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第十八話 延期

「お疲れ様だ、コレ飲むか?」


「頂きま…見たことない飲み物ですね」


「こっそり飲めよ、この星じゃ多分手に入らない」


「うぇっ!?」


傭兵が整備を終えたトバリに手渡したのは、四角い飲料パックだ。それなりに良い代物で、大規模な農業コロニーで収穫された果実を使用しているという売り文句だ。


「海賊から助けてやった商船がお礼にくれたのさ、一人じゃ飲みきれないんで持って来た」


「とっても美味しい…と思います、ちょっとよく分かんなくて」


砂漠の星でどうやって食料を大量に作るかと言うと、培養やら合成やらに頼るしかない。というか農地に種を植えてそれを育てて収穫するというやり方も未だ行われているが、それ以上に別のやり方が宇宙進出によって発達した。

その結果見た目は兎も角味はそれっぽい合成食品が植民星の食料事情を担うことになり、この星では果実を贅沢に使ったジュースなど未知の飲み物なのだ。


「ありがとうございます、こんなの飲んだことないです」


「そりゃ良かった、また持ってくるよ」


「その時は…またこっそり飲みましょうね」


「だな!」


倉庫の屋上には他に人は居ない、自販機も座るところも無いので休憩には適さないのだろうか。


「整備士の方から聞いたんですけど、大会は延期されるそうです」


「まあ開催地をゲリラに荒らされた訳だからな、そうもなるか」


「あの後陸上艦は砂嵐の中に隠れたらしく、何処にいるか見当もつかない状況だとも言ってました」


「…いつ戻って来るか分からないか、警戒しないとな」


ステルス無人機は複数機でローテーションを組ませ、街の周囲を見張らせている。今のところ怪しいものは見つかっていないが、砂嵐ともあれば話は別だ。大気圏内用のドローンでは墜落するだろう、どうしたものかと傭兵は唸った。


「延期と言っても被害を受けた大会参加者の中で出場を希望する人達に聞き込みをして、立て直しに必要だと思われる三ヶ月の準備期間を設ける…とのことです」


「なんだメモって来たのか、後で俺にも見せてくれ」


「分かりました、ミナミちゃんにも教えないとですよね」


予期せぬ延長だが、この時間は有効に使うべきだ。特に治安維持隊からの協力を得られた以上、満足して戦えるだけの土俵には立てた。次はより有利になれるよう、更に準備を行う必要があるだろう。


「この三ヶ月をどう使うかだな。機体の訓練は兎も角、パワーアップってのは無理そうか?」


「改造に使う部品まで融通して貰う訳には…別途用意する必要があると思います」


「部品探しか、それだな」


第一世代はお世辞にも戦闘向きの機体とは言えない、OSの書き換えとアンドロイドであるミナミの補助があって初めてマトモに動かせると言ってもいい。それに作業用なのでセンサも弱い、どうにかしたいところだ。


「実は幾つか残骸を見つけたんだ、それを漁りに行きたい」


「うーん、街の周りとなるとスカベンジャーの人達とぶつかりそうですけど」


UAVを使って残骸を幾つか発見しているが、どうにもただ拾いに行けば良いというわけでも無さそうだ。傭兵は知らない単語に首を傾げ、彼女に聞き返した。


「スカベンジャー?」


「残骸から使える物を回収してくれる人達なんですけど、場合によっては漁るために相手を残骸にすることもあります」


物騒な相手だ、この街の治安維持隊がそれなりの規模を維持せざるを得ない理由が分かった気がする。


「でも傭兵さんなら大丈夫かもしれませんね、人型を出しますか?」


「ああ、トバリカスタムを頼むぜ」


「嬉しくはあるんですけど、そんな名前でいいんですか…?」


こうして次の行動が決まった。スカベンジャーという存在に疎い傭兵は、取り敢えず他の人にも意見を聞いてみることにしたようだ。


「街の近くの勢力について知るのであれば、地理的に接触する機会が多い治安維持隊に教えてもらうのがベターってとこか」


「それが良さそうですね、隊長さんに聞いてみては?」


この手の話には経験豊富そうな隊長が適任だろう、格納庫の売店で調達したコーヒーのようなものを渡してアドバイスを頼むことにした。


トバリと分かれてエレベーターに乗り込み、隊長がよく居る格納庫の上層へと向かう。すると案の定ハンガーを見下ろす彼がおり、傭兵はカップを手に駆け寄った。


「隊長、スカベンジャーについて聞きたい」


「なんだ急に。飲み物を貰った以上答えるが、こっちとしては聞く理由が知りたい」


「機体を改造するためのパーツ探しをしたいんだが、残骸を漁る時に面倒を避けたくて情報を集めてる」


「なるほど…まあ奴らは総じて縄張り意識が強く排他的だ、何処を漁りに行くのかは知らんが遭遇すれば戦闘に発展するだろうな」


やはり危険な集団らしい、情報収集を優先したのは間違っていなかったなと傭兵は確信した。


「だがまあ運がいいな、奴らは久しぶりに見つかった墜落船の残骸を奪い合っている最中だから襲われ難いぞ」


「墜落船?」


「ああ昔墜とされた防衛隊の所属船じゃない、現統治機構の大気圏内輸送船って話だ」


相手が勝手に勘違いをしてくれたお陰でより詳しいことが分かった。宇宙船は悉く潰されたと思っていたが、逆に宇宙船以外の船は案外残っているらしい。


「重力制御機関で空に浮くタイプの船か」


「よく知ってるな、中身が何かは知らないが誰が発掘するかで揉めてるらしい」


「治安維持隊は介入しないのか、政府の船だろ?」


「それについてだが…俺達に出動は命じられてない、報告しても触るなの一点張りだ」


どうにも怪しい、海賊に乗っ取られた統治機構とやらは何をしているのだろうか。墜落した船には彼らに見られたくないものでも入っているのだろうか、俄然気になって来た。


「…じゃあ俺が中身を確認してこっそり隊長に教える分には問題ないわけか、俺はタダの傭兵だしな」


「危険だぞ」


「統治機構の噂は聞いてるさ、そっちとしては触るなと言われるような中身が気にならないのか?」


統治機構への不信感というのは根強いのだろう、彼は手を額に当てて考え始めた。そして傭兵と目を合わせ、ポケットから通信機を取り出した。


「行ってくれるならこちらも裏で手を貸せる、統治機構の肩を持つ奴はこの基地に居ない」


「助かる!」


「部隊直通の通信機を渡しておく、無くすなよ」


隊長に話をつけてもらい、治安維持隊の一部を抱き込んだ墜落船偵察が始まった。機体を強化するための部品集めをするだけの筈なのにいつの間にか話が大きくなっていたが、傭兵は存外にも楽しそうにしていた。

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