第二十八話 偵察
「…エアコンを新品に換えてくれたトバリに感謝だな、快適快適」
『冷却系統の刷新のついでらしいですが、これで私も少しは本気を出せるというものです』
「ああ、処理装置の冷却か」
大量に調達した爆発反応装甲を要所要所に貼り付けた上で砂漠仕様の迷彩を施し、演習で付着したペイント弾の塗料を綺麗さっぱり落としたのは実戦仕様のトバリカスタムだ。使い捨ての跳躍用ロケットモーターも装備され、第一世代機の範疇から外れた動きも可能という化け物っぷりは頼りになる。
「センサ周りに熱が籠るかと思ったが、案外上手く回ってるな」
「教官、先行したUAVからの情報が来てます」
「ああ分かった。それとアレだ、教官じゃあなくて傭兵でいいぞ」
「いえ、教官は教官です」
人型兵器三機と軽装甲車一両で構成された治安維持隊の小隊は街から離れ、無人機が見つけたというスカベンジャーの根城へと向かっていた。比較的小規模な部隊だが既に二つの隊商を襲っており、危険度は高い。
「お二人とも元気で何よりだ、準備は良いようだな」
「前衛は任せろ、そっちの狙撃の腕は信用させてもらうさ」
「このカザマキ、傭兵殿の信頼を裏切りはしない!」
自慢げな彼女と教え子の青年、信用出来るという点では非常に良い部隊だろう。装甲車にて随伴してくれている者達も隊長の息がかかった人物だ、大きな問題にはならないだろう。
『UAVからの情報出します、まあ私達の無人機が索敵済みなんですが』
「何か分かったか?」
『敵の数は事前情報と同じ3機、地形に多少の高低差はありますが人型であれば許容範囲ですね』
「こちらも同じ第一世代機である以上油断は出来ない、狙撃で一機潰したい所だな」
これからの付き合いもあるので人死を出してはいけない、被害を出さずに終わらせなければならないだろう。色々と目立っているのだ、それ相応の働きを見せて黙らせなければ。
「装甲の分厚い自分が先頭に立って突撃する、装甲車とカザマキは射線の通るポイントに移動して欲しい。レンヤはついて来てくれ」
「了解です!」
爆発反応装甲を信じよう、コックピット周りには複合装甲まで移植してあるのでそう簡単には抜かれない筈だ。治安維持隊の機体は塗装故に砂漠で目立つ、ここは囮が必要だろう。
「私の狙撃で先制を決め、その瞬間に突っ込むという算段か」
「人型の装甲はそう分厚くない、余程の角度じゃなければ正面からでも貫通出来るだろう」
「任せてくれたまえ!」
カザマキの機体を後方に残し、前衛を務める二機が前進する。砂漠という開けた環境だ、発見されるのは時間の問題だろう。何処かに見張りが居る筈だ、待ち伏せには警戒して進む必要がある。
『…悪いニュースです、目標地点に動きあり』
「もう発見されたのか」
『それがどうも違うようです。このタイミングで何かと通信を行い始めたらしく、周囲を警戒し始めました』
「通信先の特定と通信内容の解析頼む、目標のスカベンジャーが何をしているのかは把握したい」
『了解です』
やはり無人機が常に周辺の監視を行えるというのは大きなアドバンテージだ、数機の機体を用いてローテーションを組んでいるため隙は無い。撃ち落とされる危険性もあるにはあるが、不意打ちや待ち伏せを潰せるのはそれ以上の価値がある。
「カザマキ、見えるか?」
「この距離だと最大望遠でも米粒だ、すまないがもう少しかかる!」
「了解、俺達は少し先で待機だな」
専用のセンサーとソフトがあれば多少の距離など大きな問題にはならないが、装備に大きな制限がかかる上に精密機器も砂で壊れやすいという条件が大きな枷になっているようだ。
「ここに一度隠れるぞ、目標側から見て砂山の陰になる筈だ」
「分かりまし…うわっ!」
斜面を器用に滑り降りる傭兵とは対照的に、レンヤの機体は尻餅をついて体勢を崩しながら降りて来た。傭兵の意向によって操縦の自由度を非常に高く設定してあるため、こういった事故も起きる。
「無事か?」
「は、はい、問題ありません」
「慣れるまでの辛抱だ、今のうちに失敗しておけ」
専属のアンドロイドが居るのだ、些細な問題は最適化によって無くなっていくだろう。彼の相棒であるカナミの操縦支援ソフトウェアもミナミが戦闘向けに書き換えてある、既に充分動けているので然程大きな問題にはならないとは考えている。
「さて、暫く待機だな。機体の状態を確認しておくといい」
「分かりました、しばし機外作業に当たります!」
『では今のうちに報告を、通信先を突き止めましたよ』
「流石ミナミ、優秀だな」
視界に表示されたのは方角、距離、移動速度等であり、飛行中の無人機に関する情報だった。
「…奴らもUAVの誘導をやってるのか」
『敵地をよく見るとアンテナや滑走路に使えるような縦長のスペース、不自然に一台だけ荷台が空の輸送トラックなんてものもあります。恐らく着陸させる気かと』
「ええと、到着まであと何分だ?」
「5分ですね、かなり速度を出しているようなので」
「カザマキ、あと何分かかる?」
「そうだな…調整合わせて5分というところか」
このままでは突入よりも早く頭上をUAVが通ることになり、幾ら影になっているとは言っても上空から見られては青色の人型兵器は目立ちすぎる。ただ待機するのは悪手だ、何か手を打たなければ。
「ミナミ、この機体のセンサーで敵UAVを捉えられるか」
『それで動く口実を作るというわけですね、機器はお任せください』
「前と同じタダの略奪集団かと思えば、何か知らんが企んでやがるな…」
人型兵器を倒してハイ終わり、というわけにはいかなさそうだ。今回持って来た30mmは近接戦用の短砲身を選択しており対空戦には向かない、撃ち落とすのは難しそうだ。
「さて、やるだけやるぞ」




