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第三十三話 真相

「防衛隊とゲリラがグルって、それは本当か」


「正確にはゲリラの一部がグルなのです、陸上艦はもう彼らの派閥に乗っ取られたも同然なんです…」


「もしかしてだが、お嬢ちゃんは追い出されたのか」


「その通りですよッ!」


やはり彼女はヤケクソである。陸上艦といえば大会開催直前に街へと強襲を仕掛けたゲリラの母艦だ、砂嵐の中に逃げられて以降UAVでも捉えられていない。


「防衛隊は一度壊滅して以降海賊に乗っ取られた統治機構によって再建されてます、でもその実態はただの私兵」


「防衛隊が治安維持隊と協力しないとかなんとか聞いたな」


「中央工廠が押さえられて以降は統治機構が第二世代機を増産してますが、治安維持隊には回さずにむしろ放棄を求めてます」


「そうだな」


「彼らの目的はおそらく既存の体制を破壊すること、そのためにゆっくりと戦力を削いで治安悪化にも拍車をかけてるんですヨ!」


気持ちは陰謀論でも聞いているようなものだが、いかんせん統治機構が怪し過ぎて本当の可能性があるのでタチが悪い。彼女の意見というより誰かの受け売りのような雰囲気もある、誰に吹き込まれたのだろうか。


「そんなことを言うから追い出されたんじゃ?」


「ええと、言ってたのは父さまなんですよ。逃げろって言ったっきり通信の一つもないし、着いてきてくれた人もどうなったかは教えてくれないんですけど…で、でもチップの中身は証拠になる筈です!」


「あぁー…」


ゲリラ内での内ゲバ、勢力争いの一環で彼女は追われたらしい。隊長達が居る控え室はお通夜もかくやという空気になっている、この場で一番可哀想なのは今の今まで町のために尽力していた彼らだろう。


記録媒体は既にミナミがコピーを取っている、解析を進めつつ彼女の話と照らし合わせて考えるべきだ。ヘルメット外に声が漏れないよう切り替え、ミナミとの通信を繋ぐ。


『解析進んだか?』


『このチップに収められていたのはサンド・ロワイヤルの襲撃計画ですね、陸上艦で突っ込んでくる気ですよ』


『少し前に無人機から引っこ抜いた奴は?』


『意味のよく分からないデータだったので様々なアプローチを試していたんですが、この情報で合点がいきました。これは戦力の配置図です、スカベンジャーに扮したゲリラが相当数潜んでますよ』


彼らは相当本気で大会を潰す気らしい、ここまでの戦力を動かされると流石の傭兵でも打ち負かすのは無理だ。


『さらに交易拠点の占領も第二段階として記載されてます、奴らこの街を落とすつもりですね』


『死ぬほど厄介だな』


話を聞いていたレンヤも気が気ではなさそうだが、そこは彼の相棒がフォローしてくれるだろう。今はただ話を聞くことに専念した方が良い、傭兵は通信を終えて彼女に向き直った。


「すみません、急に捲し立てちゃって…信じられませんよね」


「いや続けてくれ、こっちにも思い当たる節があるんだ」


「貴方が良いなら続けますけど」


何故こんな回りくどいやり方で統治機構は事を進めているのか、何故その統治機構と戦う筈のゲリラが乗っ取られつつあるのか、悩みは尽きない。


「助かる、それでだな」


『待ってください、倉庫の入り口に人が来てます』


『誰だ?』


『治安維持隊の隊員ですが、どうにも様子が』


ミナミは隊長と共に控え室で待機しているが、そこでは幾つかの監視カメラ映像を見ることが出来た。この倉庫には近寄らないよう指示があった筈だ、わざわざ一隊員が来る用は無いように思える。


