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世界最強の元騎士と  作者: ユタニ


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35/85

35.国境の町の異変(1)


「何だか、注目されてますね、エスカリオットさん」

シャイナとエスカリオットは、国境の町、エラストリアに着いていた。


エラストリアとラシーン公国の間に広がる国境の森で、大量の魔物が発生している件で、王家より依頼を受けてやって来たのだ。


シャイナ達より、数日程前には、王家が派遣した騎士団と傭兵団もこちらに到着していて、シャイナは今、その駐屯地となっている町の教会の前の広場に来ていた。


広場にはテントが立ち並び、救護所には既に負傷者も居る。


火傷の負傷者が多いな。

シャイナは救護所の怪我人達を見てそう思う。


救護所を過ぎて、傭兵団長のマックスが居るらしい、奥の大きなテントに向かいながら、シャイナは皆の視線に気付いたのだった。


「そうか?」

「はい、しかも、エスカリオットさんじゃなくて、私に視線を感じます」

シャイナがそう言うと、エスカリオットはしげしげとシャイナを見た。


「絶世の美女ではないと思うが……」

「煩いなあ、知ってますよ!何も美貌で注目されてるなんて思ってませんよ!」

何なら、シャイナよりエスカリオットの方が美しい。


「そう卑屈になるな、なかなか愛らしい容姿だ」

「ありがとうございますう」

むすっとしながら、シャイナは聞き耳を立ててみる。



「あれだろ?あのちっこいの、Aランク魔法使いらしいぞ」

「エスカリオットがメロメロの……?」

「あれに?」

「嘘だろう?」

「剣闘士奴隷が長過ぎて、変になったんじゃないか?」

「あー、まあ、癒しを求めるなら……あり、か?」

「いやいや、癒してもらうなら、もっと、こう、なあ?」

「そうだよな……」

「まあ、でもAランクらしいぞ」

「Aランクねえ、本当か?」

「見えねえなあ」

「見えねえよなあ」



……くっ。

聞き耳、立てなきゃ良かった。


いたたまれない視線の中、目当てのテントが見えてくる。

駐屯地の奥まった所は、傭兵よりも騎士の数が多い。


「そういえば、エスカリオットさんに決闘をしてきた騎士も居るんですか?」

シャイナは自然と低い声になった。


「シャイナ、目が据わっているぞ。聞いてどうする」

「気になっただけです」

ぐるるる、と喉が鳴った。


「落ち着け、唸り声も出ている。服が切られただけだ」

「そうですけどね」

「形ばかりの謝罪も受けた、俺は気にしていない。もう着くぞ、マックスが待ってる」


エスカリオットが前方を指差す。マックスがテントの前で待ち構えていた。

シャイナは唸り声を引っ込めた。




「シャイナ殿!」

マックスがぶんぶんと手を振って歓迎してくれる。


「お久しぶりです、マックスさん」

「本当だな、エスカリオットとは傭兵団で顔を合わせていたが、あなたとは会えず仕舞いだったからな」

マックスが、ぎゅうっとシャイナの手を握る。


「シャイナ殿がAランク魔法使いだったとは、本当に何から何まで失礼した。エスカリオットが惚れる訳だ、俺は深く納得している。

奴隷の首輪の形状は、ひょっとして、シャイナ殿が自ら変えたのかな?素晴らしいな、あれは、ミスリルだよな?

まさかとは思うが、エスカリオットの義手もシャイナ殿が作ったのだろうか?錬金術の心得が?」

握りながら、マックスが矢継ぎ早に聞いてくる。


そうだった、この人、熱い人だった。


「こほん、首輪は確かに私が変えましたよ。あんな不粋な物、エスカリオットさんには似合いませんからね」

「そこは、激しく同感だ!」

「義手は、物は購入して、体との結合は私の方でしました。錬金術は使えますが、うちには大きな釜はありせんので」

「なるほど、結合だけでも大したものだ。傭兵団へのポーションも多くをシャイナ殿の店で購入していると聞いた。こんなに世話になっていた人に対して、初対面では本当に失礼をした。今、詫びよう、すまない」


マックスの声はばっちり大きいので、周囲の傭兵と騎士達が、シャイナを見る目を変える。


「Aランクは本当らしいぞ」という囁きが聞こえてくる。


ええ!ええ!

そちら、本当ですよ!


