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4話 世界最強の購入(4)


縛る縛らないの弁解を一通りした後、シャイナが昼食の片付けをしてお茶を入れて戻ってくるとエスカリオットは椅子に座ったままうとうとしていた。


「エスカリオットさーん、昼間から寝ないでくださいよ。お茶は?要らないですか?」


「要らない。眠い」

エスカリオットはそれだけ言うとまた目を閉じた。


「ちょっと、えっ、ほんとに寝るの?」

五月蝿いな、というように目が少し開く。


「ああ、風呂は久しぶりだった。眠い」

声がくぐもって色っぽい。


「えぇ、じゃあせめて布団で寝てください」

「あの、檻の中か?ならクッションをくれ」

「檻?檻って何です?」

「寝室の檻、俺用じゃないのか?」

「ああ、違いますよ、あれは私の捕獲用です。人間を檻に入れる趣味はありませんよ」


「……そうか。」

気のせいかエスカリオットが少し残念そうだ。

5年の剣闘士奴隷生活で、鉄格子が落ち着くのだろうか。

いやいや、そんな訳ないだろう。


「エスカリオットさんはそこのソファか、床に布団を敷いて寝てもらいます」


エスカリオットはむすっとしながらダイニングのソファをちらりと見る。

「なら、シャイナのベッドがいい」


「何言ってるんですか、ダメです。あれは私のベッドです」

「広かったから2人で寝れるだろう」


「いやいやいや、エスカリオットさん。いくらあなたが元貴族で元騎士だろうと、麗らかな女の子と2人で同じベッドで寝たらきっと我慢出来ませんよ、ダメです」


エスカリオットは眠たげなとろんとした目でじっとシャイナを見た。そして言った。


「大丈夫だ」


むかっ

じっくり考えてから言いやがった。


「確かにペラペラですけどね、爽やかですけどね、あ、ちょっと、だからここで寝ないでー」

エスカリオットはシャイナを無視すると右腕を体に巻き付けてこくりこくりと本格的に椅子で寝だした。


5年の剣闘士生活で座ったまま寝れるようだ。


そこからのエスカリオットはシャイナがつつこうが引っ張ろうがびくともしない。

わあわあ言っても反応はない。


「マジで寝てる」


しょうがないのでシャイナは椅子の横に毛布を敷くとエスカリオットを椅子ごと床に倒した。

ゴンッと鈍い音がするが、エスカリオットは目を覚まさずに熟睡している。


「ふう」

椅子を戻して、シャイナは一息ついた。

床で丸まって眠るエスカリオットを見る。

しばらく起きなさそうだ。もしかしたら明日の朝まで起きないかもしれない。


うーむ、出来れば今日中に左腕を何とかしたかったのだがこれは諦めるしかないようだ。

顔が窶れているし、すごい臭いだったし、髪の毛はごわごわのべとべとだったし、剣闘士生活は苦しかった筈だ。

5日後の満月までに体調は万全に戻してもらう必要もある。こうなったらゆっくりしてもらおう。


シャイナはソファからクッションを持って来てエスカリオットの頭に当ててやり、毛布もかけてやった。


お昼からは1階の薬草店を開けて商売に勤しむ。シャイナの薬草や錬金術で作る塗り薬や疲労回復のポーションは人気だ。

大口の得意先も複数ある。

王都に出てきて3年、最初は間借りしてた店も今ではこんなに大きくなった。

魔法使いとしてギルドから受けていた依頼も最近は数を減らして、店に専念出来るようになっている。


やっと念願の自分の店を持てたのだ。次の満月で全てを失いたくはない。今回のエスカリオット購入の代金で蓄えはほとんど使ってしまったがしょうがない。

また稼げばいいのだ。



昼から夜までくるくる働いて店を閉め、2階へと戻って来るとエスカリオットはまだ眠っていた。


よっぽど疲れが溜まっていたようだ、まあ無理もない。


「貴族様が奴隷かあ……」

シャイナはそっとエスカリオットの横にしゃがんだ。

裸足の足が毛布から飛び出ている。足の甲だけでも幾つかの傷痕が見える。腕や足、胴体も傷痕だらけだった。

痛々しい、というよりは騎士の勲章という感じの傷痕ではあるが全てが騎士の時代に付いた傷ではないだろう。


たくさん、苦労したんだろうな、と思う。苦労、なんて言葉で片付けられないかもしれない。

首輪の仕置きは本気で嫌そうだった。

本気で嫌だという事は、された事があるという事だ。今朝から今に至るまでエスカリオットは概ね素直だったから、命令を聞かなくて仕置きされたのではなく面白半分で仕置きされたのだろうか。闘技場の支配人のゼントは嗜虐趣味があるようには感じられなかったが。


洗って少し艶の出た黒髪をかき揚げてみる。

黒豹を撫でている気分になる。

次の満月までの短い付き合いだが、この家でゆったりと過ごしてもらえればと思う。


しばらく眠るエスカリオットを見てからシャイナは夕食の支度をした。


昼のスープを温めて、鶏肉を香ばしく焼く。鶏肉の横でキノコ炒めも作り、パンにはチーズを乗せて焼いた。


食事の匂いで起きたりするかなと思っていたのだが、エスカリオットは起きなかった。


「ううむ。これは朝までコースかしらね」


しょうがないからエスカリオットの側でその寝顔を見ながら1人で夕食にする。


シャイナはいちおうエスカリオットの分の夕食をテーブルに置いたままにして、風呂に入り寝室のダブルサイズのベッドで眠りに落ちた。






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