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世界最強の元騎士と  作者: ユタニ


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29話 王宮からの招待(2)


「えっ、けん?」

シャイナは、ぽかんとしながら繰り返す。


「そんなもの、申請していない」

侍従にそう告げたのは、いつの間にか背後に来ていたエスカリオットだった。

明らかに面白くなさそうな顔だ。


現れたエスカリオットに、侍従は少し怖じ気づき、近衛騎士達が身を固くする。


「こ、このような許可が下りるのは、とても光栄な事でございます!」

エスカリオットに気圧されて、侍従は早くも涙目で叫ぶ。シャイナは、ちょっとエスカリオットを押して後ろに下げてあげた。


侍従の気持ちはすごくよく分かる。

シャイナも最初は怖かったもの。


「あの、えーと、でも、そもそも謁見を申請してないんです。お間違いでは?」

やんわりと否定してみた。今からでも間違いって言ってほしい。


「いいえ、間違いは御座いません。本日、今からより、陛下に直接お目にかかり、お言葉をかけていただける栄誉が与えられております!」


「えっ、今からですか?」

「はい!素晴らしく栄誉な事でございます!」


「ええぇ」

いや、栄誉って言われてもなあ……しかも今から……。


シャイナは途方に暮れた。


ラシーンの出身でウェアウルフの一族であるシャイナにとって、ハン国の国王陛下は、やんごとない高貴な人である事は分かるが、正直、忠誠心や有り難みはあまり感じてはいない。そんな事は言わないけど。


会えると聞いても、心は震えないし、嬉しくないし、畏れ多くもない。

出来れば、関わりたくない。


それに、これは……


ちらり、とエスカリオットを見る。


「体のいい、呼び出しだろう。断るのは簡単だが、どうする?」

ゆるゆるとエスカリオットから殺気が立ち上る。


侍従が、ひっと息を飲み、馬達が嘶く。

エスカリオットは馬に向かって煩いな、という顔をした。馬はさすがに小動物ではなく、愛でる対象ではないようだ。


近衛騎士達が剣の柄に手をかける。



「わお、ストップですよ!エスカリオットさん。お店の前で刃物沙汰は困ります!」

近衛騎士達の様子に、シャイナは慌ててエスカリオットを止めた。


こんな所で、近衛騎士とやり合うとか絶対止めて欲しい。いや、こんな所でなくても、止めて欲しい。私は善良で勤勉な、いち国民なのだ。


おまけに、この“国”はシャイナの店の大口の取引先でもある。騎士団にも傭兵団にもシャイナのポーションを卸しているし、王宮ともたまに取引をしている。全て商団や仲介を通してはいるが。


そんな大口取引先でもある国の国王陛下が、わざわざ会いたいと言ってくれてるなら、会ってみようではないか。


「よく分かりませんが、有難い事のようですし、謁見してみましょう、ねっ」


シャイナの取りなしに、侍従もだが、近衛騎士達にも、ほっとした雰囲気が広がった。

エスカリオットは「どこが有難いんだ?」と不満気だけど、無視する。



シャイナが侍従に服装の確認をすると、「陛下は温情溢れる方なので、平民の方の身なりまで気にされません」と言ってくれたので、とりあえず魔法使いのローブを羽織り、エスカリオットはいつもの黒シャツに生なりの綿パンで向かう事にする。