シャイナは胸を張って、テントに入った。



「これが、周辺の地図だ」

テントでは、中央のテーブルにマックスが地図を広げる。

「赤いバツは、魔物が発生している地点だ、こちら側は真っ赤だな。町への侵入も3度はあった」


「……発生地点、偏ってますね」

地図を見て、考えるまでもなく魔物の発生地点は偏っていた。

国境の森のラシーン公国側にはほとんど発生しておらず、ハン国側にばかり、赤いバツ印はある。


「そうだ、この偏りは一応、機密事項だ。地図も限られた者しか見れない。シャイナ殿の故郷はラシーンだと聞いているが」

「ええ、その通りです」


「Aランク魔法使いで、ウェアウルフの一族とは、狼のシャイナ殿はさぞかし、猛々しいのだろうなあ」

「あー、ええ、まあ、はい」

胸を張って、猛々しいとは言えないシャイナ。



「それで、明らかに偏っているが、魔物の発生は、ラシーンが仕組んでいるのか?」

エスカリオットが口を開く。

マックスは、困ったなあ、というよう頭をかいた。


「そのようにも取れる。傭兵や騎士達の中にはラシーンを疑う者も出てきた。実際に森に入っていても、偏りは感じられるからな。しかし、上の方ではそれには同調していない」


「ラシーンは、不可侵の国です。自分達の縄張りさえ荒らされなければ、他国にちょっかいはかけません」

「ああ、長い歴史の中で、ラシーン公国から他国に何か仕掛けた事はない。

ラシーンが戦争したのは、大昔、大国がラシーンを侵略しようとして相討ちの返り討ちにした時くらいだ」


「それで、大国がバラバラに別れて今の国々になったんですよね」

「そうだ、だからラシーンが仕組んでいるとは考えにくいし、考えたくはない。あそこと戦争はしたくない」

「お勧めはしませんね。私も敵に回ります。私、まあまあ強いですよ。ラシーンの狼達はもっと強いです」

マックスがちらりとエスカリオットを見る。


「俺も敵になるな」


「遠慮したいな、本当に。ラシーンは傭兵を雇わないから、俺はそちらには行けないしな。

だが、手柄をあせる貴族っていうのがいるんだよ。ここの異変を嗅ぎ付けて兵を集めているのも居るらしい」

「それは、嫌ですね。攻撃されればラシーンは手加減しませんよ」

「だよなあ……ラシーンからの郵便物も勝手に止めてるんだぜ、参ったよ」


(んんん?)

マックスの付け足しにシャイナは目を見開いた。


「郵便物を勝手に止めてるんですか?」

「ああ、兵を集めている貴族が圧力をかけてラシーンからの手紙を止めている。これが異変が起きてすぐのけっこう前からだったようで対応を検討中だ」


「対応って……迷わず謝罪でしょう。何ですかそれ、手紙待ってた人たちはめっちゃ迷惑じゃないですか!」

どおりで実家からの手紙が来なかったわけだ。

何というはた迷惑。


実家からの手紙さえ届いていれば、満月を怖がることもなかったしエスカリオットも買わなくて済んだのに。

といきり立ったところで、つきんと胸が痛む。


(エスカリオットさんを買わなくて済んだ、は違うくない?)

それは絶対に違う。

エスカリオットと出会わなかった運命なんて考えるだけで嫌だ。


「…………む、と、とにかく謝罪は必要でしょう」

トーンダウンしてシャイナは続けた。


「それはもちろんそうだ。だが、ラシーンへの疑念が晴れてもないのに謝罪は出来ないんだよ」

「そんなこと言ったって、のんびりしてたらラシーンも国として怒りますよ」

「分かってる。そういう事態にはしたくない。だから出来るだけ早くに解決したいんだ」

マックスがため息と共に疲れた様子で言う。


考えてみるとマックスはしがない中間管理職だ。謝罪をする決定権もなければ、勝手に郵便物を止め兵を集めている貴族を止めるような力もないのだろう。


シャイナはマックス相手に怒ってしまったことを反省して解決策について考えながら地図を見た。


「……まずはこの特に真っ赤な部分に明日にでも行ってみましょうか。魔物が出てくる裂け目とか、呼び寄せるアイテムみたいな物があるのかもしれません」

地図上のバツが特に多い部分を示しながら提案する。


「簡単に言うが、近付けるかは謎だぞ、そこはラシーンとの森の境の最奥で、辿り着くまでの魔物も一番多い。出てくる魔物はほとんどヒトカゲだ、なかなか強い」

マックスの言葉にエスカリオットの眉がぴくりと動く。


「ヒトカゲかあ……私の黒炎もつかな。まあ、でも行ってみましょう、エスカリオットさん」

「ああ」


「ちょっと待て、2人で行くのか?」

マックスが慌てる。


「ええ、その方が身軽です」

「いやいや、ヒトカゲの巣窟だぞ、隊を1つ付ける」


「足手まといだ」

「足手まといです」


シャイナとエスカリオットの言葉が被った。


「何だと?」

「マックスさん、私はAランク魔法使いで、エスカリオットさんはエスカリオットさんです。2人なら、現場へ行って手に負えなくても何とか帰っては来れるでしょうが、他の人の面倒は見切れません。この最奥の現場の確認は必要でしょう?」

シャイナの言葉にマックスは悔しそうに黙った。


「……なら、俺だけ連れて行け」


シャイナは、ちらりとエスカリオットを見る。


「マックスなら、足手まといにはならないだろう」

エスカリオットのお墨付きをもらって、マックスが嬉しそうになる。


「では、この3人で明日は最奥を目指しましょう」

シャイナはそう決め、翌朝、3人は明け方に出発した。





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