37.国境の町の異変(3)
ゴーレムの騎士2体に備えて、シャイナは黒炎の蛇を喚び出した。
シャイナは剣はからっきしだ。これとマックスに頑張ってもらって、自分はドーソンに攻撃する機会を伺おうと決める。
その時、シャイナはエスカリオットのゴーレムの持っている剣が異様なのに気付いた。
それは、とても美しい剣だった。柄も刀身も真っ黒で、鍔がなく柄から刀身へと真っ直ぐ伸びている。
あれは……
「エスカリオットさん!その剣と打ち合ってはダメです!」
シャイナの声に、エスカリオットが真っ黒な剣より身をかわす。
真っ黒な剣は地面を打ち、ブウン、と不気味な音を立てて触れた草や石は簡単に粉々になった。
マジかよ、なんて物を、よりによって、エスカリオットさんのゴーレムに持たせてるんだ!?
粉々になった地面を見てシャイナは舌打ちする。
「魔剣か」
エスカリオットが平然と呟く。
「黒剣、菊宗光、です」
「よく知ってるねえ」
ドーソンが嬉しそうだ。
「タイダル国の所有でしたよね、敗戦後は行方不明だと聞いてましたが」
「僕が所有していた」
「エスカリオットさんのゴーレムに、菊宗光は卑怯ですよ!」
「こうしないと、ゴーレムが本物には勝てないじゃないか」
ドーソンとのやり取りの間にも、エスカリオットのゴーレムは、エスカリオットを追い詰めて行く、一度剣がぶつかり合い、エスカリオットの剣は、チッと音を立ててひしゃげた。
「しょうがありませんね、マックスさん、予定変更です」
シャイナは、黒炎の蛇をもう一匹喚び出して、マックスと自分にシールドの魔法も二重にかける。
「あの2体、何とか止めて下さいね」
「えっ、マジか?この蛇って味方だよな!?」
迫るゴーレム2体と、自分を囲む黒い炎の蛇2匹に慌てるマックスは無視して、シャイナはエスカリオットのゴーレムへと向かった。
後ろで、マックスがゴーレムの騎士とやり合う音が聞こえる。しばらくは大丈夫そうだ、さすが傭兵団長。
「来い、エクスカリバー」
そしてシャイナは右手を差し出して、命じた。
きんっ、と涼やかな音がして、シャイナの右手に優雅なひと振りの剣が現れる。
よし、ちゃんと来た!
現れたエクスカリバーに満足したシャイナだが、目の前には、あっという間にエスカリオットのゴーレムが来ていた。
えっ、はや、
菊宗光が降りおろされる。
それを防ぐ術はシャイナには無かった。
これは、即死かな。
目を見開いて、意外に冷静にそんな事を考える。
がきんっと、音がして、エクスカリバーがそれを止めた。
反応したのはシャイナではなかった。
シャイナの右手のエクスカリバーだ。
受け止めた衝撃で後ろに吹っ飛びながら、シャイナは自分の打ち直したエクスカリバーの出来に満足する。
主を自主的に守るなんて、素晴らしい魔剣になってるじゃないか。
地面に落ちる衝撃と共に、電撃が体を貫いた。
「いたあっっっ」
ビリビリと体が痺れる。
エスカリオットが左腕の電撃を使ったようだ。
ドーソンとゴーレムの動きも止まっているが、シャイナとマックスも踞っている。
「シャイナ、貸せ」
エスカリオットがやって来て、シャイナからエクスカリバーを受けとると、シャツのボタンを幾つか外す。
「俺の側にいろ」
シャイナはすぐに理解して、狼へと姿を変えた。エスカリオットはシャイナをシャツの中へ入れた。
エスカリオットのゴーレムがいち早く、痺れから立ち直る。さすが、エスカリオットのゴーレム。
エスカリオットとゴーレムの剣の応酬が始まる。
シャイナはエスカリオットのシャツから顔だけ出して、周囲を伺う。
ドーソンと2体のゴーレム、マックスも、電撃の痺れからまだ動けないようだ。シャイナは口が動くようになってきた。
シャイナは黒炎の蛇を、マックスに覆い被さるように配置した。
「マックスさん!致命傷を避けてくださいね!」
そして一応、マックスに注意だけすると、エクスカリバーに命じた。
「天使の光弓!」
途端に、空き地全体に無数の輝く矢が撃ち込まれた。エクスカリバーを持つエスカリオットだけを避けて、一分の隙もなく降り注ぐ。
辺りは目映い光に包まれた。
光が収まった時、立っていたのは、エスカリオットとそのゴーレムに、ドーソンだけだった。
「くそっ、聖剣、エクスカリバーだと?貴様、何者だ?ラシーンの者ではあるようだな?そして、あの傭兵は仲間だろう?巻き込むか普通」
ローブが裂け、手足から血を流しながら、それでもドーソンは立っていた。
「確かに、これはあなたが打ち直した事になってる、聖剣エクスカリバーですよ、私はしがないAランクの魔法使いです」
「は?Aランク?ぐはっ、」
ドーソンは喉を押さえると、血を吐いた。
ぐえっ、げほっ、と激しく咳き込んで膝を付く。
「狐火で喉を焼きました。呪文を唱えられると厄介そうなので」
シャイナの説明に、エスカリオットが何とも言えない表情をした。
「シャイナ、本当にお前は恐ろしいな」
言いながら、エスカリオットは、自身のゴーレムを難なく壊す。
光の矢のダメージを受けたゴーレムは、いくら魔剣があったとしても、もはやエスカリオットの敵ではない。
「ドーソンをお願いしますね、私はマックスさんを見てきます」
シャイナはぴょんとエスカリオットから飛び降りると、マックスの元へと向かった。
「良かった!息がある、無事ですね!」
「いや……無事なのか?これ」
手足と、脇腹に矢が貫通したようだ、マックスの顔色は悪く息が荒い。
「喋る元気もあるじゃないですか」
「あの蛇が、光の矢の盾になったんだ」
「すぐに治します、彼のものの傷を癒やせ」
シャイナは急いで治癒魔法をかけた。
マックスの体が光に包まれ、傷が癒えていく。
「……凄まじいな、一瞬で治った」
マックスは信じられない、と自分の体を見回しながら半身を起こす。
「私、治癒魔法が一番得意なので」
えへん、とシャイナはお座りをして胸をはる。
座り込んだマックスの前で、胸を張る小さな狼のシャイナ。完全に、主人に誉めてもらうのを待ってる犬のようだ。
マックスは、ついついシャイナの頭へと手を伸ばした。
「マックス、シャイナに触るな」
エスカリオットの低い声が響いた。




