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第二十七話 天賦の才

隊長からの依頼で部隊を組むのはレンヤの一機だけではなく、見慣れた顔が参加することになっていた。顔合わせに現れた彼女は大きく胸を張り、ハンガーに駐機された機体を指差した。


「後方支援は任せてくれ、これでも射手の中では優秀な方だと自負している」


「カザマキが参加してくれるのか、そりゃあ心強いぜ」


「ふふ、傭兵殿との共同戦線とは胸が躍るな」


彼女の乗機には連射機構を取り外された40mm砲が装備されていたが、精密な狙撃をするには少し頼りないセンサが気になった。


「レンヤ、さっきの話は本当なのか?」


「カザマキ操縦士の腕は確かです…落ち着いていれば、ですが」


「フォローし合えば大丈夫だと思いたいな」


依頼内容を知らされてから数日、レンヤ青年は脳波制御に対してあっという間に慣れた。天性の物があると言っていいだろう、アンドロイドの補助があって初めて開花出来た才能だ。


「まあそれはそれとして…模擬戦は予定通りに始めるぞ、準備は?」


「終わっています!」


「よし、やるぞ」


燃料電池が稼働を始め、冷却装置の駆動音が格納庫に響く。整備士達が道を開け、人工筋肉に電気信号が流れる。二機の人型兵器がハンガーを離れ、ペイント弾の装填された機関砲を手に取った。


『機体の脳波制御パターン、ここまで早く構築が終わるとは思いませんでした』


「アイツは天才だな、こんな星で見つけるとは思わなかったが」


考えた通りに動く機体というのは慣れが必要だ、特に手動での操縦からの移行となると習熟期間は長くなる。だが彼は数日で自らの身体と同じように機体を動かして見せ、第一世代機が苦手とした筈の格闘戦すらやってのけた。


「さて…負けてやる訳にはいかない、やれるな?」


『えぇ、年長者として相応の威厳を見せましょうか』


「歳の話はやめようぜ、もう数えるのはやめたんだ」


開始位置に着いた頃に一発の信号弾が打ち上げられた、開始の合図だ、相手は恐らく突っ込んでくる、何故なら彼は彼我の実力差を理解しているからだ。


「さて、どこまでやるか…」


ーーー

ーー


『本当に全速力で突っ込む気!?』


「経験が違い過ぎるんだ。時間が経てば経つほど離されるのは今までの模擬戦で分かってる、速攻で仕掛けるしかない!」


『ああもうっ!』


第二世代機の頭部は優秀だ、特に大口径の光学センサは遠距離の敵をあっという間に見つけ出せる。カナミのAIで得られた情報を処理することで、人間では不可能な速度での索敵を可能にする。


『居るわよ、敵機正面!』


「読まれてた!」


『でしょうね、分かっていたようなものじゃない』


傭兵の駆る改造機だが、搭載している光学センサの性能では劣っている。しかし戦闘車両から移植したセンサ類と索敵用のレーダーはその差を埋めることが出来た。


「最寄りの障害物にまで走る、動きを見張ってくれ!」


『相手はもう射撃姿勢、撃つ気に決まってる!』


「牽制射行くぞ!」


『トリガーだけ引きなさい、火器管制はこっちで持つから』


走ることに集中しろということだ、細かいことは彼女が受け持つ。放たれた砲弾は走行中ということもあり精度は見込めなかったが、それでも散布界に相手を収めた。


『回避されたわ、流石ね』


「問題ない、十分近付けた!」


『じゃ、本命行くわよ!』


手頃な遮蔽物に滑り込み、半ば仰向けになることで姿勢を低くしつつ安定した射撃姿勢を構築した。生身での訓練で何度か行った特殊な構え方だ、手動操作ではこんなパターンを組み込めない。


