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第二十九話 UAV

「不味いな…武器に弾を込めろ、突撃するぞ」


「何故ですか教官」


「UAVだ、増設したセンサが捉えたがもう数分でこの上を通る」


空から発見されるよりも前に敵陣に辿り着く、これならばアドバンテージを失うことなく打撃を与えられる。問題はカザマキの位置が露見するということだ、何かあっては大問題になる。


「傭兵殿、それは本当か」


「4時の方向だ、気になるなら後で探してくれ。それと悪いが位置がバレる以上、カザマキはその場から離れてもらう」


「離れた後は?」


「今俺達が居る場所まで前進、かなり近くはなるが支援を頼む」


「その距離なら細かな調整は必要ないな、すぐに撃ち始められる筈だ」


「頼んだ、さあ無人機に見つかる前に奴らをぶん殴るぞ!」


斜面を登って前へと走り出し、頭部のセンサーでこちらを見ている敵機が居ないかどうかを常に監視する。隣にはレンヤ、背後にはカザマキ嬢が居るのだ、何かあれば敵の注意を真っ先に引かなければならない。


『UAVの高度から見てあと30秒でカメラに後方のカザマキさんが映ります、覚悟のほどは?』


「勿論出来てる、まあ庇って死ぬ気も相打ちになる気もないがね」


『となると』


「全員はっ倒す、このメンバーなら出来る出来る」


強化された脚部は不整地であっても十分な速力を発揮し、後続を引き離す勢いで加速する。手に持ったライフルには徹甲弾が装填され、すぐにでも発砲可能な状態で手の中に収まっている。


「先鋒はこっちでやる、レンヤは後から飛び込んで来い!」


「は、はい!」


『流石に振動で勘付かれましたね、人型が動き始めましたよ』


「この距離まで来れば問題ない、走ってても当たるさ」


立ち上がったスカベンジャーの人型兵器は周囲を警戒するために基地の外へと歩き出し、数歩進んだ先で爆散した。30mm砲の直撃に作業用が耐えられる筈もなく、上半身が燃料の誘爆によって空に飛翔している。


「一機撃破、残りは?」


『人型兵器が残り二機、装甲車が一両です』


「略奪者相手だと人間相手にも発砲許可が降りてて楽でいい、悪いが将来有望な新人のために消えてもらうとするか」


スカベンジャー達は天幕を張って強い日差しから身を守っていたらしく、日陰に光学センサを向ければ狼狽える彼らの姿を見ることが出来た。


「頭部同軸って何mmだ?」


『12.7mmです』


「じゃあギリギリ人道的だな」


周囲が混乱する中で対戦車ロケットを構える者も居る、中々の手練れを放っておくと後が怖い。頭部に装備した機関砲を薙ぎ払うように放つと当たった者の四肢が宙を舞い、天幕に血が張り付いた。


動き出そうとしていた装甲車にも30mmを撃ち放ち、装甲の薄い側面に何発か叩き込む。そうすれば残りは人型兵器だけだ、適度に働いて二人に撃墜数を伸ばしてもらおう。


『人型来ます、どうします?』


「それなら大丈夫だ」


武器を構えて応戦しようとしたスカベンジャーの人型兵器だったが、レンヤの砲火がマニピュレーターを粉砕した。制御を失ったライフルが周囲に構わず弾をばら撒いたことでパイロットは狼狽え、その瞬間に今度はカザマキの40mm砲弾がコックピットを直撃した。


「…協働撃破だな」


「ええ、やっぱり良い腕してますよカザマキさん!」


「ふふふ、もっと褒めたまえ」


最後の一機は反撃しようとするが、いつのまにか懐に入り込んでいた傭兵のトバリカスタムに蹴飛ばされる。機体の膂力に物を言わせた多少雑な蹴りだが、第一世代の不器用さを鑑みるにこの方が似合っているとも言えた。


「レンヤ!」


「はいッ!」 


転んだ背中に砲弾を叩き込めば燃料に引火し、すぐさま爆発した。作業用に射出座席などある筈もなく、パイロットは機体と運命を共にしたようだ。


「…さてと、UAVは?」


『まだ捕まえられます、操作するための機材を確保しましょう』


「じゃあ白兵戦だな、周囲の警戒を頼むぞ」


「僕らも降ります!」


「防弾装備が無い奴が無理すんな、こういうことは雇われに任せて援護を頼む」


機体はミナミに任せ、以前輸送船の探索を行った際に購入していたライフルを手にハッチを開けて降機用のワイヤーを伝って地面に降りる。レンヤの機体は股間部に機関銃を搭載しており、援護は十分に出来るだろう。


「治安維持隊のお出ましだぞー、降伏するならサッサと手を上げなー」


「死ねクソ傭兵!」


「清々しいなオイ」


精密機械用のコンテナを盾にしていたスカベンジャーが拳銃を手に飛び出したが、撃つ前に五発ほど撃ち込まれて仰向けに倒れた。他にも数人が立ち上がったが、その度に撃ち倒された。


「さて、このPCか?」


『繋げて下さい、乗っ取ります』


「頼む」


かなり古い規格のコネクタだったが、今でも信頼性の高さ故に使われているタイプのためにそのまま刺せた。そうすると世代からして違うAIとそれを収めるコンピュータの性能に敵うわけがなく、上空を飛び去ろうとしていたUAVは高度を下げ始めた。


『このまま着陸させますね』


『こんなにあっさり、器用ね…』


『後でやり方教えますよ、丁度いい教材もありますし』


『あ…ありがと』


傭兵はヘッドセットから聞こえてくるアンドロイド同士の会話を聴きつつ、粗悪な滑走路に降りてくるUAVを見た。塗装も禿げ外装もガタガタの有様だが、着陸脚を展開しているあたり内部はわりかしマトモに動いているらしい。


「オーライオーライ、そのまま減速ゥー」


『…あー、駆動系が幾らか死んでますね。減速できないのでそのまま突っ込みますよ』


「早く言えよ馬鹿ァ!!」


前言撤回、UAVは中身まで駄目らしい。血だらけの天幕に突っ込んだそれは内臓やら布の切れ端やらをその機体に巻き込み、さながら凄惨な事故現場とでも言ったような状況になってしまった。


「…おい、これ誰が触るんだよ」


『お願いしまーす』


「ハイハイ、分かりましたよーっと」


翼にはミサイルを搭載するためのハードポイントが設けられているが、すべて空だ。特に何か物を運んでいるというわけでもなく、攻撃のために飛び立ったわけでもない。


「なあ、飛行ルート出せるか」


『これのはずですが、どうにも直線的ですね』


「そうだな、ここに来るためだけに飛んできたような…」


この状況はさておき、彼らは当初の目的であったスカベンジャーの掃討を成功させた。人型兵器の撃破数は各々一機になり、ある意味理想的な終わり方だった。


「内部データはコピー取っとけ、解析自体は後でいい」


『分かりました、やはり厄介ごとですかね?』


「隊長は分かって巻き込んだのか、はたまた予期せぬ偶然か…なんにせよやれることをやるだけだ」


今は依頼の達成を祝うとしよう、この星を取り巻く複雑怪奇な事情を紐解くのはまだ後でも構わない。

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