第四十二話 突入
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「見えるか?」
「何も、振動計はどうなんだ」
「動いたらとっくに知らせてる、生憎平常通りさ」
治安維持隊の装甲車は人員と偵察機材を載せ、街の周囲で索敵網を張っていた。人の目と砂嵐を感知するためのレーダー、そして巨大な陸上艦が走行する際に発する振動を検知する振動計の三つが彼らの頼りだ。
「…ゲリラが陸上艦か、豪勢だよな」
「アレを交易に使えりゃいいなんて言った奴も居たけどな、今じゃ潰された街がどれだけあるか分かんねぇ」
彼らは勝てるとはあまり思っていない、だが逃げ出す先もない。この星の現状は悲惨だ、人として生きられるこの街は死ぬ理由になり得た。
「勝てると思うか、話じゃ奴ら第二世代機を持ってるらしい」
「その質問に何の意味があるのかが知りたいねぇ。負けたとしても行くところなんざないんだ、勝って街の平和を守るか…砂漠で野垂れ死ぬかの二択さ」
逃げる場のない彼らは結果的に死兵となる。全てを突入部隊に託し、文字通り死ぬ気で戦う彼らをゲリラはそう簡単に制圧出来るだろうか。街の中は乱戦になるだろう、降り注ぐ砲弾は建物を木っ端微塵に吹き飛ばすだろう、だが彼らは治安維持隊として最後まで職務を全うするのは目に見えていた。
「…おい、これ見ろ」
「振動計に感ありか、司令部に繋いでくれ!」
ーーー
ーー
ー
陸上艦接近の報を受け、治安維持隊は遂に動き出した。街に布陣する陽動部隊はありとあらゆる火砲を砂嵐の中へと向け、射程内に収まるのを今か今かと待ち構えていた。
「俺達まで連れて行くとは、穏やかじゃないな」
「だがゲリラの野朗共を纏めて潰せるってんなら乗るぜ!」
「奴らは散々俺らの縄張りを荒らしてくるからな、ここで息の根止められるんなら万々歳だ!」
『そうなんですか?』
「堕ちてきた輸送船を何度横取りされたか分かんねぇよ、苦い記憶さ」
『…なんだか後で聞きたい話が出てきましたね』
陸上艦に向けて突撃するホバークラフトの周囲にはなんとか修理を終えた屑鉄兄弟が随伴しているが、今回の作戦に対して二つ返事で参加することを決めていた。ゲリラとスカベンジャーには何やら因縁があるらしい。
「こちら隊長機。傭兵が持ち込んだ化け物で作戦が変わったからな、最終確認を行うぞ」
ホバークラフトに搭載された戦力は隊長とその部下、レンヤの人型で三機だ。あと一機分のスペースには治安維持隊仕様の多脚車輌が乗っている。その中に収まるのは防弾装備を着込んだ歩兵部隊であり、ミナミの子機を護衛する手筈になっている。
「陸上艦に対してホバークラフトで並走する形にまで持って行く。その間の防御はアイギス頼りだ、後ろで見ている傭兵を安心させてやれ」
『アイギスは絶好調よ、絶対に守り切ってあげるから感謝しなさい!』
「砂嵐が解かれれば敵艦に突入する手筈になっている。レンヤ、問題は無いな」
「ありません、やってみせます!」
隊長はホバークラフトの一番前に乗り込んでおり、背後の機体を庇うように盾を構えていた。アイギスの放熱が間に合わなかった場合、あるいは慣性制御装置で対応出来ない兵器での攻撃が行われた場合に備えているようだ。
「側面に取り付いた後は歩兵部隊とミナミの子機…だったか、もう一人の彼女を内部に投入する。人型兵器部隊は格納庫を制圧して出来る限り被害を拡大させるぞ」
地下格納庫に住民は避難しているが、建物が無くなれば復興は難しい物になるだろう。設備が整っているからこそこの街は交易拠点として栄えてきたのだ、廃墟になればどうなるかは想像がつく。なんとも予断を許さぬ状況だ。
