかもしれない。
「教官!なんか音と振動が!?」
『ちょっと、なんでこんなに揺れるわけ?』
しかし呑気にしている状況ではなかった、いつの間にか大型機相手に勝利していた教え子二人は屋上に居たままなのだ。
「下手に動くな、側面の砲台が崩れ落ちてる」
「すみません、何故か周囲の音が聞こえなくて…」
「損傷したか?」
「はい、右腕を喪失しました」
自分の身体と同じように動き、カメラからの映像もヘッドセットを通じて視界に投影される。そうなると脳は厄介な勘違いをしてしまい、機体が損傷すると自分自身が怪我をしたと思い込むのだ。戦闘と合わさって彼の脳では大量のアドレナリンが分泌されていることだろう、落ち着くまで待機させておいた方が良さそうだ。
「落ち着くまで動くな、カナミにバイタルを監視して貰うといい」
『任せて、極度の興奮状態ってことよね』
彼にはアンドロイドが付いている、周囲の警戒も行ってくれるだろう。傭兵はひとまず彼らとの通信を終え、今度は隊長達へと話しかける。
「隊長ー!無事かー?」
「身構えてはいたが…船外に出なくて正解だったな、制圧した格納庫はびくともしていない」
「やっぱり後付けした箇所だけ綺麗に崩れ落ちたみたいだな、ゲリラの程度が知れるってもんだ」
「ホバークラフトは退避させたから無事だ、突入部隊を回収して離脱する」
大量の第二世代機はそのままだが、厄介な砲台を片付けられたために余裕が出来た。それに傭兵以外の戦力が街への援護に回れば敵を押し返せるだろう、今の配置であれば背中から撃つことができる。
「さて、確認終わりか」
『結果は上々、それにこの相手も流石に品切れのようですね』
会話をしながらも抜いた刀で厄介な無人機を膾切りにしており、あれだけ居た第二世代機も今や数機だ。何処から同型を纏まった数用意したのかは気になるが、一番な疑問はその中身だった。
「損傷機から電脳を引っこ抜けると良いんだがな、謎のままにしておくのは…」
『待ってください、様子が』
無人機が突如内側から火を噴き、胸部から煙を上げながら地面に倒れる。既に戦闘能力を喪失していた機体に関しても同様で、全機が次々と自壊していく。
「証拠隠滅か!」
『この様子だと電脳があるコックピットを爆破してますね』
「クソッ、解析したかっ…」
『ミナミ大変、甲板が!』
「今度は何だァ!?」
送られて来た映像には甲板が大きく開き、中から何か砲身のようなものが真上に向かって展開された。これは傭兵達には分かる、非常に単純明快な加速装置だ。
「衝撃に備えろ、落ちて来ても受け止めてやる!」
『何なのよコレぇ!』
『マスドライバー、大気圏外にまで物体を打ち上げられる電磁加速型の打ち上げ装置ですね』
迎撃すべく粒子砲を向けるが、砲身から周囲に漏れる強力な電磁波がビームを曲げた。システムを完膚なきまでに叩き潰したというのに動いている辺り、物理的に独立した設備なのだろうか。
「曲がったか、クソッ」
『相当強力ですね、近付いたら機体の電装品が悲鳴をあげますよ』
「実弾兵器を持ってくるんだった、頭部の機関砲じゃ威力不足…」
レンヤは80mm砲を持ち込んでいたが撃てる状況ではない、それに発射時の衝撃波で転落するのは避けなければならないため射撃姿勢を取らせるのも危険だ。
「話は聞かせてもらったぞ傭兵殿!アレを撃てば良いのだな!」
「カザマキ!?」
「機体をトバリに貸してもらった、そちらは損傷機の回収に専念してくれ」
建物の上で105mm砲を構えたトバリカスタムは砲弾を薬室に装填し、マスドライバーの基部に狙いを定めた。攻撃を彼女に任せた傭兵は一気に飛び上がりアイギスを回収、抱えながら隊長達の待つホバークラフトへと移動した。
「目標マスドライバー、オンザウェイ!」
一発目はマスドライバーの周囲に存在する冷却装置に阻まれたが、この手の狙撃は初弾で当てるものでもない。誤差を修正した第二射は障害物の間をすり抜け、基部を穿った。
「命中!」
「続けて撃て、一発や二発じゃ壊れない!」
「分かった!」
ピンホールショットとでも言うべき精度で放たれた第二射、第三射は同じ箇所へと命中し、送電線を破壊したのか内部から煙が上がる。
「徹甲弾がもう無い!」
「別の弾を使え、撃ち切ってもいい!」
しかしマスドライバーは発射のために必要な電力を集め終わったらしく、周囲に放つ電磁波を増大させながら警告音を鳴らした。隊長達が乗る第一世代機は計器が狂い、ディスプレイにはノイズが走る。
「ど、どうする!?」
「虎の子を使う、誘導弾を装填して発射物を撃ち抜くぞ」
「そんな訓練やったことないぞ!」
「電磁波が更に増大した瞬間に合図をするから引き金を引くんだ、多少のズレは誘導弾の方でなんとか修正して命中させる」
電磁波の影響下でも十分に稼働するカンナギのセンサーを使い砲弾の終末誘導を行う、成功確率は低いがやる価値はあるだろう。
「武器屋のババアに感謝だな、隠し玉ってのはこう言う時に使うもんだ」
『弾だけに…』
「黙ってろ気が散る!」
電磁波の増大、引き金を引くトバリカスタム、そして飛び上がって発射されるコンテナを捕捉したカンナギ。外れるかに思われた砲弾はロケットモーターで強引に軌道を捻じ曲げ、上昇するコンテナの底に命中した。




