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第三十六話 大会


『正に新進気鋭、チームジェミニがまた一機撃破だぁーっ!』


何処からともなく飛来した砲弾が歩いていた人型兵器の下半身を吹っ飛ばし、一撃で戦闘不能にする。コックピットこそ外したものの、あれではスクラップ同然だろう。


『あれほどの機体、あれほどの選手!そしてその類を見ない機動!今まで居たでしょうか!?』


トバリが用意した戦車砲は猛威を振るい、同じく狙撃での撃破を狙う選手達を圧倒的な射程と威力で葬った。装弾数の大半を占める粘着榴弾は距離に関係なくその威力を発揮するのも狙撃に向いていたと言える。


『改造された戦車砲の完成度は比類なく、その一撃は致命傷!なんというプレッシャー!中継している無人機も発砲時の衝撃波でふらつく程です!!』


「流石教官、暴れ回ってますね」


「傭兵殿だからな、当たり前だとも」


中継映像を格納庫で見ているのは治安維持隊の面々であり、ゲリラが動く瞬間を今か今かと待っていた。特にレンヤとカザマキは人型兵器のパイロットであるが故に格納庫から離れられず、暇を潰せる中継には釘付けだ。


「凄い、あんな機動第一世代機じゃ普通無理だよ」


「そうなのか、レンヤが出来ていたのであまり不思議には思わなかったが」


「アンドロイドが居るか否かっていうハード面の問題より、ソフト面の問題だとボクは睨んでるけどね!第一世代機のコンピュータじゃ性能不足なのは確かだけど、それだけがあの機動に繋がるとは考え…」


ゲリラの少女は多脚車両に乗り込んだまま、車外カメラで中継映像を見ていた。中々の知識はあるようで、ミナミが行った機体OSの書き換えが脳波制御という操縦方式をあそこまでの物にしていることに気が付いているようだ。レンヤとカザマキは語る彼女を放置し、テレビの前に向き直った。


「気になったんですけど、ジェミニって?」


「ああ…一人に見えて実は二人だからな、そういうことだろう」


ーーー

ーー


戦車砲が火を噴き、他の選手が隠れる廃墟に砲弾を叩き込む。傭兵とミナミは順調に囮として目立っており、露骨に彼を狙う機体も着実に撃破していた。


『戦車砲打ち切りました、再装填に入ります』


「撮影用のドローンから狙撃地点がバレてるな、運営側にも内通者が居るってことか」


『狙撃仕様機からやけに狙われるのはそれが理由かと』


「ただ単に暴れ過ぎてるのもあると思うが」


大会における目標は敵陸上艦への強行偵察であり、出来れば脚部に損傷を与えたいとも考えている。サンド・ロワイヤルを襲う際に問題になるのは各地から集まった猛者達だが、それも試合後半であれば大多数が疲弊している。


「さて、出来れば温存したいんだがな」


『暴れ回ったお陰でこちらに手出しする機体は居ませんね、暫く待機しましょうか』


「ああ、そうす…」


大きな振動を機体が検知した。重い戦車砲を置いて30mm砲に持ち替え立ち上がるが、その正体は陸上艦ではなかった。


「我ら屑鉄三兄弟!スカベンジャー代表としてぇ!」


「ジェミニ、手前をぶっ殺す!」


『なんか来ましたね』


「只者じゃねぇぞ…よく見ろ!」


彼らの機体は同一機種の装甲で構成されておらず、正に有り合わせといった風貌だ。しかし機体各所に装備された追加装甲はその重量から錘としての機能を持ち、それによって総合的なバランスは大きく改善されている。


挿絵(By みてみん)


その中でも長男の機体は頭部を第二世代機の物に換装しており、彼らの持つ技術力の高さを示していた。


「テメェみたいに遠距離から撃つだけで勝てればよ、苦労ねえよなぁ!」


「このまま生かしておけば終盤困りそうな奴は!」


「万全な内に先んじて潰す!」


更に特筆すべきはその移動方法だ、彼らは改造したホバークラフトを脚部に装備していた。かなり無茶な改造に思えるが、地面を滑るように突撃してくる様は圧巻の一言だ。


「ホバーか…それなら急な方向転換は無理だろ」


「馬鹿がァ!」


「なんのために脚が生えてると思ってやがる!」


放った30mm砲弾は確実に命中する軌道に乗っていたが、敵機は地面を脚で蹴ることで急制動をかけて見せた。彼らのホバークラフトは謂わば靴のような形状をした追加装備であり、それを脱ぐことで脚部を使えるらしい。そんな曲芸をやってのける相手が3機、このまま近付かれると厄介だ。


