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第二十一話 商人


「えぇ〜っ!売っちゃうんですかぁ!?」


「だってほら、俺達じゃ運用出来ないだろ」


「それは…そうですけど…」


街の外まで多脚車両で迎えに来てくれたトバリだったが、傭兵のある一言によって取り乱していた。


「第二世代機があれば大会での優勝が一気に近付きます!」


「パーツの規格も違う、よく分からん機能が無理矢理載せられてる上に統治機構の船からかっぱらってる」


『大会運営から盗んだ機体で出場したら出禁になりそうですよね』


「うっ…」


第二世代機である以上トバリカスタムよりも余程高い性能を持っているのは事実だが、それ相応に複雑かつ高度な整備が必要だ。第一世代機しかないこの町では使えない、何か一つでも壊れたら替えはないのだ。


「じゃあせめて装甲を剥ぎます」


「待て待て待て!」


『もっと良い活用方法ありますから!』


ーーー

ーー


「…で、これを持ち帰って来た訳か」


「俺もびっくりだけどな」


格納庫の人集りは墜落船から引っ張り出して来た人型兵器を中心に形成されており、整備士達が久し振りに見る第二世代に目を輝かせていた。


「私はあくまでパイロットだ。あの手の機体には詳しくないのだが、傭兵から見てどうなんだ?」


「統治機構が協商連合系の機体に手を加えて作った試作品ってところだな、宇宙船用の慣性制御機関を積んでる化け物だ」


「…船の装備を人型に?」


「だよな、それが正常な反応だよ」


核融合炉が載っているような機体なら話は別なのだが、動力源を燃料電池に頼っている以上無理は来る。現在最新鋭の機体である第四世代機はその程度のこと簡単にやってのけるが、第二世代相当の技術で実現させるのは不可能だ。


「拾い物は拾い主の物になるんだが、お前はどうするつもりだ」


「使い道が無いし部品も無い、誰かに売るさ」


「あの船に予備があるかもしれんが…スカベンジャーが殺気立ってるからな、回収は無理か」


廃品回収は出来なかったが、売れそうな機体が手に入ったのは良かった。この機体を売り払えば強化用の部品程度なら調達出来るだろう。


「はぁ…買取先を見つける必要があるなぁ…」


こんな物を買い取ってくれる人間はいるのだろうか、相場を見るとそこらの商人では払うのに躊躇する金額だ。中身はコピーはまだ解析中だが碌な情報がなく、これ以上のことを調べるためにはもう一度墜落船を漁る必要がありそうだ。


「お困りかい、傭兵殿」


「…カザマキ?」


「見たことのない機体を持ち込んだな、あの人型兵器離れした体躯には心底驚いた」


離れもなにも人型を模しているから人型兵器であって、運び込んだ試作機の方が人間に近い形だろうがと傭兵は突っ込みかけたが、この街の人々は第一世代しか運用していないのを思い出した。


「拾ったはいいが使い道が無くてな、困ってるんだ」


「あのお宝を!?…手元に置きたいとは思わないのか?」


「大会目前だろ、軍資金が欲しいのさ」


「なるほどなるほど、では少し待っていてくれ」


彼女はそう言うとご機嫌なステップを踏みながらこの場を後にした。ポカンとする傭兵だったが、彼の肩を隊長が笑いながら叩いた。


「良かったな、買い手が見つかったぞ」


「まさか…実家に連絡しに行ったのか?」


「影響力のある一家と言っただろう、交易拠点でもある我が街でそこまで上り詰められる職業とまで教えれば予想は付くか」


「かなりの規模の商人って訳か、だから傭兵とのコネも欲しがった」


「…それは初耳だ、そこまで手を回していたとすると大会後は商会に引き込むつもりだな」


流石は商人の娘、何故治安維持隊に所属しているのかは知らないが抜け目が無い。隊長や整備士達からの反応を見るに好かれているようだが、どのような経緯があったのだろうか。


「しかし傭兵、売ることは専属の整備士と話したのか」


「少し触った後に自分じゃ手がつけられないって言ってね、売ることに同意してくれたよ」


「部品取りに使うよりも売った方が高く値がつくか、普通なら拗れそうなものだが上手くやれているらしいな」


「一蓮托生だからな」


ヘルメットの望遠機能で話に出たトバリの方を見ると、他の整備士に詰め寄られて機体に関しての話をしているようだ。まあ危険なほどでは無さそうだが、後で飲み物を持って労いに行こう。


「傭兵殿ー!すまないがこちらまで来てくれ!」


「行ってくる、色々と助かった」


「あの船データを丸ごと貰った上にスカベンジャーの過激派を掃除してくれたんだ、こちらが礼を言いたいくらいだから気にするな。気になることは多々あるが…調べるのはこれからだな」


傭兵は隊長を置いて先に進むと、彼から見ると非常にレトロな有線電話がある場所に彼女は居た。受話器を顔に当て何か話し、そのあとで更に近くへと寄るようジェスチャーで促す。


「実家中で買い手になりそうな者と繋いだ、話してみてくれ」


「早いな、えぇとこう使えばいいのか」


カザマキの真似をして受話器をヘルメットに当て、代わったことを見えない相手に伝える。


「君が件の傭兵かい?」


「ああ、売りたい機体がある」


「その手の話は大歓迎だ。妹からある程度の話は聞かせてもらったよ、格納庫近くの喫茶店で商談といかないか」


「分かった、時間はどうする?」


「丁度今日は空いていてね、店には話を通しておくから合言葉を言って2階の個室を使わせてもらうといい。電話口で言葉を伝えるのは憚られる、申し訳ないがそこの妹に聞いてくれたまえ」


そう聞いて隣を見ると、上を向いて何かを思い出そうとするカザマキ嬢の姿があった。彼女が思い出せることを祈りつつ、礼を言って電話を切った。


「で、合言葉ってのは?」


「確か…帝国の記念硬貨を見せに来た、とカウンターで言えば良いはずだ」


「記念硬貨か、昔買ったアルファ・ケンタウリ戦役の戦勝記念コインは何処にやったかな」


昔の思い出に浸りつつ、ミナミとトバリに声をかけて喫茶店へと向かう。既に交渉に必要な情報もある程度集まっている、使い道の無いじゃじゃ馬を大金に変えるとしよう。


ちなみに傭兵が買ったコインは生産数の少なさと当時では珍しい加工法が要因になり何十倍にも高騰しているのだが、そのことをコレクターでもない彼が知るのはかなり後のことだ。

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