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世界最強の元騎士と  作者: ユタニ


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59.タイダルの傭兵達(6)

ヨダ視点です。


ヨダがエスカリオットに初めて会ったのは、ヨダが23才、エスカリオットが18才の時。


「こんなに若いのが隊長で思う所はあるだろうが、よろしく頼む」

ヨダが副隊長を努める隊に衆目美麗の貴族然とした若者が隊長として入ってきたのだった。


13才から少年兵として戦場に立つエスカリオットの強さは聞き及んではいたが、優雅な所作で口数の少ない若者からは、とてもそんな強さは感じられなかった。

思えば、エスカリオットの底知れぬ強さは成長途中で、この時はまだ幼い頃から貴族として培った優雅な外面に何とか隠せるものだったのだ。


エスカリオットが配属された時のヨダ達の隊は一つの大きな戦線が終わり、休息の為に後方に下がっていた所で、次の命令が下るまでの準備と鍛練の期間だった。そんな中でのエスカリオットは優雅さの方が目立つ。

前の戦線で戦死した前隊長を偲ぶ者も多く、隊の中ではエスカリオットへの反発が起こる。ヨダは宥めるのに苦労したのを覚えている。


当のエスカリオットは自分への反発に対して、どこ吹く風といった様子で、その尊大とも取れる態度にますます反感が強まる、という悪循環でもあった。


「もう少し隊員と歩み寄れないか」

そう提案したヨダにエスカリオットは、

「心配しなくても、戦では俺さえ居ればいい」

と返した。

これにはヨダも憤慨した。

「あんた一人で戦う訳じゃないんだ!皆死ぬぞ!」

と怒鳴り付ける事になった。


この後、次の戦線でエスカリオットが言った言葉の意味を完全に理解して納得する事になるのだが、この時のヨダはまだエスカリオットの強さを知らない。


そんな中、隊で唯一、最初からエスカリオットに懐いたのは傭兵上がりのヘイブンという若い騎士だ。

ヘイブンは流しの傭兵上がりというその経歴もさることながら、種族もウェアウルフの一族というちょっと変わった奴で、でも明るく真っ直ぐで涙もろい気質は隊の皆から愛されているような若者だった。


そんなヘイブンは「隊長は今まで会った中で一番強いです」と断言して、何かとエスカリオットにまとわりついて手合わせを乞う。

エスカリオットは面倒くさそうに適当に相手をしていた。


2ヶ月ほどのギスギスした準備期間の後、ヨダ達は文字通り泥沼と化していた、沼地での戦線に駆り出される。

伝え聞く戦況は悪く隊の指揮はバラバラで、これは自分の命もここまでかもな、と思いながらの出兵だったのだが、ヨダはこの戦でエスカリオットの鮮烈な姿を目にして助かる事になる。