「技術力が本物とはタチが悪いな。ミナミ、榴弾装填で信管は空中炸裂だ」


『エアバーストですか、お任せを』


「奴らの腕はこの大会でも上澄みと見た。ここで潰し合えばゲリラの一人勝ちだ、どうにか説得してみるさ」


中途半端に装填が行われた戦車砲を持ち直し、弾倉内のベルトを回して榴弾を選択する。そして信管を調整し、命中せずとも空中で爆発するよう変更した。


「避けてみやがれェ!」


「兄貴、奴ぁ戦車砲を…」


先頭の機体は蹴ることで左右に回避行動を行っていたが、数十メートルに渡る榴弾の加害範囲からは逃れられない。


「野朗、器用な真似を!」


「来るぞ弟」


被弾したものの、直撃なら兎も角多少の破片がぶつかったところで人型兵器は止まらない。しかし爆煙に紛れ、傭兵の機体は治安維持隊との模擬戦で使った鉈に持ち替えて敵へと突撃していた。


「こっちはホバーだぞ、この速度と重力の差に押し勝てると思うてかァ!」


「何がホバーだフラフラしやがって!」


屑鉄兄弟の一機も槍を抜いて近接戦の構えだが、既に近過ぎた。突き出された槍は振るわれた鉈に穂先を折られ、そのままの勢いで両機が衝突する。その瞬間に傭兵のトバリカスタムは装備していたロケットモーターを点火、使用制限こそあるものの人型兵器を宙に浮かせるほどの推力を解き放つ。


「ぶつかって来やがっ…押されるだと、このホバーカスタムが!?」


「クソっ離れろ!撃てねぇ!」


残りの二機は左右に回り込んで傭兵だけを撃とうとするが、彼らが持つ滑腔砲では兄弟を巻き込んでしまう。射撃は駄目だと判断したことで二機は槍を持って加速し始めたが、傭兵と衝突した機体から通信が入る。


「待ってくだせぇ兄貴、奴から通信が」


「撃ってきておいて何のつもりだと言いたいところだが…先に仕掛けたのは我ら屑鉄兄弟だ、聞くだけ聞いてやる」


双方がピタリと動きを止め、傭兵と長男の機体間で通信が繋がる。傭兵がこのような手段に出た理由はただ一つ、彼らを使えると思ったからだ。


「単刀直入に言おう、この大会はゲリラに襲撃される」


「そうかい、それで?」


「これが奴らの作戦計画だ、送信するぞ」


「兄貴、ウィルスかも…」


「問題ない、俺が隔離領域で開くからお前達は見張っとけ」


長男は傭兵から送られて来た情報を機体では開かず、別の端末に移してから表示させた。これは泥棒女が託した原本そのままであり、その内容に彼はコックピットの内壁を殴り付けた。


「…よく出来てるじゃねぇか、偽物とは思えねぇ」


「スカベンジャーに扮したゲリラが戦力の配置図を受け取っていた、それも送っておこうか」


「ゲリラのクソ野郎共がコソコソと俺達の真似をしてたのは知ってたが、潰したのはお前らか」


「これでも治安維持隊の紐付きでね、まあそういうことだ」


三機は兄弟間で話し合った後、ひとまずゲリラの襲撃に関しては信じることにしたようだ。しかし傭兵まで信用する道理はないため、ここでの戦闘は一旦切り上げて弾薬の温存を図るようだ。


「情報が嘘か本当かはこれから先嫌でも分かるだろうが、例え真実だったとしても貴様まで信用する気はない。精々生き残れ、囮が多い方が生き残れるだろうからな」


「へし折ってくれた槍の借りはいつか返すからなァ!」


「覚えてろ!」


彼らの機動力であればゲリラの機体が数で勝ったとしても上手く立ち回るだろう、襲撃が起きる前にアテになる戦力を知ることが出来たのは僥倖だ。


「…他の奴が来る前に105mm砲の再装填を済ませるぞ、どっと疲れた」


『どう転んでも死ななさそうな人達でしたね』


「協力出来れば心強いんだが、どうやって信用してもらうかだな」


試合会場全域を見渡せるようにと飛ばしていた傭兵のステルス偵察機は未だにゲリラの陸上艦を見つけられてはいない、奴らはいつ現れるのだろうか。

よく出て来る30mm砲はこんな感じの外観です。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


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