「第二世代機が出てきた場合は格納庫への襲撃は断念して船外に退避、釣り出しての撃破を狙う。ホバークラフトが潰されると歩兵部隊を回収出来なくなる」
「やはり、太刀打ち出来ないと?」
「傭兵が勝てない相手だ、奴の実力はよく知っている」
死ぬために来たわけではない、全力で戦い抜くためにも命は大事に立ち回らなければパイロットとして二流だ。しかしただ逃げるわけではない、対抗策は用意してある。
「こちら傭兵、その釣り出しての撃破って奴はこっちに任せてくれるのか?」
「そのつもりだ、奴の正面装甲は抜けるか」
「収束モードなら一発だな、あの装甲配置は耐弾性を重視していた時のトレンドだから上等な耐熱装備はない筈だ。明らかにビーム兵器を考慮した後の機体じゃない」
ビームやレーザーと言った兵器は人型兵器に用いられる装甲が強力な耐弾性を手に入れたからこそ発展した分野であり、最新鋭の第四世代機ともなると小型化した電磁兵器を身体中に搭載するなんてことは珍しくない。
「分かるのか、流石だな」
「切り飛ばした腕をミナミがちょいとな」
『私の解析能力は伊達じゃありませんから』
ホバークラフトは方向転換を始め、砂嵐の中にいるであろう陸上艦と速度を合わせる。アイギスの慣性制御装置を起動し、同乗する機体はケーブルを介しての電力供給を開始した。
「街との距離を考えるとそろそろ敵の射程内だ、いつ姿を現すか分からん」
「了解、何が起き…」
耳を劈くような破裂音が鳴り響き、砂嵐を突き破って一発の砲弾がホバークラフトに飛来する。アイギスは瞬時に砲弾のベクトルを捻じ曲げたが、対象物の速度が高すぎたために逸らし切ることが出来ない。飛来物は隊長が構えていた盾に命中し、斜め上に弾かれていった。
「…今のは!?」
「逸らし切れなかった、通常の火砲じゃありません!」
砂嵐の向こう側から正確にホバークラフトを撃ち抜く精度、相当特殊なセンサーでも有していなければ不可能な芸当だ。それに火薬式の砲であれば防御に問題は無かったアイギスの防御を破る砲弾、穏やかな話ではない。
「レールガン、それも長砲身の大型だな。盾への損害は?」
『入射角が浅く砲弾の角度も傾いていたので貫通ならず、損害軽微です』
「傭兵、今レールガンと言ったか!?」
「当たれば機体の上半身丸ごと吹っ飛ぶぞ、気をつけろ!」
しかし既に陸上艦とは並走している状態であり、この場を離れれば敵艦への突入は難しくなるだろう。それに敵艦の懐に潜り込めば射角を制限できるかもしれない、逃げても撃たれるのであれば逃げない方が良いのは明らかだ。
『砂嵐が解けます、敵艦からの砲撃来ますよ』
「迎撃に入る、悪いが援護は出来ないぞ!」
「かまわん、やってくれ!」
甲板から放たれる大量のロケット弾は柳状に拡散したビームに絡め取られ、その熱量でもって大多数が迎撃される。更に背中から展開したサブアームにはレールガンが握られており、取りこぼした標的を正確に射抜いた。
「ぐぉッ!?」
『凄い…陸上艦のすぐ近くで撃ち落としちゃうなんて…』
「こっちにも来ます!」
街へと砲撃を加えた陸上艦だったが、側面に設けられた夥しい数の砲台にも砲弾は込められていた。砲身がホバークラフトへと向き、次々と放たれていく。
しかしレールガンと比べると遅い、その全てがアイギスによって軌道を捻じ曲げられて逸らされていく。カナミによる補助もあってか機体への負荷は想定よりも少なく、予定通り時間は稼げるだろう。
『今なら粒子砲が通じます』
「ああ、反撃開始だ」
傭兵の駆るカンナギは大量の砲撃に物ともせず武器を構え、ただ当たり前のことかのように引き金を引いた。




