第十三話 戦技交流
治安維持隊は予定通り有力な遮蔽物を抑え、傭兵の駆る七番機を集中砲火にて仕留めるつもりだった。しかしその通りには行かず、無線では連携を取る前に交戦が始まってしまっている様子が窺える。
「交戦中なのか?」
「各機体の開始地点は離れている筈です、ここまで接近されるとは思えませんでしたが」
「…こちらが遮蔽を取るのを見越して、その隙を使い一気に移動したのか」
だがそれだけでは説明が出来ないほどの移動速度だ、どんなカラクリを使ったのか見当もつかない。
「3番機が交戦中です、加勢しますか」
「混戦になるリスクは避けたい、このまま残存機で遮蔽を確保しつつ火力を纏めて指向する。三番機には悪いが、時間稼ぎに徹してもらう」
6対1という戦力差が彼らにはあるのだ、一機減ったとしても誤差の内に入る。それに傭兵を見定めるのが今回の目的であり、何もさせずに封殺するというのは趣旨に反する。
「射撃戦の腕を見た後は弾切れになったのを見計らい近接戦に移行する、まあ前座になって貰おう」
『隊長、相手は只者じゃないですよ!』
「3番機が押されているようですが」
「中々やるな、アイツはパイロットの中でもそれなりの腕なんだが」
上空を飛ぶ治安維持隊のUAVは向きを変え、三番機の方へと飛んでいく。一山いくらの傭兵というわけではなさそうだと彼らは認識し、機関砲を構え直した。
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「なんだこの動作パターン、見たことないぞ!」
三番機のパイロットは狼狽えていた、それは距離を取っての射撃戦という状況で完全に押し負けているからだ。地形の把握やこれまで行って来た訓練の積み重ねを考えると、そこらの傭兵が治安維持隊に敵うわけがない。
『三番機に赤玉三発、左腕被弾、破壊判定です』
まだ演習は始まったばかりで、ここまで接近されるのは想定外だった。遮蔽物の確保を優先しつつ、身を隠そうとした傭兵を撃つというのが今回の作戦だったからだ。
しかし目の前の相手は思い切りが良すぎる上に、その判断を有効打に変える技量も持ち合わせている。
「嘘だろ、当たったのか」
身を出したのは一瞬の筈だが、カメラを操作して肩を見るとペイント弾の塗料が装甲に張り付いている。背の低い遮蔽を使うためには姿勢を無理矢理低くする必要があり、直立している時と比べて機動力が大きく下がるのを相手は知っているのだ。
「射撃戦でここまで差が出るのか、隊員と撃ち合ってる時ですらこんな…」
極度の緊張で彼の視界は狭まり、手に持つ20mm機関砲のスコープにばかり意識が集中している。結果それが仇となり、段々と大きくなる人型の歩行音に気がつくのが遅れてしまった。
「近いッ!」
その場を離れようとしたのも束の間、側面に何発も被弾する。しかしそれは単純にばら撒かれたものではなく、正確に数発ずつ発射され弱点を捉えていた。
「嘘だろ」
参加している機体と武装の全てに取り付けられたカメラにて運営は損害を確認、UAVによる上空からの観測も合わせて判断を下す。
『三番機が背部動力源に被弾、致命打、撃破判定です』
「…移動が早い、足は故障してたって話はブラフだったのか」
『三番機は機体を駐機状態にして待機して下さい、演習終了まで操縦は行えません』
「隊長、厄介な相手を呼び寄せましたね」
機体をその場に座らせ、火器管制システムの電源を切る。だがそれでも尚近付く足音を不審に思いカメラを向けると、傭兵の機体がすぐ横にまで迫っていた。
『三番機のパイロット、聞こえるか』
「…なんです?」
『ちょいと用があってな、それ借りてくぞ』
そう言って地面に置いたままの20mm機関砲を指差し、機体に取り付けられていた予備弾倉も取り外しては自らの機体に載せ替えた。
「ちょっ!それアリですか?!」
『ルールには駄目と書いてなかったからな、壊さないように気をつける』
そう言って両手に銃を構え、颯爽と居なくなる。負けて身ぐるみを剥がされたとあっては、演習後に隊長から何を言われるか分からない。無力化されて武装を鹵獲されるというのは対ゲリラにおいてあってはならないことだ、お叱りの言葉で済む筈がない。
「もしかして弾切れを狙う作戦が今ので台無しに…?」
3番機のパイロットは頭を抱えたが、そこに隊長からの無線が入る。本来なら演習中は全員が敵同士であり通信は不可ということになっているが、そんなことは建前に過ぎない。
『どうだ、奴の損傷は』
「有効打ゼロです、しかも火力が倍になりましたのでお気をつけ下さい」
『…は?』
その数秒後、演習場に2機分の発砲音が響いた。
戦闘パートに再突入、挿絵も用意してありますよ〜!
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