第十話 反撃
多脚車両に乗り込んだ二人はハッチを閉め、即座に座席へと移る。ミナミは無人機を介した遠隔操作から直接操作へと切り替え、傭兵に操作権を移譲した。
『切り替えました』
「確認した、アイハブコントロール!」
脳波制御は良好だ、六本足の兵器に対応できる傭兵の脳がどうなっているのかは気になるところだが。砲塔上部のカメラを回して周囲を確認し、UAVとの偵察情報と照らし合わせる。
「主砲はレールガンから高効率火薬式の40mm砲に換装してあるんで威力は落ちる、だが旧式の鋼板なんざ簡単にブチ抜ける性能はあるさ」
『発砲炎が目立つのでは?』
「この混戦で俺らに注目出来る人間は少ない、サッサと終わらせねぇと二週間なんてあっという間だぞ!」
殴り合う人型兵器に砲身を向け、町側の機体を避けて砲弾を放つ。相手は一瞬のうちに脚部を破壊され、建物を潰しながら倒れ込んだ。
「やりぃ!」
『もう一機居ます、建物の向こう側』
「予測地点を視界に重ねてくれ」
『もうやってますよ』
脚部を縮めるように動かした後、速度を溜めてから一気に跳躍する。崩れた建物の瓦礫を飛び越え、UAVからの情報を元に路地へ向けて発砲した。
「2機目!」
40mm砲がそこらの建物を貫通出来ない訳がない、建物数軒を超えて見えない先の敵機を撃破した。そこら中に居るゲリラが車両に向かって銃を向けるが、圧倒的な機動性により照準器の先から巨大な筈の車体は居なくなる。
「普段なら自殺行為だが旧式相手なら七面鳥撃ちだな、大通りに出る前に敵機を片付けるぞ」
『こんなに目立って大丈夫なんですか?』
「大会が中止になる方が問題だろ」
多脚車両の強みは異次元の姿勢制御能力であり、走っている最中は勿論跳躍中ですら射撃精度が衰えない。人工筋肉による柔軟な動作がそれを可能にしており、キャタピラとは違った無茶が出来る。
「瓦礫が多すぎる、タイヤから歩行に切り替えるぞ」
『やっぱり管制制御が無いと揺れますねぇ』
「カンナギと比べんなって」
六本の足を使って瓦礫の上もなんのその、歩行でさえそれなりの速度が出せるのだ。
『UAVによると敵が撤退しつつあるようです、大型車両が町の近くに待機しており奪取した人型兵器を載せていると』
「早くも撤収かよ、残ってる奴らは殿か?」
市街地から逃げようとする敵機を背後から砲撃、胴体背面の動力系を撃ち抜けば動作は止まる。しかし漏れ出た燃料が空気中で混合、電装品から飛び出た火花で引火した。
「あーら大爆発」
『トバリさんから連絡来てますよ、繋ぎますね』
多脚車両はミナミの遠隔操作によって道すがら格納庫へと向かうゲリラを蹴散らしてから来たらしく、そのお陰でトバリは無事とのことだ。彼女がこの状況について傭兵に説明を求めるのは当然と言って良いだろう、多脚が急に飛び出していったのだから。
「な、何が起きてるんですかコレはぁ!」
「ゲリラの襲撃だ、治安維持隊に加勢してる」
「えっ」
「それよりもだ、なんか町の外にデカブツが居るらしいぞ」
状況が飲み込めていないトバリに大型車両のことを聞と、この街ではその存在を知らぬ者は居ないらしい。
「でかぶつ…陸上艦!ゲリラはそんなものまで持ち出して来てるんですか?!」
「陸上艦ってなんだよ」
「ゲリラの移動拠点です、なんでも開拓時に持ち込まれた超大型車両を改造したものだとか…」
テラフォーミング用の移動施設を転用したということだろうか、上空から見る限り大きさはかなりのものだ。本来なら上部にはクレーンなどが装備されている筈だが、何処からか用意してきた砲台が乗っかっている。
「コイツの相手は無理だな」
『やれる範囲で手を出しましょうか』
ーーー
ーー
ー
あれから数時間、町の兵士達は被害の把握と民間人の救助を行なっていた。傭兵達は瓦礫掃除を点数稼ぎに手伝いながら、既に消費した分の燃料を譲り受ける約束を取り付けていた。
「傭兵殿、今日は助かった」
「殿って何…アンタか、腕は大丈夫かよ」
「礼も何も出来ずにすまない」
『対価は頂きましたから問題ありません、撃破した機体から部品を譲って貰う手筈も整えてあります』
またもやゴミ置き場として複数の人型兵器が運び込まれたトバリの倉庫だったが、今度は部品を引っこ抜き放題だ。持ち主がゲリラに殺されているため、所有権が宙に浮いたところを何機か譲って貰った。
「トバリの交渉術に感謝だな」
『我々は余所者ですからね』
代表者として街に住む人間が立てるというのは大きい、今の傭兵に信用出来る要素というのは少ないからだ。
「その、肩の怪我は大丈夫だろうか」
「怪我?」
「私が撃たれた後、奴らと代わりに戦ってくれていただろう。防弾装備があるとはいえ…」
このパイロットと会う前に撃たれたものだが、どうやらあの時の戦闘で被弾したのだと勘違いしているようだ。肩に一発当たっただけだが、案外目立っていたらしい。
「…ホントだな、滅茶苦茶当たってるわ」
『遭遇戦ですからね、装備無しなら死んでます』
「あーあー、結構凹んじまったな」
ここは彼の心に訴えかけて借りを大きくしておこうと考えた二人は、わざとらしく被害の確認をし始めた。
『私もボディに何発か被弾しています』
「やっぱりあの状況じゃあな、アンタは大丈夫か?」
「私は大丈夫だ、その、守ってもらったからな」
傭兵の思惑とは違い、なんだかもじもじとし始めた。押しが足りなかったと判断し、ミナミとアイコンタクトを済ませた後でヘルメットのロックを解除した。
「脱ぐのも久しぶりだな、ミナミどうなってる?」
『怪我は無さそうですが』
「わっ!?」
彼は血でも流しておいた方が良かったかと思ったが、何故か大きく反応した兵士の方を見ると顔を赤らめて手は顔に当てられている。脳波制御の精度を高めるために行われた後頭部の施術痕が痛々しいが、それでも中々凛々しい顔付きと言えるだろう。
「一体どうしたんだよ」
『マスター、彼に何か?』
「彼?」
ミナミの言葉に兵士が反応したかと思えば、数秒固まった後に腕を上下に振り回した。
「わた、私は女だッ!」
そう言われてよく見ると、中性的とはいえ目元は女性のものだ。体のラインも分厚いパイロットスーツで隠されており、防塵マスクで声もくぐもっていたのが勘違いの原因だろうか。
「怪我が無いならいい、受けた恩についてはだな!また後ほど話させてもらう!!」
立ち上がって何処かに行ってしまう彼女を見送りつつ、脱いだヘルメットを被る。戦闘中だったこともあって気にしていなかったが、よくよく考えると服の色くらいしか見ていなかった。
『…やっちゃいました、申し訳ないです』
「俺も分かってなかったから気にするな、それにしてもミスったな」
瓦礫の上に座り、暗くなってきた空を見る。なんだか騒がしい場所に来てしまったなと思いつつ、冷え込む前に倉庫へ帰ることにした。ゲリラに大会に制服女、なんとも退屈しない毎日だ。
キャラの立ち絵に関しては妹が描いてくれるので、そのうち追加されてると思います。
ロボは俺!人間は妹!最強タッグだな!!