「あー、もしかしてコイツは…」


『鞄から何か出し…機関銃です!伏せてください!』


「やっぱり口封じじゃねぇか!」


彼女を庇うように立つと、機関銃弾が横薙ぎに放たれた。レンヤ達は咄嗟に伏せたが、運良くコンテナが盾になってくれているようだ。しかし傭兵には都合の良い遮蔽物が無く、背中に数発の銃弾を受ける。


「うぐぉッ!?」


「えっ?」


「このまま離れるなよ!盾になってやれなくなる!」


ドアを蹴破って現れたのは治安維持隊の制服に身を包んだ男だったが、蹴破りつつも引き金は引いたままだ。下手に動けば情報源である少女を防弾服の影に収められない、傭兵は彼女を抱えたまま敵に背中を向けていた。


「教官が!」


『馬鹿っ、出ちゃダメ!』


「なんでだ!?」


『ミナミが動くなって言ってるし最悪貴方じゃ死ぬわ!防弾服なんて着てないのよ!』


流石の防弾装備も機関銃に撃たれ続ければいつか破れる、無敵の鎧ではない。しかし動けば誰かが撃ち殺されるのもまた事実だ。


「少し動くぞ、いけるか」


「ボクは動けるけど、でも貴方は」


「黙って腕に力入れろ!」


パワーアシスト機能を使い、床にヒビが入る勢いで飛び上がる。倉庫の天井はそれなりに高く棚は上まで続いているため遮蔽物にもなる、機関銃は傭兵を捉えられなくなった。


「跳んだ!?」


「喋んな舌噛むぞ!」


懐から取り出したレバーアクションライフルは倉庫内に置かれたコンテナの合間を通り抜け、空中での発砲であったのにも関わらず脳天に直撃した。そのまま着地しようとしたものの、背骨に沿うように配置された伝達ケーブルが切れた。


「不味い、服が壊れた」


「えっ」


「すまん、頑張って耐えてくれ」


せめて衝撃を和らげられるよう下になった傭兵だったが、パワードスーツとしての機能も持つ防弾装備が壊れた事で下半身を動かせなくなっていた。彼女を抱き抱えたまま落下し、コンクリートの床に激突する。


「…痛てぇなぁ、背中周りの緩衝材も根こそぎ吹っ飛ばされたか」


「すぐに手当するから!これどうやって脱がせばいいの?!」


「揺らすな揺らすな、身体はなんともないから」


「あんなに撃たれて大丈夫なわけないでしょ!ボクだってど素人じゃないんだからそれくらい分かるって!」


彼女は喚きながら脱がそうと弄り回すが、そんなことで脱げる代物ではない。別室から駆けつけて来た隊長達とミナミが男の死体と倉庫の惨状を見てこちらに駆け寄るが、それを見た少女は更に混乱した。


「ミナミ、傭兵の様子を見てくれ。衛生兵!衛生兵は居るか!」


「直ちに!」


『骨折はしてないみたいですね、医務室まで引き摺っていきましょう』


「担架を持って来させるから待ってろ、このイかれた野朗も運ぶ必要がある。身体を調べろ、何か仕込んであるかもしれない」


いきなり湧いて出た沢山の人々、地面に広がる血溜まり、撃たれた挙句多くの人に囲まれて運ばれていく傭兵。少女の許容出来る情報量を超したのか、彼女はその場で気絶した。


『うわっ、危ないわね…』


「カナミ、ナイスキャッチ」


『この子も医務室に運んだ方がいいかしら、ここに置いておく訳にもいかないわよね』


サンド・ロワイヤルの襲撃計画に陸上艦から追い出された少女、更には基地の中にまで入り込んでくる暗殺者…本当に暇な日がない。


「ミナミ、服の替えってあるっけ?」


「そんなことを気にしている場合か!気をしっかり持て!」


『いや大丈夫ですってこの人、頑丈ですから』


隊長とミナミの二人に担架で運ばれながら、傭兵は流石に危なかったなと自戒した。相手も中々手段を選んではいないようだ、少々首を突っ込み過ぎたかもしれない。

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