近所の人達の人だかりも出来てくる中、シャイナとエスカリオットは、王家の紋付きの馬車に乗り込んだ。





***


「呼び出される、覚えあります?私は絶対、エスカリオットさんが目当てだと思うんですけど」

やたらと豪華な馬車の中、王宮へと連れ去られながらシャイナは向かいのエスカリオットに尋ねた。


「俺だろうな」

「覚えがあるんですね?」


「覚えというか、心当たりならある。最近、傭兵団の訓練に騎士も混ざってきている」

「えっ、また決闘ですか?」


エスカリオットは以前、エスカリオットが兄の仇である騎士から、一方的な決闘をされた事があるのだ。

時には国を渡り歩く傭兵と違って、騎士は国に忠誠を誓う。前に決闘になった騎士以外にも、戦争の際のエスカリオットに怨嗟がある者は居るだろう。


「……いや、混ざってる騎士は、純粋に俺と手合わせしたい奴らだ」

「なんだ、良かった」

「そいつらを蹴散らしている」

「わあ……騎士もですか。騎士ともなると、魔法を使える人も居るでしょう」

「シャイナ、魔法の攻撃は、避けるか斬れば、そんなに脅威はない」


「でしたねー」

そうでしたね。エスカリオットさんは、炎も斬れますもんね。


「えー、絶対、それですよ。うちの騎士に何してくれてんねん、っていう呼び出しですよ、きっと」

「そうだろうか」

「そうですよ」

「だといいが」

「えっ、いいんですか?」

「それなら、傭兵団の訓練に行くのを止めればいいだけだ」

「はあ」


「シャイナ、俺はもう国の為やらで戦場に行きたくない。俺の望みは1つだ、お前の所有物である事だけだ」

「えっ」

「それが、一番楽だ」


「おっと……ここで、まさかの、ジゴロ発言ですね」

シャイナの言葉にエスカリオットがむっとする。


「傭兵団で少しは稼いでいる」

「ふふふ、そうですね。では一緒に騎士を蹴散らした事を謝って、さっさと帰りましょう」


という訳でシャイナは、のんびりと王宮に足を踏み入れた。



馬車が王宮に付き、ひょいっと降りるとそこには出迎えの文官と近衛騎士達が勢揃いしていた。

皆、シャイナの背後のエスカリオットを見ている。


シャイナも釣られて、エスカリオットを見上げる。

いつもの無表情だ。


「お待ちしておりました、こちらへ」

一番高位らしい文官が進み出て、エスカリオットに言うが、もちろん無視される。


「こちらへ」

文官は、しょうがないからシャイナに声をかけた。

「あ……ハイ」

自分まで無視するのは可哀想すぎるので、シャイナは素直に文官に従って、歩みを進めた。

エスカリオットが付いてくる。


見事な天井画のある廊下を抜け、目を見張るような巨大な魔石の横を通り、謁見の間へ向かう。


さすがに、騒ぐ訳には行かないので、シャイナは心の中で、感嘆の声を上げながら進んだ。


そして、いよいよ謁見の間の前室に辿り着く。前室に入る前には、「申し訳ありませんが、帯剣はお控えいただきます」と、エスカリオットの剣が取り上げられたが、エスカリオットはそれについては気にせずにあっさり手放した。


「陛下のお成りまで、しばらくお待ちください」

前室に入ると、恭しくそのように言われ、


「そして、シャイナ様に置かれましては、こちらの魔力を封じる腕輪をしていただく事になります」

文官は恭しい態度のまま、分厚い腕輪を差し出してきた。


これには、エスカリオットの気配が少しぴりっとなり、無言の圧に、文官の額に汗が滲みだす。


「え、謁見される方が、魔法使いの場合は皆様に付けていただいている物です。万が一にも、陛下の御身に何かあっては困りますので」

震える声で、文官が説明した。

シャイナに向かって説明しているが、意識は完全にエスカリオットに向いている。


「構いませんよ。当然の事ですよね。エスカリオットさんも、これくらいでピリピリしないで下さい」

シャイナは朗らかに言うと、ほっとしている文官から腕輪を受け取り、ぱちん、と左手首にはめた。

手首にはめたとたん、しゅるしゅると腕輪が縮んでぴたりとシャイナの腕に密着する。


……ふむ。

はめてから、シャイナは腕輪の出来を確認する。


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魔法使いの囚人用の首輪と、客人用の腕輪。一揃えをシャイナが錬金術で作って納品した。なかなかの稼ぎになった案件だ。


商団を通しての依頼で、身許は伏せたので、この人達は、この腕輪をシャイナが作った事は知らないけれど。



うん、問題ない。


腕輪の状態を確認して、シャイナは満足する。

全く、問題ない。

腕輪は正常に、そしてちゃんとシャイナの意図通りに機能している。


自分の仕事ぶりに満足していると、謁見の間からラッパが鳴り響く、準備が出来たみたいだ。


「シャイナ薬草店より、シャイナ殿、エスカリオット殿、2名です」


自分達の名前が呼ばれて、御大層な扉が、ぎいいっと開いた。





お読みいただきありがとうございます。

首輪の作成については、7話に少し出てきています。

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