この戦線の初戦で隊は窮地に陥った。

エスカリオットの言うことなど無視する隊員が多い中、隊は指揮が上手く通らず、ヨダ達は崖を背にして取り残され、敵に囲まれたのだ。


これは、なぶり殺しだな。

死を覚悟して、こうなれば一人でも多くの敵を道連れに……と悲愴な覚悟を決める隊員達にエスカリオットは「邪魔だけするな」と言い残すと一人で囲みへと向かった。


そこからはまさに、鬼神の働きだ。


対峙する敵を全て一瞬で屠り、向かってくるものは魔法であろうと何であろうと全て斬った。

殺気と間合いが凄すぎて、手助けなんてしようがない。

頻繁に手合わせをしていたヘイブンだけが、狼へと姿を変えてエスカリオットの背後を守る。

「ヘイブン!下がれ、死ぬぞっ」

ヨダはエスカリオットが怒鳴るのを初めて聞いた。


エスカリオットは己の身は全く省みずに剣を振り、その様子は死地を求めているようにも見えた。


その内に、エスカリオットの鬼のような強さに囲んでいた敵が怯む。囲みが崩れてヨダ達は何とか脱出した。

エスカリオットとヘイブンは隊の安全が確保出来るまでその後方で敵を屠り続けた。



これ以降、ヨダも含めて隊員達はエスカリオットへの態度を完全に改める。

元々、平民上がりや下位貴族出身の騎士が多かった隊は粗野だが素直で単純な奴らばっかりだったのだ。

「隊長、隊長」とエスカリオットの後をついて回り、作戦の合間に手合わせを乞う。

エスカリオットは面倒くさそうにしながらも相手をしてくれた。


そこから4年、エスカリオットと共に皆で戦った。

これも後から知ったのだが、鬼神のごとき働きをするエスカリオットは、その寡黙さもあって味方からも気味悪がられ色々な隊を転々としていて、一つの隊にこんなに長く留まっていたのは初めてだったらしい。


長く共に過ごす内に、エスカリオットは夜に野営地で火を囲むような時には穏やかに笑うようになる。

無口で無表情は相変わらずだったが、たまにヨダを揶揄かうようにもなった。

隊の皆とは、いつしか固い友情のようなものが芽生えていて、エスカリオットはいつでも自分より隊員達の命を優先し、隊員達はそんなエスカリオットを敬愛した。


戦況の悪化が続く中、最初の3年間は、激戦に続く激戦にも関わらず、エスカリオットを抱える隊の被害は小さなものだったのだが、戦争の最後の1年は特にひどい戦線が続き、死人や怪我人ばかりになる。


見送る人数が増え、毎日が暗く、虚ろな表情で過ごす者が多くなった。

元々淡白だったエスカリオットは、この1年はほとんど表情がなく、憑かれたように最前線で戦っていた。




そして終戦。

ほっとしたのは束の間だった。



ヨダは絶望的な気持ちで、エスカリオットが戦利品として生きたままハン国に送られると聞いた。









***


そのエスカリオットが今、明らかな怒気をヨダとビーツとマーカスに向けている。

終戦から6年経ったハン国の、王都の外れの打ち捨てられた洋館の庭で。


つい先ほどは、懐かしいとすら思ったエスカリオットの殺気を感じた所で、そのすぐ後にはヨダがエスカリオットに屈辱的な奴隷生活を送らせていると信じていた白い髪の少女を大切そうに抱き締めて、ヨダは度肝を抜かれた。


そもそも、エスカリオットがシャイナと呼ぶあの少女は何なのだろうか。


洋館から出てきたドーソンが投げた水晶玉のような魔道具が爆発した時、ヨダは自分の周りに強力な防御魔法が一瞬でかけられたのを感じたのだが、あれはどうやらシャイナが展開したもののようだ。


使われた魔法は“障壁”で、効果は一度きりだがあらゆる攻撃を防ぐ防御魔法の最上位魔法だ。誰でも使えるものではないし、あんな一瞬で展開するのは見たことがない。


おまけにヨダは出来るだけ紳士的にシャイナを拐ったつもりだったのだが、エスカリオットへのシャイナの説明を聞くに、シャイナは進んで拐われていたようだ。

そう言われると、馬車での少女に怯えはなく落ち着き払っていた。その時は、エスカリオットを奴隷にして側に置くだけあって法外の図太さがあるのだろうと思っていたのだが、あれはいつでも逃げれるという所からの余裕だったのだ。


障壁の展開なんて、少なくともBランクの魔法使いのはずだ。呪文なしの無詠唱でも何らかの魔法は使えるだろうから、確かに逃げようと思えば逃げれたのだろう。


俺達は、何かとんでもない思い違いをしていたんじゃないか。


怒れるエスカリオットを前にヨダは途方に暮れる。

目の前には、怒っているが明らかに健康的で生気のある顔をしているかつての隊長がいて、ひたすらに懐かしく、その様子に深く安堵してしまう。

自分達に対して怒るエスカリオットは初めてで、その人間味溢れるエスカリオットを嬉しくも感じてしまい、相手は怒っているというのに考えは全然まとまらない。


「たいちょお」

ビーツに至っては、涙声だ。

収拾はつきそうになかった。




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