「当たった!」


『正面装甲に二発、20mmだったら無効判定よ』


「照準用のレーザーから狙った場所を割り出してるんだ、だから直前に身を捩って装甲が厚い胸部に当てた」


反撃が遮蔽物に当たり、ペイント弾の塗料が飛散する。次頭を出せば即座に撃ち抜かれるだろう、しかし下手な逃げ方をすればその隙を狙われるのは間違いない。


『胸部の裏は操縦席と燃料電池が入ってるのよ、分かってても当てさせるにはクソ度胸が必要ね』


「見習わなきゃいけない、強くなるために!」


機体を横に転がし、少しだけ距離を稼いでから武器を向ける。当てることは考えず、相手を遮蔽の裏へ押し込むことを考えた攻撃だ。


「…居ない?」


『回り込まれてる、10時の方向!』


「分かった!」


しかし相手の方が早かった、ペイント弾は容赦なく飛来する。機体側面に数発被弾するも、左腕で頭部を庇う。


『左腕に被弾、多分機能停止判定ね』


「これくらいなら大丈夫」


銃を持つ右腕が無事なら戦える、それに片腕以外は無事なのだ。機体を立ち上がらせ、双方は動きながらでの射撃戦へと突入する。互いに距離を詰めたことで交戦距離は近く、火器を外せる距離には無い。


「撃てェッ!」


『アンタは頑張って避けなさいよ!?』


「分かってる、分かってる!」


使えなくなった左腕を盾にしつつ、動きながら引き金を引く。双方がアンドロイドを搭載しているということもあり精度は高く、機体には次々と粘度の高い塗料が張り付いていく。


『背部に被弾!多分燃料タンク!』


「サブタンクに流路変更、まだやれる!」


被弾に応じてスイッチを弾き、機体の冗長性を最大限に利用する。もしエンジンが吹っ飛ばされても人工筋肉は電気で動く、バッテリーが生きている間は動作を継続可能だ。


「向こうには避けられて、その上当てられてる…やっぱり差が出るか」


『肩部被弾!ああもう!』


「照準は光学だけに切り替え、精度は犠牲にする!」


『分かったわよ、でも向こうだってそれくらい想定してる筈』


「やらないよりマシだ」


一気に踏み込み、前へと跳ぶ。第一世代機の脚力と重量では跳躍という動作自体が難しいが、天才的な操縦センスがそれを可能とした。しかし全ての砲弾を避けきることは難しく、青色に塗装された機体の頭部にペイント弾がへばりつく。


『頭部損傷、サブに切り替え…』


「ガンカメラをモニタに回してくれ!」


『やったわよ!』


向けられたカメラの先には砂漠用の迷彩に身を包む傭兵の機体があり、確実に砲の射角に収まっていた。既に被害は甚大、決めるなら今この瞬間しかない。


「当たる」


『えっ』


双方が放ったペイント弾が交差し、機体に彩度の高い塗料がへばり付く。レンヤとカナミの機体はコックピット周辺に有効打が三発、言うまでもなく撃墜判定だ。


「…やられたな、中々やる」


「教官!」


「初手の小細工を見抜いたのは流石だな、もう少し決断が早ければ別の手を試していたところだ」


傭兵のトバリカスタムは片腕を損傷しており、ラッキーパンチを喰らわないように重要な部位を庇っていたことが被弾痕から分かる。しかし演習のために追加装甲を外して来ているため、フル装備では話は変わってくるだろう。


「脳波制御はほぼ完璧と言っていい、次は実戦だな」


「では、まさか」


「スカベンジャーの掃討に行くぞ、免許皆伝だな」


そう言いつつ傭兵の機体は手を差し出し、人が握手をするようにマニピュレーターを広げて見せた。それを見た彼は同じように腕を動かし、双方の機体を痛めない範囲で握手を実行した。


『かなり高度な操作をしてますね、貴女も補助が大変でしょうに』


『あんなの指痛めるだけよ』


『分かってないですねぇ…男には要るんですよ、ああいうの』


アンドロイド達のボヤキはパイロット二人に伝わることなく、小規模な模擬戦は終わりを告げた。観戦していた者達は人型兵器の動きではないと驚愕することになったが、一部の者はそれを周りとは違った目で睨み付けていた。

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