27話 とある夜に
シャイナはぼんやりと目を覚ました。
部屋は真っ暗で窓の外を見ると、半分だけの月が天高く昇っている。まだ真夜中のようだ。
寝よ……。
もう一度、寝入ろうと目をつむったが、咽が渇いている事に気付いてしまう。
……ううむ。
しょうがない、水飲も。
シャイナは素足にスリッパを履くと、そうっとダイニングへの扉を開けた。
ダイニングのソファではエスカリオットが眠っているはずなので、起こさないように音を立てずに寝室から出る。
さて、キッチンへ、と思って、そこでダイニングの机に座っている影に気が付く。
「ひゃあっっ」
影に驚いて飛びす去ると、影が聞き覚えのある声で、「俺だ」と言った。
「エ、エスカリオットさん?どうしたんですか、眠れないんですか?」
心臓をばくばくさせながらよく見ると、影はエスカリオットだった。
「嫌な夢を見て、起きた」
「嫌な夢?えっ、汗びっしょりじゃないですか!?大丈夫ですか?」
暗がりの中、エスカリオットに近づき、その髪がべったりと顔にまとわりついていて、シャツも湿っている事に気が付く。
シャイナは急いで浴室まで行き、タオルとシャツの着替えを持ってきた。
「汗拭いて、着替えてください。風邪ひきますよ」
「俺は風邪はひかない」
「風邪ひかない人なんかいませんよ」
タオルをぐいぐいとエスカリオットに押し付けると、シャイナはキッチンに向かった。
「飲み物を用意しますね、着替えててくださいよ」
そう言うと、鍋に2人分ミルクを入れて、火にかける。夜、眠れないような時にはホットミルクに限る。シャイナが小さい頃は母がよく作ってくれた。
しばらくすると、グツグツし出したので、沸騰する前に火から下ろしてコップに注ぎ、蜂蜜をひと匙加えた。
出来上がったホットミルクを持って行くと、エスカリオットは着替え終わっていて、その前にホットミルクを置く。
シャイナもその向かいに座り、ホットミルクを両手で包んだ。甘く落ち着く香りがする。
エスカリオットは自分の前に置かれたホットミルクをしげしげと眺めて、口を開いた。
「シャイナ、俺は子供じゃないんだが」
「?知ってますよ」
「ここは、普通、茶か酒ではないだろうか?」
エスカリオットが可笑しそうに笑う。
「……」
エスカリオットに比べて自分がひどくお子様みたいでちょっと恥ずかしい。
「ホットミルクを出されるとは」
「嫌ならもらいますう」
「いや、いただこう」
くっくっ、と笑いながらエスカリオットはホットミルクを飲んだ。
「……甘いな」
「蜂蜜も入れてますう」
つん、としながら、シャイナはシャイナのホットミルクを飲む。
甘くて美味しい。
こんなに、美味しいではないか。
やっぱり眠れない夜はホットミルクだと思う。蜂蜜入りの。
「嫌な夢はよく見るんですか?」
ホットミルクを半分まで飲んだ所で、そう聞いてみた。
「たまに」
「そうですか、寝れそうですか?」
「どうだろうな」
「灯りをつけておいてもいいですよ」
「目をつむれば暗い」
「そら、そうですけどね」
「シャイナの隣で眠ってもいいか?」
「へっ?」
「添い寝をしてくれたら眠れると思う」
「は?えっ、あっ、狼でって事ですかね」
かああっ、と顔が熱くなるのが分かる。
「その方がいい。人の姿でも構わないが、今日は、たとえシャイナでも、隣に女がいれば手を出さない自信がない」
「たとえ私でも、ってどういう事ですか、歴とした17才の乙女ですよ」
赤くなりながらも、むっとして言い返す。
「未熟だという意味ではない」
「じゃあ、どういう意味ですか」
「俺はシャイナを大切にしている、という意味だ」
「っ…………」
シャイナは、はくはく、と言葉を失う。
今や真っ赤になったシャイナは、逃げるように狼になった。
ぱあっと光って現れた白いモフモフを、エスカリオットはさっと掴んで抱きかかえた。
シャイナが仰ぎ見ると、満足気な笑顔のエスカリオットだ。
「……まさか、嵌めましたか?」
「嵌めていない、俺の大切なシャイナ」
エスカリオットが優しく背中を撫でてくる。
ふわわわ、気持ち良い。
そして、シャイナはエスカリオットに抱き締められながら、眠りに落ちた。
半時ほど後、シャイナはまた、ぼんやりと目を覚ます。そこはシャイナの寝室のベッドの上で、隣にはぐっすり眠るエスカリオットがいた。
それを見てほっとすると、体を丸め直して、シャイナもすぐにまた眠った。
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