第四十五 激闘の裏で
「やっぱり数が多いな畜生！」
「多脚車両がこれ以上進めん、俺達だけで行くしかねぇぞ」
突入部隊は艦内で遭遇するゲリラとの射撃戦を繰り広げていたが、協力者のお陰で管制室との距離を縮めていた。人型兵器組はホバークラフトを守りつつ格納庫で暴れており、人の目はそちらに集中している。
「さっき撃たれたろ、大丈夫か」
『防弾装備と同じだけの防御力がありますからお気遣いなく、それより貴方も派手に喰らってますが』
「短機関銃の9mmでこの服が抜けるかよ」
隊長の部下達は防弾装備を着た状態での訓練も行っていたらしく、実戦においても非常に頼もしい存在だ。彼らの持つバトルライフルは一般的なアサルトライフルよりも一回り大きな弾薬を使用しており、旧式かつ経年劣化の激しいゲリラの防弾装備に対して有効だった。
「この先の通路が鬼門だな、横道もあるしハッチのお陰で先が見えん」
「何か投げ込みます？」
「いやぁ数がな…」
ゲリラ達の詰め所に投げ込んでは移動していたため、このままのペースではすぐになくなるだろう。悩んだ一同だが、何かが床とぶつかる音を聞いて血相を変えた。
「いやグレネードぉ！？」
しかも一つではなく二つだ、ゲリラの連中も本気らしい。炸裂したそれは大量の破片をばら撒くが、巻き込まれた者達は身体ではなく武器を庇った。
「あーびっくりした、武器を壊されちゃあ困るからな」
『防弾装備着た部隊が二発で死ぬわけないですからね、スモークあります？』
「あるぞ」
『貰いますね』
ミナミのコピーは難所の攻略に乗り出すようだ、煙を貫通して敵を見ることが出来る優れたセンサがあるからこその戦術と言える。
『外の私が上手くやっているといいんですが…ねっ！』
スモークグレネードを扉の先に投げ込み、敵が声をあげたのを見て煙の中へと飛び込んで引き金を引いた。
ーーー
ーー
ー
陸上艦の内外で激闘を繰り広げる突入部隊だったが、街側においても戦いは巻き起こっていた。傭兵の攻撃により砲台の大部分は破壊されたが一部は運良く生き残っており、射程内に入った街を撃ち始めた。更には複数存在する格納庫から大会前に鹵獲された第一世代機が出現、街へと進撃しているのが現状だ。
「嬢ちゃんコイツを頼む、片腕をやられたが基部は恐らく無事だ」
「分かりました、処置を急ぎます」
トバリは治安維持隊の格納庫で損傷機への対応に当たっていたが、その中に見慣れた機体があるのを見かけた。狙撃仕様の機体、カザマキの乗機に違いない。
「カザマキさん！」
「無事だよ、肝は冷えたが」
狙撃支援に当たっていたが被弾してしまったらしい、片腕のマニピュレーターを丸ごと喪失している。狙撃仕様機としては致命的な損傷だろう、予備機を出すにしても数が足りるかどうか分からない。
「予備機はあるだろうか、傭兵殿が最前線にいるというのに私が待機しているというのもな」
「この子も腕が無いんです、予備機もほぼ払底していて治安維持隊から出せる機体はないかもしれません」
「…無念だ」
敵機は最初の防衛ラインである壁を越え、既に市街に侵入している。工兵隊が設置した罠が上手く作動したらしく足止めに成功したようだが、それでも敵の数は多かった。
時折空に向かって青い光が伸びるのは傭兵の粒子砲だろう、徒党を組んで襲ってくる第二世代機を全て一人で相手していると報告が入ったのをトバリは鮮明に覚えていた。
「修理が終わるまで待つとするさ、最悪対戦車ロケットでも構えて…」
「最後まで聞いてください、予備機ではありませんが出せる機体はあるんです」
「あるのか！？」
彼女を連れて向かった先には青色ではなく砂漠迷彩に身を包んだ機体、傭兵が乗っていたトバリカスタムが鎮座している。大会から帰って来た際に整備は終えている、何も問題はないだろう。
「…これは、傭兵殿の」
「105mm砲も全弾装填済みです、使ってください」
「いいのか、これは治安維持隊の物ではないというのに」
「あの人がNOと言う筈ないじゃないですか、それにまた行きたいお店あるって言ってたんです」
彼のためにも潰されては困る、この機体をただ置いておくより街を守るために使ったほうが余程有意義だろう。それにカザマキ嬢のコネクションは得難いものだ、この機体に乗せることで生存性を高めるというのは良い判断と言える。
「私はここで待っていることしか出来ません、でもやれることはやるつもりです」
「…分かった、有り難く借りさせてもらう！」
彼女は梯子を駆け上がり、分厚いコックピットハッチを開ける。幾ら改修が重ねられたとはいえ元は第一世代機、共通規格品であるために立ち上げはスムーズだ。
「起動コードは？」
「373-4649です」
「こういう所でお茶目さを発揮するんだな、あのアンドロイドは…」
OSが書き換えられていたために操作は難しいかと思われたが、手動操作に関しては大きな違いは無かった。システム側の補助が優秀であるためか、カザマキは慣れない機体にしてはスムーズに片腕を動かして見せた。
「センサが充実しているな、望遠も解像度が良い」
「調整は距離に応じて機体が勝手にやります、引き金を引くタイミングを間違えなければ当たる筈です」
「了解だ。それと一つ聞きたいのだが、この機体の名前はトバリカスタムで良いのか？」
「はい」
「…愛されてるな、私も精進せねばなるまい」
自分が乗る機体にメカニックの名前を付ける辺り、傭兵からの信用が厚いことが分かる。カザマキは以前からライバルだとは察していたが、彼女が想像以上の強敵だったことを理解した。
「こちらカザマキ、トバリカスタムで出る！」
ミナミコピーのボディです。
